【自主企画参加】「ただの高校生だった俺に許嫁ができたので、溺愛してきていた姉と妹と幼馴染を振り払って恋愛します!」 第12話
榊琉那@屋根の上の猫部
第12話 余談 ~七海の一大決心~
(匠兄、どこに行ったのかなぁ?)
匠の妹の七海は、朝から姿を見せない兄の匠の事を心配していた。
許嫁である凛さんの姿も見えないから、多分、一緒に出掛けているのだろう。
どうやら、この前は皆でデートについていったから、先手を打たれたらしい。流石、凛さんだ。そして姉である柚珠は、『勇斗さんが浮気したぁ』と大騒ぎしている。でも自分では何の力にもなれないから放置している。大丈夫だと思う。多分……。
(匠兄は今、ナナの事をどう思っているんだろう?)
七海はその事を心配していた。少し前の出来事、自分が一大決心をして起こしたあの行動、一体、どう思われているのだろうか?
……………………………
その計画は、かなり前から周到に用意していた。大好きな匠兄に自分の気持ちを伝えたい。でもストレートに伝えるのは、自分にとっては無理難題だ。だからこうしたらいいのではと、無い知恵を絞りだして計画してみた。
まずは匠兄を誘うきっかけ作り。わざとらしくなく自然に誘うにはどうしたらいいか?考えた結果は、いい成績を出して、そのご褒美に匠兄と二人だけで一緒に出掛ける。うん、これなら自然だよね?まぁ、柚珠姉とユリさんの邪魔が入らないように裏工作が必要になると思うけど。流石にご褒美って言う事なら邪魔しに来ないと思う。
そう思った七海は必死になって勉強した。元々、七海は勉強が得意な方だ。ある程度の成績は残しているが、やはりインパクトがある位の成績を出さないとダメだと思って我武者羅に勉強した。そして行われた実力テストの結果は……、
何とクラスで1位だった!!
これには七海自身も驚いた。確かに手ごたえはあったと思ったが、まさかここまで結果を出せるとは思っていなかった。
(これで第一段階はクリア出来た。問題はこの次。ここが勝負所……)
「凄いぞ、ナナ。やっぱりオレの娘だけある。頑張れば東大も夢じゃないぞ!」
親父は、七海の頭をわしゃわしゃしながら撫ぜてやって大層喜んでいた。親父にとって、頭のいい七海は自慢の娘だと思っている。時々、七海は的を得ない事を言ったりもするかもだが、そんな事は関係ない。可愛いものは可愛いのだ。
「こんないい成績を取ったんだから、ご褒美が欲しいの♡」
七海は父親にお願いをする。親馬鹿親父は、どんな事でもいいと豪語する。
「一日中、匠兄を独り占めしたい。一日ずっと、匠兄と一緒にいるの!」
七海の予想外の要求に、そこにいた者一同はキョトンとした。流石にどう反応したらいいかわからなかった。
「可愛いナナのお願いだ。匠、ナナを楽しませてやってくれ。そうだ、ナナの為にお小遣いを奮発してやる。柚珠も邪魔はするなよ」
(お父さん、ありがとう……)
柚珠姉の邪魔が入るのが怖かったけど、お父さんがこう言ったのなら大丈夫だよね。ユリさんの事も、柚珠姉が釘を刺してくれれば問題なさそう。後、必要なのは勇気だけだ。
七海は計画を立ててみる。こんな感じでどうだろうかと。
まずは匠兄と一緒に映画を見て気分を盛り上げる。丁度いい具合に、人気のタレントが声優に挑戦しているという事で話題になっている、恋愛もののアニメ映画が公開中だ。これなら自然に無理なく、ご褒美という事で一緒に見てもらえるだろう。そこで盛り上がったら、次の目的地で思いを伝える。勿論、失敗が無いようにしっかりと準備する。自分が得意としている事だ。多分、大丈夫なはず。そして思いを伝えて仲良くなった二人は、一緒に食事したり買い物をしたりして、甘々に過ごしていく。あわよくば……。うん、我ながら完璧だ。これで行こう。
次の休みの日、計画を実行だ。早く来ないかなと楽しみにしている。
……………………………
「ナナ、気を付けていくんだよ。それと匠、資金使ったらちゃんと領収書を貰って来いよ。領収書が無かったら自腹だからな」
このクソ親父はナナには甘すぎる。匠に持たせた軍資金は、何と5万円だ。チョロまかそうと思っていた匠だったが、流石にそこまでは甘くなかった。まぁナナの為だ。今日は楽しませないとな。そういえば、ナナと二人だけで遊びに行くのって、いつ以来だろ?ガキの頃ぐらいしか記憶にないや。
「匠兄、今日は一緒に楽しもうね♡」
七海は、ここぞとばかりにお洒落な格好をしてきた。さっき匠兄 に『今日の服どう?可愛い?』って聞いてみたら、『可愛い……』って言ってくれた。ちょっと照れてた匠兄も可愛いって思えた。うん、いい感じにイケてるかな。そして二人は家を出て行った。いつもなら柚珠姉が茶々を入れてくるものだが、今日は大人しく見送っていただけだ。静かすぎるのがかえって不気味だけど、大丈夫だよね?
