第4話 いつもと違う通学路
私は少年を追いかける気にもなれず、そのまま家へと帰った。
この姿を見られたらどうせごちゃごちゃ言われるんだろうな。そう思い、ドアを静かに開ける。靴を脱いで、階段を静かに上がろうとした。靴を脱ぎ終えたタイミングで、お母さんがリビングから出てきた。エプロンを着ている。
「何、どうしたの!?」
「べつになんでもないよ。水遊びしてただけ」
「あんた馬鹿じゃないの。早く着替えて。床拭いといてね」
心配じゃない。これを言われるから私は嫌だったのだ。今日は運がすこぶる悪い。
私は、自分の部屋から着替えを持って、階段を降りる。階段下は少し濡れていた。
浴室に行き、風呂に入って着替えて自分の部屋に行った。今は誰にも会いたくなかった。私はベッドの中に入り、そのまま寝てしまっていた。
明るい光がレースカーテン越しに部屋の中へ入ってくる。その光で目を覚ました。小鳥の声が徐々に意識の中に入ってくる。頭の中を動かすと、昨日のことが嫌なくらいに蘇ってきた。
朝から嫌な気持ちのまま、身支度をして学校へと向かった。昨日の涼花に話しかけられたこととあの少年以外には何も変わらない日常を今日も送った。学校が終わり、いつもと違う通学路を通って家へと帰っていた。
道路を挟んで向かいの道、反対側から歩いてきていた男の子にふと目を向けた。
そこにいたのはあの時海で出会った少年だった。今一番会いたくない人に会ってしまったという感情になりながら急ぎ足で歩いた。
彼もこちらに気が付いたようだった。車が通っていない間に、道路を渡ってこちらに来た。私の前に来て、止まる。よっと手を挙げている。
私は少年を無視して、さっきよりも急ぎ足で帰路を進む。
「おーい」
恐らく私を呼んでいる声に私は無視を貫き通す。
段々と近づいてくる足音を遠ざけるようにいつの間にか走っていた。だが、私の脚では彼から遠ざけることは出来なかったらしい。
「学校帰りだよね?一緒に帰ろ~」
昨日の少年なのに、喋り方や表情がまるで違っていた。
「一人で帰るから。やめてください」
そういっても彼はついてきた。私は数歩後ろをついてくる彼を見ないように前だけを向いて急ぎ足で歩いた。なぜ今日に限って自転車がパンクしてしまったのだろうか。
「昨日はありがとね。助けてくれて。僕どうにかしてた。昨日嫌なことが沢山あったから自暴自棄になっちゃってた。性格終わってたよね。ごめんね」
「いいよ」
言いたくなかった。いいよなんて。でも実はいい人なのかもしれない。そう思うと彼を美しいと思った事への後悔の気持ちも薄れていった。
「名前は?」
「藍都」
「よろしく藍都」
私は横目で藍都を見てから前を向いた。
「で、そっちの名前は?」
「あ、蘭」
名前を聞いておいて名乗るのを忘れていた。こんなイレギュラーな事態を飲み込めないからだろう。自分を落ち着かせる。
「蘭、可愛い名前」
にこっと笑う彼は蒸し暑い暑さを少し涼しくした。私も彼の笑顔につられて笑っていた。
「ありがと、私も気に入ってる」
「何歳?」
「十五」
「僕も」
「中三の年?」
「うん、同い年だね」
沈黙が流れる。しかし涼花の時のように決まづくは無かった。
「連絡先交換しない?いつでも連絡できるように」
「うん」
自分でも渋るかと思っていたがすっと出た「うん」という言葉に驚いた。私たちは携帯を出して連絡先を交換した。
「学校に携帯持って行っても良いの?」
「駄目だけど」
「悪いね」
そんなことを話しながら坂道を上る。いつの間にか家についていた。
「ここ私ん家。」
「あ、じゃあ」
そう言って彼は道をUターンして帰って行った。彼といるとどこかに感じる心地よさ。それを家まで持ち帰った。その心地よさは好きという感情によるものではなくただ仲良くしたいという気持ちから来ているようだった。
ほとんど知らない人に個人情報を知られる怖さよりも彼ともう少し一緒に居たいという気持ちが勝ったようだ。自分の家がこっち方面ではないのについてきたのかと興味がわいた。
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