第9話 手を差し伸べてくれる人
目が覚めて、白い天井が見えた。横を見ると窓が開いているのか気持ちのいい風が入ってきているけど、体に上手く力が入らない。
「っ・・・あ、あの・・・」
「お嬢様!!目が覚められたのですね!」
アンの見知った姿と声にホッとする。
アンは私を起こすと、冷たいお水の入ったコップで飲ませてくれる。
「ぁ・・・ありがとう、アン」
「とんでもありません、目が覚めて本当に良かった・・・
今奥さまや旦那様、ジャスティン様をお呼びしてますから、すぐいらっしゃいますよ」
「うん」
アンの言葉通り、5分もしないで3人は息を切らせて来てくれた。
私の体調が大分回復したのか、顔色が良いと喜んでくれたけど、3人には心配をかけたのだろう3人共隈があったり顔色があまり良くなかった。
ひとしきり話した頃、控えめのノックがあった。
アンが確認するとロイド卿で申し訳ないが急ぎの用事があるとの話だったので、入っていただいた。
「ごきげんよう、ロイド卿。こんな格好でご容赦くださいね」
「いや、俺こそあなたを辛い目に合わせてしまった、申し訳ない。
まだ体調が万全じゃないと思うので、重ね重ね申し訳ないが最低限の状況共有したい。まずはあなたの右手の人差し指を見て欲しい、魔道具の指輪をつけさせて貰った。緊急だったので了承を得ずに着けたことを許して欲しい」
「まあ、本当だわ。この指輪は?」
「魔力封印の魔道具だ。
あなたは魔力暴走を起こしてしまい、あの場に居た全員を洗脳しそうな危険性があったんだ。それを防ぐためにその指輪を付けたんだが・・・」
「何かまだ問題でも?」
ロイド卿は眉間に皺を寄せ、難しい顔をして、言いにくそうにしている。
「覚悟は、しています。お聞かせください」
「そうだな、隠してもいつかバレる話だ。
だが、まずはこれだけは対応させて欲しい、危険はない」
そう言うと複雑な魔法陣が現れ、何かの魔法が展開される。
「これは、まさか!」
「ご存知だったか。マキナエスで最近開発された特殊防御結界で、防音防視の効果もある。我が国の諜報部隊も突破できなかった優れものなのでこれから話すことは外には絶対漏れない。
ただし、これは同時に国に知られたくない内容を話している、と言う間接的な証拠にもなる。だが、疑念をを上手く使って欺きたいと思うので一芝居一緒にうって欲しい」
「それがリリアナの身を守るのであるならば」
「そこは確約しよう。ご息女をこの国はいいように扱うことしか考えていない、あなた方にとって災難なのはこの国には魔力の高い人物が少なく、魔法技術が遅れている事だな。
しかも、リリアナ嬢は魔力暴走の魔力消費によって魔力成長を行うだろうから、益々魔力が増えてこの国はリリアナ嬢に執着する事は間違いない」
「そんな・・・!!」
「なので、芝居です。
あなたの魔力は魔力暴走の後むしろ落ちたとしたいのですが、みんな指輪が魔力封印の魔道具と知っているので、外して再計測になります。なのでこの指輪の魔力封印を切り、こちらのピアス型の魔道具であなたの魔力を抑え込みます。
このセットを着ければ、リリアナ嬢、あなたの魔力は120~30まで落ちるでしょう」
私にとっては非常にありがたい提案だけど・・・、両親も兄もそう思っているのだろう、困惑した顔をしている。
「ふむ、我が家にとってはありがたいばかりだが、何故と聞いてもいいだろうか?」
「もちろん、とは言えそんな深い理由はないんですよ。
ただ、何の咎もない令嬢の意思を無視するこの国のやり方が気に入らない、それだけです。
むしろあなた方は国を裏切る事になりますが、大丈夫でしょうか?」
「構わないとも。我が家をたかだ男爵家と侮り、娘を家族を道具のような扱いをする国など捨ててもいい」
「ええ、全く。そもそも私の実家も半分強制されて国から旅行で出ることも許されていないの、いい加減解放されても良いと思いません?」
「我が婚約者の実家も商会を営んでいるんでね、他国へ移住しても気にもしないだろう」