他愛もない話をしていたら、いつの間にか映画館に着いていた。商業施設の中にある、割と規模の大きい映画館。スクリーンが沢山あって、色々な映画を見ることが出来る。お目当ての映画が始まるまでには、ちょっと時間の余裕があるようだ。まずは匠兄と一緒に券売機でチケットを購入する。意外と席には余裕があったので、真ん中ぐらいの列の丁度真ん中ぐらいの席を確保をする。それから売店を見学し、パンフレットを購入。ついでに普段なら買う事のない、大きなポップコーンも買ってみた。
「もうそろそろ時間か。ナナ、行くぞ」
匠兄は、一人でずかずかと歩いていく。七海は遅れまいとついていく。
(手ぐらい繋いでくれてもいいのに……)
予告編が終わったら映画の本編が始まった。話題のタレントの演技も悪くなく、キャラのイメージとよく合っていた。口コミでの評判も良かったし、この映画を選んで正解だったと思う。匠兄は……、隣であくびしていた。やっぱりつまらないのかな?
いつの間にかクライマックスシーンとなっていた。ずっとすれ違っていた二人が、やっと気持ちを伝えられて恋人同士になれた、そんな切ないシーン。七海の目には涙が溢れてくる。
(自分達もこんな感じで恋人同士になれたらなぁ……)
多分、匠兄は寝ているんだろうなぁと思っていたら、意外にもスクリーンに釘付けになっている。何か思う事があるのかな?ちょっと気になった。
「映画、よかったね……」
「ああ……」
匠兄は映画が終わった後も、何か考え事をしているようだった。やっぱり気になるな。
「映画も終わったし、ちょっと早いけどメシでも食いに行く?」
「ご飯食べる前に、ちょっと行きたい所があるんだけど、行ってもいい?」
「ああ……」
やっぱり匠兄はちょっと上の空な感じだ。
「匠兄、何かボーっとしているけど、具合でも悪いの?」
「いや、何でもない」
「変な匠兄……」
やっぱり気になるけれど、今日の一番の目的のために移動をする。緊張はしているけれど、これだけは成功させたい。そんな事を考えながら目的地へと向かった。
「これは、ピアノ?」
七海に連れられて到着した場所には、大きなピアノが設置されていた。これは所謂、ストリートピアノというものだ。誰にでも自由に弾く事が出来る。
「ねぇ匠兄、匠兄の為に弾いてみたいんだ。聴いてくれるかな?」
「ああ……」
(いよいよだ。この演奏に全てがかかっている。大丈夫、何度も何度も練習してきたんだ。きっと思いは伝わるはず)
……………………………
七海にとって、直接、言葉で匠に対しての気持ちを伝える事は無理だった。思いを伝えるにはどうしたらいいのか?考えた末に思いついたのは、得意なピアノで表現する事だった。心のこもった演奏なら、匠兄にも響くはず。うん、間違いない。
そう思ったら、七海は学校の音楽室のピアノを借りて、何度となく練習してきた。演奏する曲は、自分が一番好きな曲である『千本桜』。歌詞は兎も角、この曲のメロディが好きだった。しかしながら、この曲はアップテンポの部分もあり、なかなか難易度が高い。練習では何度も失敗してきた。でも諦めたらそこで試合は終了だ。
『〇〇先生、私はピアノを弾きたいんです!』と思いながら、練習を続け、ようやく納得のいく形にまでなった。自分なりのアレンジも加えてみた。自分の気持ちが伝わるように仕上がったと思う。やれる事は全てやってきた。
『後は勇気だけだ!!』
七海はピアノの前に座って深呼吸をする。まずはピアノの調子を確かめる。うん、問題はないみたいだ。鍵盤の感じも確かめる。これも大丈夫だ。
(匠兄、聴いて。ナナの想いを感じて!)
