第4話
夕食を済ませて食堂でくつろいでいると坂川が修道女に声をかけた。「あのっ、ちょっといいですか?」と、坂川が言うと修道女は笑顔で答えた。修道女「はい!何でしょうか?」満「あのぅ…職を探したいんですが……」と言った。修道女「そうですね…それでどのような職業をお探しですか?」満「それがそもそも就職したことないし、というかどの職業もよく分からないので何とも…」修道女は「えっと…それは難しいですねえ」と、言った。「そうですよねぇ…」と坂川は肩を落とした。さらに修道女は続けて「よければ修道院の畑仕事を手伝ってくれませんか?ちょうど人手不足ですので……」と、言った。それを聞いた坂川は思わず天にも昇るような気持ちでガッツポーズを取り、飛び跳ねた。この修道院では公共事業のような事を修道院自ら行っているらしい。坂川は喜びを体現したまま「はい!喜んでやらせてもらいます!」と答えたのだった。
翌日から坂川は修道院の手伝いを始めた。朝起きると朝食を済ませて修道服に着替えると、修道院の畑へと向かった。まず手始めに鍬を使って土を耕した。その後、雑草を抜いていく。そして種を蒔いた。それから水やりをする。最後に収穫した野菜を修道院に運んだ。坂川は、この仕事をするうちに体力がついてきたような気がした。坂川はフゥっと深く息を吐いて気合いを入れると作業に取りかかった。やがて時は過ぎ、「ふぅ……疲れたなぁ……」と、坂川は思った。「お疲れ様です!お昼の時間でーす!」と、修道女が労いの言葉をかけた。
その後、昼食を摂ってから午後の作業に取りかかった。今度は開墾作業だ。鎌を使って雑草を刈り取り、一箇所に集めることの繰り返しだ。坂川は黙々と作業をした。その後は夕食までずっと働いていた。坂川は修道院に戻ると夕食を済ませて自室に戻った。直後、ベッドに倒れ込むと深い眠りについた。
翌日も様々な場所を巡り歩いたが疲労で足が重くなるのを堪えつつ対岸の焼け焦げた街が見渡せる船着場にやって来た。この世界に初めて来た日の感傷に浸っていると坂川はノスタルジックな気分で小舟の集まる波止場に立っていた。そこで一人の少女が波止場の端に立っているのを見つけた。満(あんなところに突っ立っているなんて…一人で何やってんだろう?)坂川は不思議に思い、観察すると少女の容姿に思わず目を釘付けにされた。その少女は背後にある清浄に満ちた月光に照らされた眩いほどの銀髪を肩で切り揃え、切れ長の青い瞳をしたやたら整った顔立ちのクール系の美少女だ。そんな彼女は悲痛な面持ちで俯きがちに護岸の端に立って下を向いていた。その穏やかで儚げな印象を与える表情は穏やかな月の光に照らされて、まるで幻想世界の天使のようだった。少女は護岸の上に立つと下を向き川の流れを見つめる。川の中は水深が深く暗くて底が見えない。それに何よりも流れが多少は緩やかだが雨が降ったあとなのか増水しており洪水と化している。そんな状態の川へ落下するギリギリのところで、少女は俯きながら足を踏み出して川へと真っ逆様に落下した。少女に見惚れていた坂川はハッとなってほとんど衝動的に少女のいたところへ駆けていった。坂川は(自分が突然、大変な状況に追いやられてこんなにも苦労しているっていうのに目の前で先に逝って、楽になろうだなんて見ていて耐えられるかよ!)と思って満身の怒りを感じ、少女の後を追うと川へダイブした。坂川はこれでもスイミングスクールに通っていた経験がある高校生だ。クロールの泳ぎ方くらいは知っている。あと少し筋肉もついており、成長期なので体力もまだ伸びしろのあるお年頃だ。そんな坂川だが増水した川で泳いだ経験などほとんど無く試行錯誤しながら水中で目を見開いた。目に塵や砂が入り込んで痛かったが少女の命が懸っているかもしれない状況で四苦八苦していられなくなり、身体が冷え切る前に精一杯動き回って少女の行方を追った。
どれくらい時間が経ったのだろう?視界が薄暗くて、目を凝らしてみてもうっすらとしか見えない。冷たい水がどんどん体温を奪っていく。満「はぁはぁ、ふー…… なんっ……とか…… はぁはぁ」護岸の石に寄っ掛かるように留まっていた少女を発見した坂川は彼女の腕を掴んで川岸を伝いながら河原まで連れていった。河原は構造物が少なく草木が生い茂る半分草原みたいなところだった。まわりは、傾き始めた月の光が差し込む清流の流れる沢であり、人の気配も一切感じられなかった。川の水が光を反射してかなり綺麗な光景が見える。坂川は息を切らしながら河原に辿り着いた。坂川は水に濡れた体を衣服で拭いながら徐々に浅くなっていた川を完全に抜け出した。坂川は腰に手を当て仰反る様な体勢になった。そして河原に大の字に寝っ転がり、夜空を見上げて荒い息を吐いた。満「ひー、疲れたぁ、はぁはぁ……ようやく見つかったぁ〜」草花がクッションとなり、その場でリラックスするようにう〜ん、と伸びをして力を抜いた。都会では決して見られないであろう輝きを放つ星々を見上げながら坂川は暫し、休憩のために胸に手を当て呼吸を整えていく。