第5話 暑さを吹き飛ばせそうな素麺

「ただいま」

「おかえり~」

リビングの扉越しに微かに聞こえてくるお母さんの声を耳に入れながら階段を駆け上がった。すぐに携帯を開いてメッセージアプリを開く。

「今日は家までありがとね」

そう送るとすぐに既読が付いた。

「いやいや!」


メッセージをするとき、ビックリマークを付けられると嬉しい気持ちになる。私だけではないだろう。それからは世間話を夜食の時間まで繰り広げた。

「そろそろ夜ご飯食べなきゃだから終わるね」と送ると「また夜も連絡しても良い?」

藍都からそう送られてきた。

「もちろん」

と言い、廊下に出た。


電気をぎりぎりつけなくても良いくらいの暗さの階段を慎重に降りる。リビングから漏れ出る光に誘われて扉を開けると、そこには夏の暑さを吹き飛ばせそうな素麺が並べられていた。細く切られたきゅうりとたまごとハム、そしてつゆの入った透明の小皿が置かれていた。私は急いで食べて風呂に入り、自室へと戻った。ベッドに寝転び、スマホを掲げる。まぶしい光に目を凝らして、部屋の電気を付けた。


「夜ご飯なんだった?」

「素麺だったよ」

「いいね、美味しかった?」

「うん」

私が送ったメッセージに既読が付いて数分後、一通のメッセージが送られてきた。

「ねぇ、電話しない?」

「うん、いいよ」


そのメッセージに既読が付くとすぐ藍都から電話がかかってきた。

「やっほ」

「よっ」

ぎこちない挨拶を交えたあと、何気ない会話が続く。そろそろ電話を切ろうとしていた時、藍都は口を開いた。


「明日会わない?」

「明日はごめん。放課後学校の方で色々あって……明後日はどう?」

「うん、じゃあ明後日」

「じゃあね」

電話を切ると、幸福感とほんの少しの喪失感に包まれた。まるで恋をした時のような幸福感に。恋をした時のような、いや、している。恐らく。確信はまだできなかった。したくなかったのかもしれない。何も分からなくなった。

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