「え、ええっ?!お父様、お母様、お兄様まで!!」
「リリアナ、私たちも怒っているのだよ。可愛い娘を兵器やら都合の良い道具にされそうになってね」
「ふふふ、じゃあ決まりだ。そろそろ解除するから、その前に最後の打ち合わせだ」
そうして、ロイド卿による大芝居を打つことになりました。
細かすぎる設定はボロが出ると困るので、大事なのは1つだけ、リリアナ・グラース男爵令嬢の能力は失われ、魔力も人よりちょっと多いだけになってしまった。
ロイド卿が結界を解除すると、王太子殿下と国王陛下、王宮医師たちが勢揃いで来ていた。もうこの時点で怖い、逃げたいのですが。
「これはこれは、みなさまお揃いで。いかがなされましたか?」
爽やかな笑顔でそう言うロイド卿の強心臓に私の方が青ざめる。ああ、こういうのが慇懃無礼と言うのかしら・・・と遠い目になりそうになるけど、私が現実逃避する前に王太子殿下がキレた。
「ロイド卿!一体さっきまでの結界はどういう事ですかな?!王宮内で失礼では?」
「ほらほら、そうやってすぐお偉い方々年若い淑女の客室へと押しかけるのが分かっていたからですよ。
ご令嬢は寝込んでられて、未だ寝衣のままだと言うのに。しかもあなた方は家族の一時の時間さえ取ってはくださらないじゃないですか。一体どちらが無体なのやら・・・」
全身でやれやれと、非常識はどっちだと語り掛けるロイド卿。そして私の姿を見せまいと私の前に立つ家族と侍女のアン。
王太子殿下はまだ頭に血が上っているようだけど、国王陛下は冷めた目で見ていた。
そっと、お父様が一歩踏み出し礼を取り、お母様やお兄様、アンも続いた。私もベッドの上なので頭だけ下げる。
「我が国の太陽、国王陛下に拝謁の栄誉を賜り恐悦至極に存じます」
「そなたがグラース男爵であるな、許す直答せよ」
「はっ、寛大なお言葉、誠にありがとうございます。
ロイド卿の言葉に偽りなく、私どもが目覚めた娘とのほんの一時話す時間を取っていただいたのみにございます。先日目覚めた時の娘は混乱しており、また魔力暴走が起きてもいけないと・・・」
こちらを見極めるような冷たい眼差しが、王族の怖さを思い知らされる。マッドサイエンティストよりも、こちらを即座に殺せる、それこそ人間を数字としてしか見てない眼だった。
「ふむ、道理だな。そなたの親心に免じて此度の件は不問としよう」
「慈悲深い陛下に心より御礼申し上げます!」
「良い、ではご令嬢と会わせて貰おう」
「もちろんでございます。ただ、王太子殿下にはご遠慮願えますでしょうか?
娘はまだデビュタントも前でございますので、殿方の前に寝衣のままで御前には出られません」
「道理だな、オスカーは退室しろ」
「なっ!父上?!」
渋々追い出された王太子殿下はずっと文句を仰っていたが、アレが本当に優秀な王太子殿下なのだろうか・・・。まあ、第二王子殿下との血の繋がりは間違いなくありそうですね。
それから私は陛下に拝謁したあと、王宮医師の診断を受けることになった。もちろん私は令嬢なので、陛下からの視線から隠されたまま王宮医師により診察を受け、体調に問題はないがまだ疲労は抜けてないのでもう数日は安静にするようにとの診断が下された。
そして陛下より3日後に私の魔力の再測定が行われると通達されて、ようやく解放されて、疲労困憊。もう動きたくない。
「お嬢様、お疲れ様でした」
アンに差し出された葡萄のジュースが美味しい。
「美味しい・・・」
「お顔色も戻られて良かった。ロイド卿もお咎めなしで本当にようございました」
「本当に・・・私、ご迷惑おかけしてばかりだわ」
「では、今度お礼をいたしましょうね」
アンの言葉に頷いてロイド卿を思い出す。
ほとんど話したことはないし、数日前に初めてお会いしたけど、なんでこんなに良くしてくださるんだろう?と。
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