最初にサビの部分をゆっくりと弾き始める。そしてスピード感のある曲を弾き始める。周りには殆ど人はいない。大丈夫。七海は気にしないで演奏に集中する。
テンポが速いから、なかなか難しくて練習では何度も失敗している。でも不思議な程に集中力を維持している。いつの間にかサビの部分だ。今度はスピード感のある演奏だ。ここもクリアしたら、インプロビゼーション部分だ。自分が描く未来を表現してみた。明るい未来を過ごしたい。勿論、一緒に居るのは……。
指先が華麗なメロディを奏でていく。うん、最高の出来だ。更に転調してサビの部分を演奏する。何度も演奏されているサビの部分は、また違った表情を見せている。ちょっと周りを見てみたら、いつの間にか人が多く集まって来ている。それだけ七海の演奏が素晴らしいのだ。
そして唐突に演奏が終わる。でもこれで終わりではない。最後にゆっくりとしたテンポでサビの部分が演奏される。ゆっくりと、そして力強く、思いを込めて。
気分は
(これがナナの匠兄に対する気持ち。お願い、伝わって!)
演奏が終わった時には、周りから割れんばかりの拍手が響いていた。七海自身も納得が出来る最高の演奏だったと思う。七海は、やり切った感で満ちていた。
「匠兄の為に演奏したんだ。ナナの気持ち、伝わったかな?」
七海は恐る恐る聞いてみる。
「凄くよかった。ナナの気持ち、伝わったよ。特に最後の所とか」
(よかった。伝えられたんだ。匠兄への気持ち……)
七海は嬉しさのあまり泣きそうになった。伝えられた気持ち、そして後は返事を待つだけだ。早く嬉しい瞬間が来てほしい。
「どんな風に感じたの?」
匠兄がどんな返事をするのか、七海はじっと返答を待つ……。
「ナナは凄くお腹が空いているんだね。美味しいもの食べたいと急かしているみたいで。最後の所なんて、『早く食べに行きたい!」って気持ちに満ち溢れているみたいで。軍資金たっぷりあるから、混まないうちに食べに行こう」
七海の目の前が真っ暗になった。ここまで完璧だったのに、気持ちは伝わったと思ったのに、どうしてこうなった?どこが間違っていたの?
「ん?どうした、ナナ?」
「匠兄のばか~~~!!」
七海はこのまま帰ろうかとも思ったのだが、折角の軍資金があるんだからと、美味しいものを食べに行く事にした。当然ながら、この後目茶苦茶やけ食いした。
そして気になっていた服も買って、帰宅するのだった。
(やっぱり匠兄は、ナナの事は妹としか思っていないんだろうなぁ。今度は一人の女として意識させるようにしないと。どうすればいいかな?)
七海は今日の事を反省し、次の作戦を考える事にした。でも次にチャンスなんて作れるのかな?
(今日のナナ、凄く可愛かったな。妹なのにこんなに可愛く思えるなんて変だよね?)
匠は今日の事を思い出していた。もしナナの機嫌が悪くならなかったら、どうなっていたんだろうな?と思っていた。
(でも妹として可愛いんだろうな。気持ちを切り替えないと、自分が変態になるかもしれない)
ナナを変な目で見ないようにしないとな、と思う匠であった。
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