第8話 追い詰められたヒロイン

 もっと研究室のような、御伽噺にある魔女の家のような雑多感やおどろおどろしさを想像していたのが外れて若干ガッカリしていた。

 魔塔は病院のような、清潔で全体的に白いイメージのある建物だった。


 ファナ様は慣れているのか、迷うこと無く奥へと進んでいく。

 はぐれたら絶対に迷子になる!とファナ様にぴったりとくっついて行くものの、何だかんだと気になるものが多く余所見をしてしまう。

 ファナ様に「楽しそうで何よりですわ」と言われ全力で頷きつつ、説明を受けつつようやく目的のファナ様のお父上の部屋へと着いた。


 ノックをして気軽に入っていくファナ様の後をついて行くと男性が2人と女性が居た。

 男性の1人はファナ様にそっくりだったので、一目でメディル子爵だと分かり、良かった。

 女性の方もファナ様に似ている気がする?


「リリアナ様、こちらが私の父のメディル子爵と、上のお姉様のメリンダです」

「本日は私の為にお時間を割いていただき、誠にありがとう存じます。

 グラース男爵家のリリアナと申します、どうぞよろしくお願いいたします」

「丁寧な挨拶、痛み入る。私がファナの父であるヴィル・メディル子爵だ。

 早速だが、リリアナ嬢とお呼びしてもいいかな?」

「はい、勿論でございます」


 柔らかな雰囲気のメディル子爵はもう1人の男性のをの方へ連れて行って下さる。


「ではリリアナ嬢、君に紹介したいのがこちらの方だ。

 彼はロイド・カーター卿、魔道具大国のマキナエス王国からいらっしゃった留学生でもある」

「まあ、初めまして。リリアナ・グラースと申します」

「オレは平民なので、敬語は結構ですよ」

「とても優秀な方なのですね。どうぞ私の事もリリアナとお呼びください」


 私の事を面白そうに、まるで何かを見つけた時の猫のような金の目をしたロイド卿にはどこか既視感があるが、思い出せない。

 まさか攻略対象・・・ では無かったと思うのだけど、自信はなかった。


 うん、深い紅茶のような赤茶の髪に、金にもオレンジにも見える瞳の攻略対象には覚えがないからきっと大丈夫!!

 それにしても整った顔と、珍しい色合いだわ。

 ロイド卿も私の髪の色には興味津々だったようだ。


「まず自己紹介させて貰いますね。

 この国では一般的では無いようですが、私の出身のマキナエス王国などでは魅力を始め魔力操作で何らかの弊害が出る場合には魔力封じの魔道具で管理するのが一般的です。

 とはいえ、これも一時しのぎでしかない事と、状況によっては装着者に悪影響を及ぼす場合があるので必ず専門家による診断と医師が定期的に確認を行い万全を期しますので安心して下さい」


 改めて、そんな便利な魔道具がある事に驚いた。でも、それが合理的だよね、と理解出来る。なにも危険な能力を野放しにする必要はないもの。

 うんうん、と頷くと続けて説明してくれる。


「あなたの場合は特殊でして、まず血筋に拠る能力は魔道具が効かない場合があります。

 つまり、魔力を動力とするけど、そのまま発動していない、魔法とは別系統の力であるケースがあります。

 その為、まずは計測をさせて頂きたいと思いますが、大丈夫でしょうか?」

「は、はい。ご存知かもしれませんが、私は魔力操作の訓練をしていない為、正直何も分からないに等しいですが、大丈夫でしょうか?」

「ええ、全然問題ありませんよ。こちらの魔道具ですが、これは子供などまだ魔力訓練をしてない人の外に漏れ出る魔力を計測してくれるものです。

 魔力操作ができるようになると、漏れないようになりますので別の魔力を送り込んでもらう魔道具もあるのですが、今回はいったん概算量が分かるだけで十分なのでこちらでやりましょう」


 つまり、外に漏れてるのから全体を推測する計測・・・それって大分高機能なのでは?!お高そうで怖い。

 とはいえ、私に選択肢はない訳ですし。言われるがままに手を魔道具の上に乗せると、魔道具についているカウンターの数値が上がって行き、322で止まった。

 メディル子爵一家が唸り、ロイド卿も驚いているようなんだけど?


