第6話 十五年間で初めての景色

昨日の朝とは打って変わって幸福感に包まれた目覚めだった。目も冴えていて心なしかいつもより視界が明るく見えた。それは世界が少し明るくなったからだろう。朝支度を済ませ家を出る。蒸し暑いのだけれどその中に感じる微かな涼しさが心地よい。


学校にいる間ずっと考えていた。今日もし放課後残らなければ会えていたのに。なんてことを思う。ここ数日の私の頭の中には常に藍都がいた。これは好きと言わざるを得ないのだろうか。帰り道、携帯で藍都にメッセージを送った。

「明日何時にどこ集合にする?」

「二時に第二公園集合にしよう」

「了解」

第二公園、学校のすぐ近くにあるということもあって放課後、学校終わりにみんなが集まっていたりする。最低限の遊具と休憩場所と野球ができそうなくらいの敷地があるだけの公園だけれど、そこからの景色が良いこともあってか毎日数人はいる。


休日ということもあり、車どおりはいつもより多いように思えた。窓の外から車の走行音が数十秒に一回のぺーずで聞こえてくる。私は白のTシャツにデニムと、シンプルな服装に着替えて家を出た。待ち合わせ時間二分前、第二公園についた。自転車が停めれそうなスペースに自転車を停め、屋根があるベンチに腰掛ける。携帯の画面とにらめっこをしながら藍都が来るのを待つ。数分後、自転車が止まる音がした。その音の方を見ると、藍都が自転車のスタンドを下ろしているところだった。

「よっ」

スマホを鞄の中にしまい、藍都に駆け寄る。

「ごめん、ちょっと遅れた」

「全然いいよ。で、どこ行くの?」

「私服良いね、新鮮。連れて行きたい場所があるんだ。ついてきて」

私は自転車の鍵を指し、後ろから藍都について行った。前髪が走行風で後ろに流れる。


数分走らせて着いたそこはどうやら山のようだった。

「山?」

「この山の反対側は見たことある?」

「ない」

「見せたげる」

自転車を停めてさらに数分山道を進む。

「わぁ……」


漫画のワンシーンのようなその背景に思わず息を飲み込んだ。写真コンテストで金賞を取ることが出来そうなほどに美しいと思った。澄んだ水が溜まった池の中に浮かぶ睡蓮の花。その池にかかる小さな木造の橋。池の周りを取り囲む沢山の花。幻想的な風景を照らす太陽の光に風で揺れ動く木の葉。十五年間生きてきて知らなかった。こんな綺麗な場所があったなんて。私はまだまだ世界が広いことを知った。


「カメラ持ってきたら良かったな」

この景色に見とれている私の横でぼそっと藍都は呟いた。

「カメラ趣味なの?」

「そうなんだよね。よくここにも来るんだけど今日の景色が今までで一番綺麗。一緒に見てるからかな」

熟考しないと思いつかないような言葉を言われて思わず口角を上げる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白い純恋と勿忘草を 碧海 汐音 @aomision

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