第41話 アズール

八日目 アズール


 アズールとの待ち合わせは王都の南側、日当たりの良い位置にある貴族街の入口だった。待ち合わせ時間になると、一台の馬車が貴族街の中心方向からやって来る。その馬車が俺の目の前で止まると、中から貴族らしいドレスを着た女性――アズールが出てきて言う。


「御足労いただきありがとうございます。ここからは馬車でお送りしますのでお乗りになってください」

「俺なんかが乗っていい馬車なのか?」

「私の客人ですから」


 馬車で登場した貴族であるらしいアズールに驚きつつ、立派な馬車に戸惑っていると、


「ソウヤさんが乗ってくださらなければ私も乗らずに帰ります」


 などとアズールが言い出したので、気持ちを切り替え馬車へ。中は思ったより広く、俺たちは向かい合わせに席に着いた。


「で? なんで馬車で迎えに? そんなに貴族街は広いのか?」

「貴族街はそこまで広くはありませんが……。貴族には面子というものがあるのです……煩わしいことに」


 なるほどな。貴族の面子か。それなのに歩いて帰るとか言い出したのか、このお嬢様は。


「私は昔から変わり者で有名なのでまだ良いのですが……。せめて貴族街の中では馬車を使わないと家族の面子に関わりますので」


 変わり者って……。俺からすれば普通の……いや、近衛騎士団に入れるのは普通ではないけど、それ以外は至って普通の人って認識なんだけどなあ。


「どの辺が変わり者なんだ?」

「剣ではなく槍を選んだ点、目立つことを嫌う点、なんでも自分でやろうとする点など、普通の貴族とは感覚が違うのです」

「ふーん、ま、いいと思うけどなあ」


 俺がそう答えるとアズールは不思議そうな顔をしてこちらを見、問う。


「どういうことですか?」

「槍を選んだからそんなに強いんだろ。それで近衛騎士団に入れたんだからいいじゃないか。それに目立つってことは嫉妬を買うこともある。必ずしもいいことばかりじゃないさ。色々と自分でできるってことは……」

「ことは?」

「良いお嫁さんになるんじゃないか? まあ貴族の家に嫁いだらその時はやっぱり家事とかはやらないか、ははは」


 アズールの方を見ると顔を真っ赤に染めている。俺はそんなにおかしなことを言っただろうか。


「どうしたんだ?」

「い、いえ、なんでもありませんっ!」


 女性の心って難しいな。



 そんな話をしていると、馬車が停止した。御者が


「到着致しました」


 と言って馬車の扉を開けてくれたので外に出る。

 目の前にはちょっと引いてしまうほどの豪邸がそびえ立っている。


「えっと、これは……」

「コート伯爵家にようこそ、ソウヤさん」


 さすがに使用人が列を成してお辞儀をしているなんて光景はなかったが、敷地の入口の扉も邸宅の入口の扉も使用人が開けてくれた。さすがは伯爵家だなあ。



「こちら、応接間にございます」


 使用人の案内を受け、応接間に到着する。やはり扉は開けてもらうことになる。中には、


「ようこそ、ソウヤ殿。娘がいつも世話になっているようだね」


 と言う男性と、


「あなたがソウヤさんね。アズールから色々と聞いているわ」


 と言う女性がいた。二人とも年齢は俺の両親と同じくらいのようだ。

 そしてアズールはというと、


「も、もう、お父様も、お母様まで……!」


 とやはり赤くなっていた。



「さて、ソウヤ殿。今日来てもらったのは他でもない、貴殿に貴族について知ってもらうためだ。我が娘、アズールをはじめとして、ソニア殿下も、さらに貴殿ほどの者となればこれからも貴族との繋がりは増えていくだろう。そのときに困らないように、今日は簡単に貴族との関わり方について学んでもらおうと思う」

「はい、よろしくお願いいたします」


 これは正直助かる。最近は王城に参ることも増えたし、貴族と関わる機会もある。それに、「採取屋」として貴族とのやりとりもあるかもしれないからな。知っておくに越したことはない。

 そうしてコート伯爵による対貴族関わり方講座が始まった。

 最初は言葉遣いや立ち居振る舞いといった最低限の礼儀から教わる。まあこの辺りは平民とて知っている程度のことがほとんどというか、知らないと貴族から罰せられる可能性すらあるものであったので、俺でもなんとか知っていた。……流石に国王陛下から賜り物を受ける際の作法とかは知らなかったけど。スキルの種を頂いた時は表に出なかったからなあ。

 

「いや、ソウヤ殿はしっかりと学んでいるなあ。私が教えるまでもなかったか」

「そんなことはありません。細かい点までは把握していなかったので直していただけてよかったです」

「はっはっは。謙遜するな、ソウヤ殿。ここまで礼を弁えている平民などそうはおらんよ。余程ご両親の教育が良かったと見える」


 そういえば、両親ともにミスリルランクの冒険者だから陛下と面会することもあったって言ってたっけ。それゆえか、うちは結構礼儀作法に厳しい家だった気がする。

 あとは舞踏会のダンスや交渉術など、貴族と関わるために必要なことを最低限ずつ教わる。そんなに時間はないからな。交渉なんか、最低限でも教えてもらえたのはすごいことだと思う。まあ攻めてガッポガッポするためのものではなく騙されない、自分の身を守るための交渉術だけど。

 ダンスは実践を取り入れた授業で、実際にアズールと踊ったりもした。人生初めてのダンスだったからめちゃめちゃ緊張したけど、向こうが踊り慣れていたのでなんとかなった。なんかアズールも緊張していたような感があったのは気のせいだろうか。……気のせいということにしておこう。

 最後にテーブルマナー講座と称して夕食を一緒に食べ、お開きとなった。コート伯爵家とは随分と仲良くさせてもらったなあ。普段のお礼と言いつつこちらがお世話になってしまった。またお礼しなきゃな。

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採取☆マスター〜スキル【採取】を活かしてスローライフを送っていましたが、このスキル、実は戦闘でも最強でした〜 囲魔 美蕾 @p4stn0wfuture

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