第50話 哀しい恋の行方
「莉緒!」
ロビーで立っている莉緒に声をかけた。
「ごめんね、迎えに行けなくて」
久しぶりに会う彼女に嬉しさが込み上げてくるのが隠せない。
「いいよ、仕事なんだし。で、仕事終わった?」
「うん、終わって、急いで来た。勇太ご飯食べた?」
「いやまだ、コンビニでなんか買ってこようと思って降りて来たんだ」
「良かった。私も晩ご飯まだだから、食べに行こ」
「でも雪が…」
「これくらいなら大丈夫。お店もまだ全然開いてるし、雪も時期に止むだろうから」
すっかり地元の人みたいな莉緒が連れて行ってくれたのは、駅のそばの小さいラーメン屋で食事を済ませて外に出ると雪がやんでいた。
「美味しかった〜」
「でしょ、北海道はおいしいもの多いから選ぶのに悩むんだよね」
「すっかりこっちの人だね」
「そんなことないよ、毎日慣れるのに必死だよ」
「でも楽しいんだろ?」
「そうだね、毎日覚えることが多くて大変だけど、その分充実してる…かな」
毎日やりとりしてる電話やラインで彼女の変化は手に取るように分かっていた。だからこそ俺がいなくても大丈夫と言われてるようで寂しい…とは口が裂けても言えなかった。
「…勇太、もう少し一緒にいていい?」
「えっ、ああ、もちろん」
「じゃあ、ちょっと待っててそこのコンビニでコーヒー買ってくる」
「俺も一緒に行くよ」
「大丈夫、すぐそこだから、そこのベンチで待ってて」
うっすらと雪化粧された街路樹のそばに観光客用なのか所々に木製のベンチが置いてある。ベンチの上のサラサラした雪を手で払って腰を降ろした。こんな風に彼女を待つ時間がまた訪れるとは、少し前までの俺には想像もできなかった。
「はい」
渡されたコーヒーは、寒さも相まって熱く感じる。
「ありがとう」
隣に座った彼女と同じタイミングでコーヒーを飲む。無言の時間の後、ゆっくりと彼女が話し始めた。
「あのね…こっちに来て頑張れたのはね…勇太がいてくれることの安心感からなの」
「そばにいないけど?」
「そばにいないけど…そうだよね…勇太はね、そばにいないけど、ちゃんといるの…私の中に」
「…うん」
「別れてたときも…辛くて忘れないとって思ったときも忘れられなくて…いたんだよね、ずっと」
「うん」
「だから、もう一度ってなってから…勇太の気持ちを聞いてからは、嬉しくて、生きることを毎日頑張れたんだ」
「…それって」
「だからね…私も会える理由が…欲しい」
「会える理由…?」
「そう、私が勇太に会える理由…」
「……」
「堂々と隣にいていい理由、勇太の笑顔を独り占めしていい理由」
「…それって…」
「好きです、ずっとそばにいさせてください」
「…俺でいいの?」
「勇太じゃなきゃだめなんだけど」
「…よろしくお願いします」
昔とは逆になった告白は勇太の返事で、もう一度スタートラインに戻った。哀しい恋を忘れらなかった私に神様がくれたのは、勇太との残酷な再会だった。自分の気持ちに正直になる勇気も忘れる勇気もどちらもできない私ともう一度向き合ってくれた勇太が出した結論は、まだゴールじゃないから…それがどんな結果になっても、今度こそ2人で決めて答えをだしたい。それが哀しい恋にならないように…
哀しい恋を忘れたはずでした @MOYOHA
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