第10話 未来を勝ち取る

 再測定までの数日、アンやお母様、お兄様に相談して、ロイド卿へのお礼をどうするか悩んでいた。お父様は忙しいようで会えなかったので、きっと私のために奔走してくださっているんだと思うと胸が痛い。

 とはいえ、今私にできることはない。・・・無念だけど、体調を整えて明日の再測定を乗り越えないことには未来が何もない。

 考えてしまうと憂鬱で落ち込んでしまうので、ロイド卿へ送るハンカチへの刺繍を頑張る!

 刺繍はあまり得意では無いけど、真面目に習っておいて本当に良かった。


 そんなこんなでゆったりした1〜2日はあっという間過ぎてしまい、今日は際測定の日。

 アンにより、派手過ぎず上品にドレスも髪もまとめて貰い、家族と一緒に謁見のホールへと向かう。

 こんな令嬢1人の魔力測定のために名だたる大臣や王家の方々が勢揃いしてて、覚悟をしていても足が竦んでいると、お兄様がそっと腕を取ってくれた。

 見上げると器用にウィンクして、大丈夫だと伝えてくれる。測定器の所にはロイド卿が小さく頷いて待っていてくれる。


 覚悟を決めてお兄様にエスコートされて測定器の所に着くと、ロイド卿が私の右手を取って国王陛下の方を向いて宣言する。

「これよりグラース男爵令嬢に着けている魔力封印の魔道具を外します。

 ご令嬢の魔力は落ち着いていますので、不要に刺激や圧迫はお止め下さい。それでは、測定を始めます」


 私の右手の人差し指から指輪を抜くと、台に置いて、私の手を装置の上に置く。


「落ち着いて、深呼吸して。すぐ終わるから」

「はい」


 装置が光だし、直ぐに計測結果が出た。

 数値は「163」高いけど、高すぎない、良かった・・・!


「測定の結果は163でございます」


 ロイド卿がそう宣言すると、数人の男性が「まさか」「嘘だ!」と怒り、その1人はメディル子爵だった。


「では子爵、ご自身で測定を」

「勿論だとも!」


 私を見る眼が嫌だけど、ここは我慢だと必死で抑える。


「ふむ、指輪は完全に停止しているな。

 では、グラース男爵令嬢、もう一度手をここへ」

「・・・はい」


 表示される数値はやはり「163」で、メディル子爵は激しく怒り出す。


「こんな事はありえない!!あの時確かに300を超えていた!!

 令嬢、まさか何かしているのか?!」

「ひっ、わ、私は未だに魔力操作も習っておりません!何も出来ませんわっ!」

「では何故数値が伸びんのだ!!」

「きゃあ!」


 思う通りに行かない事に怒った子爵が私を掴もうとした手をロイド卿が抑え、すぐ側にいたお兄様様が私を抱きしめて守ってくれた。


「子爵、妹に無体は止めて頂きたい!」

「だが!!」

「ならば、私の魔力量を測ってみるがいい。リリアナの兄で私も多い方だ。家族の平均が分かるだろう?」

「妙案だな、であれば王家の参考値として私も測って貰おうか?」

「王太子殿下!!・・・承知、しました」


 王族の出現に子爵も大きくは出れないようで、私は両親に守られつつお兄様と王太子殿下の測定を待つ。


 公平を期すために測定はロイド卿が行う事になり、まずはお兄様が測定され、続いて王太子殿下が測定された。


「それでは報告します。グラース男爵子息は158、オスカー王太子殿下135となりました。

 以上の結果から見てもグラース男爵令嬢の数値は一般的には十二分に高いものの、グラース家としては普通の範囲かと思われます」

「馬鹿な!!私は認めんぞ、あのまま魔力を成長させれば大規模魔術さえも1人で使えると言うのに!!」


 まだまだ諦めの悪いメディル子爵に、流石にイラッとしてくる。


「子爵、数値は出ております。

 もう一度もう上げますが、我が妹に無体は御遠慮願いたい」

「しかし!!」


 まだいい募ろうとする子爵に待ったをかけたのは、私の横にいるお母様だった。


「子爵、わたくしの実家、ミラナ伯爵家からも苦言を申し上げましょう。

 現当主、ミラナ伯爵アランの名代をいただいております。わたくしの娘を実験動物のように扱い、追い詰め、傷付けたのは到底許し難いものです。正式に謝罪と改善を求めます。

 娘はデビュタントもしていない令嬢である事を思い出していただきたい!

 聞き入れられない場合には、裁判所へ訴えさせていただきましょう」

「ぐっ・・・」

「そもそも、リリアナが王宮で過ごした間は常に護衛騎士や侍女たちの監視があったのです。毎日の医師による健診や、ロイド卿の魔力の確認でリリアナの魔力が戻らず落ちたままなのは周知。

 何を今更騒ぎ立てるのか・・・更に言うなれば、我が祖先は精霊であり、精霊は囚われるのを何よりも嫌うのもご存知の通り。

 リリアナの魔力が落ちたのは、貴方に恐怖しての可能性が高いのですよ?自業自得でございましょう」


 お母様のトドメにより、ようやくメディル子爵は落ち着いてくれた。

 そして、改めてロイド卿と王宮医師より私の状態の推移について報告が行われ、私の魔力量は一般的な範囲にあるので無害だと自宅に帰るのをようやく許可された。


 この数日間が本当に長かった・・・やっと我が家に帰れる!

 帰り際に、王太子殿下からあのまま魔力量が高ければ、殿下の側妃か第二王子殿下の婚約者入れ替えとなる予定だったらしく、本当にロイド卿に感謝しかなかった。

 無理です、ほんと無理です!!!

 私は普通に平穏に生きたいので放っておいてくたさい、本当に。


 家族全員で馬車に向かっていると、ロイド卿がお見送りに来て下さったので、お礼として用意した刺繍をしたハンカチと懐中時計を渡せたので良かった!

 また2~3日後、落ち着いた頃に我が家を訪ねて下さる事になったので、楽しみも増えてほくほくと家族と一緒に馬車に乗り込んだ。


 ようやく見えた自由のある未来に私は浮かれていたけど、世の中はそう甘くないことをまた思い知らされる。

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転生ヒロインはヒロインを辞退させてもらえない あるる @roseballe

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