第5話

40分後、坂川は意識を取り戻すとぼんやりとした視界の中で周りをキョロキョロと見回し始めた。その時、「おはよう、お目覚めの御加減はいかがかな?」という声が寝ぼけた坂川の脳内に響く。10数秒後、坂川は響いてきた声の主を理解し、一気に脳が活性化する。そして、「テメェ〜!どこにいるんだ!」と言って立ち上がろうとしたが体が硬直した様に動かず手足にも力が入らない。できるのはせいぜい体をピクピクと小刻みに揺らす事ぐらいだ。声の主「うるさいわねぇ〜黙らせとこうっと、」ヒミコはそう言い両手で片手剣をした。すると、満(何でだ?何故、体が動かない!…ってあれっ、喋れなくなったぞ、どうしてなんだ!)坂川が不可解な現象の数々に困惑しているとヒミコが「さて話を始めるとしようかな。」と言い坂川の手前に置いてあった椅子から立ち上がった。満(クッソ、どうしたらいいんだ、どうしたら…)ヒミコ「安心していいよ、私は命まで取ったりしないから、あっ、あと君の考える事は全部私も聞ける様になっているからね。」坂川の心の中で不安や怖さが増幅する中、ヒミコはそれを直接聞いたかの様にいゃ実際に聞いているのだ。満(なんだと!?そんな…テメェは僕をどうしたいんだ、何がしたいんだ、)坂川が震えながら口を動かそうとするがもごもごとするだけで喋れない。しかし坂川の心を聞き取れるヒミコは「だから命まで取らないと言ってるのに…まぁいいや、んで本題に入るけど…」ヒミコは思考停止している坂川に現在に至るまでの経緯をペラペラ喋り始めた。


それからヒミコは色んなことをペラペラと話していた。「…まぁ詰まる所理由は気まぐれだけじゃなくて君には妖術因子に適合する資質があってこの世界に連れてきたんだよね、決め手は適当な時に素質のある君が現れた事に限るけど…お〜い、聞いてるんですか?」ヒミコが思考が止まっている坂川に坂川を異世界に連れてきた経緯についてペラペラ喋っていると坂川は6秒くらい経って反応する。満(…こっちは今脳が考えるのを拒否しています、できればテメェをぶん殴って現状をチャラにしたいくらいです。)ヒミコ「酷い!乙女の顔を殴りたいだなんて君の少女趣味が理解できません。」ヒミコはそう言って自分の顔をプイッと横に向ける。坂川は全く反省の態度が無いヒミコに怒りの感情が募る一方だが本当にヒミコを殴った所で何も解決しないし、今はそんな事をする時ではないと思い直し心の中で返答をする。満(話を戻しますけどテメェは僕を別当とかいう自分の従者にしたいとそういう事ですかね?)坂川は自分が思考停止している間に途切れ途切れ聞いていたヒミコの話を要約して発言した。ヒミコ「大体の事は君の理解で合ってるかなぁ〜、さてさて君の返答は如何程に?」ヒミコは言い終わるとグイッと自分の顔を坂川の体へ近づけてきた。その行為に対して坂川は内心動揺しながら、(なりません、僕を危険に晒したような相手についていくなんて出来ませんよ、)ヒミコ「酷い言い草だね、私がいつ、どこでどんな時に君を危険な目に合わせのか具体的な答弁を求めます。」このヒミコの発言に坂川の心は怒りで沸騰する。満「ふざけるのも大概にしてくださいよ!テメェが僕をあんな場所に閉じ込めたせいで僕は今もおかしな目に遭ってるわけじゃないですか!何より僕を誘拐した時点でテメェは立派な犯罪者なんだぞ、」ヒミコ「なるほど、なるほど、君の言い分は理解できた、それで君は異世界でこれからどうしたいのかな?」満「なんだって…そんなことより気まぐれで僕をこんな状況に追いやったって言うんですか?冗談じゃない!僕は速くお父さんとお母さんの所に戻ります。帰してください!」坂川はヒミコに対して猛烈に怒り、そう言ったがヒミコは、

ヒミコ「せっかちだなぁ、せっかくの異世界だって言うのに…異世界が楽しいとは思わないの?」坂川は一瞬疑問を覚えたが不可解な現象の数々を実体験して、異世界だと信じるほか無く思い出しただけで恐怖が身体中を貫き次第に身体中がガタガタ震え始めるのを自覚しつつ、言葉で反論する。満「僕の気持ちを分かった上で言ってるんですか、僕をわざとこんな場所に連れてきといてそういう風に言えるなんてどういう思考をしてるんですかね。」坂川が皮肉ってそう言うとヒミコは頬を膨らまして怒り出す。ヒミコ「失礼な子ね、私がいつ不真面目な事を言ったかしら、私の思考は常に真面目で健全よ!」満「ダメだ、もう話が逸れてきた、とにかく僕を速く元の場所に帰してください!」ヒミコ「あぁそれは無理そうだよ。」あっけらかんと何でも無い感じにヒミコはそう言ったが坂川の反応は違った。満(えっ、どういう事ですか、もう一度言ってください。)坂川はヒミコの言った事が信じられずそう言った。ヒミコ「そう?じゃあもう一回言うから聞き逃さないでね、あと分かりやすく説明するのを忘れてた。私はこういう所もきちんと言えるから真面目なんだよね。おほんっ、君はしばらくの間元の世界には帰れませんよ、従ってその間やその後も私の従者になってもらいます。」ヒミコは咳払いをしてから坂川に現実を突きつけて坂川は唖然とした。坂川の思考が止まるのは異世界に来てこれで2回目である。