「あの、なにか問題が?」

「いや、問題はないよ。ただ、魔力量が多いとは聞いていたけど、あなたは特に多いのかもしれないね」

「リリアナ様のお兄様でいらっしゃるジャスティン様も150ほどだと伺っていますから、単純に2倍以上ですわね。

 ちなみに一端的な貴族で60~80、王族や公爵、侯爵で多くて100と言う基準になりますわ」


 ロイド卿とメリンダ様の言葉に、淑女として許されない顔になりそうになって、なんとかとどま・・・れてなかった。

 プッと吹き出したロイド卿をキッと睨むと「すみません」とまだ笑っている。許さじ。

 そして、未だに動きを停止しているメディル子爵、大丈夫だろうか?


「お父様?どうなさいましたの?」

「す・・・・・・」

「す?」

「スバラシイ!!!この数値は前人未到の魔力値だ!

 しかも制御訓練も行っていないとなるとこれからの伸びしろも大いにある!!これだけの魔力量があれば大規模魔術も一人で発動できるかもしれないぞ・・・」


 物凄い勢いで目を血走らせて一気に話しながら詰め寄って来る子爵怖い、悲鳴を堪えた私を褒めて欲しい。やばい、完全にマッドサイエンティストなんだけど、誰か助けて・・・と若干、いや大分詰め寄って来る子爵に怯えて後ずさる私を守るようにロイド卿が庇ってくれた。


「子爵、メディル子爵!落ち着いてください!」

「いやいやいや、これは大変な事ですよ!」

「分かりますが、怯えさせてますから!」


 ロイド卿の後ろで2人の言い合いを聞いていると、スパーン!といい音が響いて、ファナ様の聞いた事のない冷たい声が聞こえてきた。


「いい年した大人がみっともないですわよ、お、と、う、さ、ま」

「はっ!!」

「私、ちゃあんと、申し上げましたわよね?

 リリアナ様は、私の、大事な大事な友人だと・・・ ねえ?」

「す、すまん・・・ あまりに夢が広がりすぎてな・・・」

「それは、未成年の令嬢を怖がらせる理由になりますの?

 まさか、まさか、助けを求めてきた令嬢をモルモット扱いなんてしませんわよね?」

「いや、あの・・・」

「ファナ、でもね・・・」

「しませんわよね?わたくし、まさか自分の家族が、そんな人非人だなんて・・・

 リリアナ様、大変申し訳ございません。ここに人の心持った人間はいないようなので参りましょう。ミリアネア様が今日は王宮にいらしているはずなので保護を求めましょう。」


 絶対零度の眼差しでメディル子爵とメリンダ様を睨むファナ様はお二人から私を遠ざけるように扉へと連れて行く。


「ファナ・・・」

「近寄らないでくださいまし。それ以上近づきましたら、私悲鳴を上げて救援魔術を使いますわ!

 ロイド卿、巻き込んで申し訳ございませんが、その二人が来ないように守ってくださいませんか?」

「承知した。絶対に扉から出さないよ」

「感謝いたしますわ、お礼は後ほど。さあリリアナ様、参りましょう」


 扉を出ると、ロイド卿が閉めたのか鍵がガチャリと音を立てた。

 急いで王宮に向かいつつ、ファナ様が恐らく魔術でも鍵をかけられたのだろうとのことで、簡単には開かないはずだから安心して王宮へと向かった。

 王宮の外宮殿は貴族は誰でも入る事ができ、王宮図書館などへもつながっている。

 その外宮殿の中のカフェでミリアネア様と待ち合わせしていると、カフェへと直行した。思いの外ショックだったのか、今になって手が震えていた。


 私の魔力は魔力の多い上位貴族や王族3人分以上ある、つまり一人で大量破壊兵器にもなれると言うことかと思うと自分のこれからの扱いはどうなるのかと不安になる。どうしよう、怖い・・・落ち着かないといけないのに、やだ、誰か助けて・・・。


「リリアナ様?!

 泣かないでくださいまし、ああ、落ち着いて・・・ どうしましょう」


 ファナ様を困らせているのは分かるのに、私には何も見えていなかった。何かが自分から発せられているのは分かるけど止められない、恐怖が恐怖を呼んでもう何も分からない。


「ごめん、ちょっと失礼。

 リリアナ嬢、あなたの安全はオレが必ず守るから、今は許してね?」


 男性の声だ、意味が・・・と思った時、何かがチクッとして、私の意識は途絶えた。

 不安は残ったままだけれども、きっと私の暴走は止められたのだと何処かで安堵していた。


 ◇ ◇ ◇


 目が覚めて、目に入った天井は知らないものだった。


「ここは・・・」


 そして意識を失う前の事がフラッシュバックしてパニックになってしまう。


「ああああ、いや、いや・・・ おかあさま、おにいさま、どこ?!

 こわいの、おとうさま、ふぁなさま、だれか・・・!!」

「リリ!!」


 私の悲鳴に飛び込んできたお母様がパニックになっている私を抱きしめてくれる。


「お、かあ、さま・・・?」

「ええ、お母様ですわ。リリ、リリアナ、もう大丈夫よ」


 お兄様が私の涙をぬぐいながら、お母様は決して放さないとばかりに強く強く抱きしめてくれている。温かい・・・。


「俺も父上もいるぞ、侍女のアンもすぐ外で待機している」

「おにいさま?おとうさまもアンも?」


 お兄様よりも大きい、無骨な手がほほを包んでくれる。安心できる、優しい、ペンだこのある働き者のお父様の手だ。


「ああ、リリ、一緒にいるよ。怖い思いをしたな・・・」

「ふうっ・・・わ、わたし、怖いんです・・・私、どうなってしまうの・・・」


 兵器やモルモットになるのは、道具にされるのは嫌、とボロボロと泣き出した私をお母様は泣きながら抱きしめ、お父様とお兄様は悔しそうに拳を握りしめながら震えていた。

 子供のように泣いてしまったが、家族全員で守ってくれているのが嬉しい。


「リリ、俺は王太子殿下の側近だ。王太子殿下に掛け合ってお前に無体は働かせない!」

「そうだな、私も宰相閣下に話そう」

「ファナ様とミリアネア様が助けて下さって、王宮内の医務室に保護されたのよ」

「おふたりが・・・」

「ええ、後ロイド卿と言う方があなたの暴走を止めて下さったの。

 今日は遅いけど、今度お礼をしましょうね」

「はい」


 泣き疲れたせいか、フラフラする。意識が遠のきそうで、でも、寝るのは怖い・・・。


「リリ、今日はお母様とアンが一緒の部屋にいますよ」

「ほんと?」

「ええ、決してあなたを1人にはしませんから、お眠りなさい」


 お母様に頭をポンポンとされて、幼子のように安心して意識が遠のいて行く。

「おやすみなさい、私たちの可愛いリリ」

「リリ、私たちは一緒だから安心するんだぞ」

「おやすみ、リリ」


 家族の声を聴きながら、私はもう一度眠った。

 次に目が覚めたのは2日後だった、ロイド卿から後から聞くには魔力暴走で一気に魔力を消費した反動との事だった。

 そして、私が眠っている間に様々な事があったようだったが、病み上がりと似たような状態だった私は家族と友人たちに過保護気味に守られて色々状況を詳しく教えてもらえたのは倒れてから十日も経ってからだった。

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