ヒミコ「…この屋敷の役職の穴埋めが欲しかったからなんなら異世界から連れて来ちゃえ〜ってなって、これで説明できたかな?」引き続きヒミコが喋っている中で、坂川は沈黙を守りヒミコの一挙手一投足を注意深く観ていた。しかし、注意深く観るあまり周りの声が聞こえずヒミコの喋っている声も聞きそびれてしまう。

満(…………痛っ!おい、何するんだよ!)ヒミコは人差し指を上下に揺らして坂川の顔を不思議な力[妖力]を使ってちねった。坂川はそれに呻いて咄嗟に顔へ手を当てようとしたができずに目だけを閉じた。満(おいっ、何をしてるんだ!僕に何をしたんだ、)ヒミコ「君が返事をしないから頭大丈夫かなってうん、頭の切り替えはちゃんと出来てるようだねっ、」坂川は(こいつは頭の中がどうなってんだ?それに幾ら注意しててもこれじゃ隙がねえからどうしたものかなぁ…)と考えた後、まぁとりあえず話を続けてください、(何の話にせよまずは現状を把握しない事には何にも始まらないし、何より今の状況について僕より詳しいのはテメェだからな、癪に触るがテメェの話を聞かせて欲しい所なんだよ、) ヒミコ「さっきから好き勝手に騒いでいるのは君の方でしょ、それなのに今の言い方は酷いなぁ〜泣いちゃおっかな、傷ついちゃおっかなぁ〜」ヒミコはそう言うと顔へ両手を添えて泣きべそを掻く真似をするが坂川はヒミコに(僕はどうして訳わからない場所に居るのか説明してくださいよ、僕は確か倒れて、それでそのまま気が付いたら此処に居て…)と言うとヒミコは「さっきから私の話を聞かない方が悪い、これは重要な話なのだからしっかり聞いてよね、」と言った。坂川はその言葉にハッとなって「はぁっ、」っと心の中で溜息を吐いた。満(分かりましたよ、あの…ごめんなさい、ちゃんと聞いてなくて…)

ヒミコ「ふんっ、まあいいわ、それよりも私の話の要点をちゃんと覚えているかしら?」満(…一応、それなりに聞いてたと言えば聞いてましたよ、でもそもそも論、貴方は誰なんですか?話って何の事ですか?僕は貴方と会話するのに必要な情報が不足してるんですよ。)坂川がそう言うとヒミコは「あぁ私とした事がまだ自己紹介もしてないっていうのに失敬な事をしちゃったねぇ〜」と言った。ヒミコは坂川がヒミコの二重人格を疑う程に声のトーンを変えて喋り出した。ヒミコ「一応言っておくけど私は同時多発的に色々聞かれても答えられないからね、なにせ口が一つしか無いのは君と同じだからさ〜さてさて私の名前はヒミコ、この世界では神様と呼ばれる類いと言えば分かりやすいんじゃないかなぁ〜どうかな、どうかな、凄いでしょぉ〜」と言い上機嫌に素早く喋り出したかと思えばすぐに気の抜けた態度へと変わる。そしてヒミコはだらーんと手足の力を抜いて畳の上に佇む。ヒミコは僅かにはにかんで畳の上に座り込む。次にヒミコは座った状態で指を鳴らしパチンッと乾いた音が部屋に木霊した。すると坂川の体の硬直と口が自由になる。坂川は自分の体が動かせる様になった事を確認した後、一息置いてこう言った。満「その前に頼みがあります。」ヒミコ「なんだい?」ヒミコは坂川の近くから自分の座っていた椅子に戻る途中でそう言うと振り返ろうとした。

満「一発テメェを殴らせろ!」坂川が椅子から立ち上がろうとした直後、ヒミコは左手を坂川に向けて指先から青白い光を発射する。満「うぐっ、うぎあぁ〜!」坂川が悲鳴らしき声を上げた後、再び体の自由が戻る前と同じ状態に変化する。ヒミコ「体の制御が戻ったからといって君の心にかけた術まで解除した訳では無いんだよ、しっかり学習しないとね。」ヒミコはそう言い今度こそ椅子に座って足を組むと「今の状態でしばらく考えてなさい、時間になったらまたここに来ますから。」と言いヒミコの体が青白く光るや否や一瞬でその場から居なくなってしまった。その結果、あとは体が硬直して動けない坂川だけが残された。

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巫女に妖術をかけられて connection @connection

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