息を整えた坂川はぎこちない足取りで少女を背負うとノソノソと歩き始めた。ちくちくと痛む足や手の痛みをぐっとこらえ、ゆっくりと川沿いを進んでいく。坂川は月の位置を確かめつつ、流れが緩やかになった水を湛える川沿いを徐々に下っていった。月がやや南側に姿を見せる頃となった。坂川は川岸沿いに足を進めていき近くにあった草むらへ分け入っていった。木々を掻い潜った先には、草木があまり生えていない更地のような場所に出た。此処で坂川は一度少女を降ろし、寝かせるため地面の上に横にさせた。寝かせると手近な場所に座って疲れを取ろうとした。坂川は寝かせると不安と畏怖を表情に浮かべながら眠る彼女をじっと見つめた。坂川は少女が目を覚ましてから話しかけようと思い、手頃な場所で体育座りになった。満「ふぅ、なんなんだ本当にこの子は、いゃ誰だ?」坂川は少女が目を覚ますのを待っている間、周囲を見渡しボーッとしていた。
坂川が暫し、ボーっとしていると少女が目を覚ました。少女は目を覚ますと辺りをキョロキョロと見渡して困惑の表情を浮かべた。少女「ここはどこなの?私は確か川へ落っこちたはず……」満「良かった、大丈夫かな?」坂川が安心した表情を浮かべて近づくと少女は警戒したような面差しで距離を取る。
満「あなたは何者?どうして私の近くにいるの?」満「それは…君が川に落ちたから此処へ連れてきて寝かせたんだよ。」坂川は誤解されぬようありのままのことを言った。少女「勝手なことしないで!」少女は激昂し、怒髪天を突く勢いで坂川を睨む。坂川はビクッと怯え、怖さを堪えながら恐る恐る言葉を紡ぐ。満「どうして…どうして助けたのにそんな風に反応するの?」少女「大きなお世話よ、私なんか死んでも構わないわ、だから放っておいて!」満「それはできない、命の価値は平等で大切なモノなんだよ、それを粗末にするなんてダメに決まってる!」坂川はできるだけ相手を刺激しないよう落ち着いた声でそう言った。少女「正論じみたこと言うわね、あなたは私の何が分かるって言うの?私の事情なんて何も知らないくせに何言ってるの!それにだいたいあなたには関係ないでしょ!!」少女の気迫に坂川は思わず口籠る。坂川は負けじと少女をジッと見据え、フゥッと深く息を吐いた。満「じゃあ関係なくちゃ人を助けちゃいけないのかよ、そもそも君を助けるのに僕がどれだけ大変だったと思ってるんだ。」少女「だから勝手なことしないでって言ってるでしょう、なんなのよ、さっきから私が君に何をしたっていうの?」満「いや、特に何もしていない。」少女「ならさっさといなくなって!とにかく私のことは放っておいて!!」満「それはできないね!大体なんだよ!こっちの事情も何も知らないで勝手に色々言って、そんなに人の命を助けるのがおかしなことなのかよ!僕はね、自分が突然、訳の分からない状況になってこんがらがってんの、川に流されて女の子に助けを求めたらビーム光線かけられるし、気がついたら火の中に包まれてるしさぁ…どうなってんだ、本当に!」坂川は大声で怒鳴り散らし、感情のままに喋り出した。最後に息を切らし、ゲホッと咳をした。
少女「それがどうしたっていうのよ!私は…私は逃げ出したのよ……大事な使命から、だからもう戻れないのよ!」
そう言うと少女は俯きがちに唇を噛み締めた。満「どういうこと…なんだ?」坂川は少女の言葉を聞いて、熱くなっていた頭を冷静にしようと音程を抑えて相手を威圧しないように尋ねた。少女「そうね、悪かったわね、あなたに言ってもしょうがないというのに、」少女もハッとして「ごめんなさい。」と言った。満「…なにがあったのか聞いてもよろしいですか?」坂川は努めて冷静にそう言った。少女「さっきからあなたには関係ないことだと言ってるでしょう、強情ね、さっさとどこかへ行ってちょうだい!」満「何度言われても答えは同じだよ、僕がいなくなったらまた自殺するつもりでしょ!」少女「…えぇそうよ、」少女は一瞬言葉を詰まらせたが迷わずそう言った。満「じゃあ僕も退くわけにはいかないな、人が死ぬって分かっていて見過ごすなんてこと今の僕にはできないんでね、それと君は知らないと思うけれど僕は此処について聞きたいことが山ほどあるんだ。」少女「そう、どうしても引かないっていうの?」少女が意志のこもった目で坂川を見つめてくる。満「そういうことになるのかな。」坂川はビクつきながら首を縦に振った。少女「分かったわ、なら…力ずくでねじ伏せさせてもらうわ!」満「えっ?」坂川が戸惑いを覚えたその時、少女は目を閉じると空を見て体から青白い光を発し、浮遊した。満「はっ?えっ、えぇー!」坂川はファンタジーな光景に目を奪われて動揺を隠せなかった。驚きに目を見開く坂川は、まさか人が手ぶらで空を飛べるとは思ってもおらず慌てふためいていた。いずれにせよまた一つ彼女に聞かなければならないこの場所についての不思議が増えた。ならばやるべきことも一つだ。坂川は自分にそう言い聞かせ心を落ち着かせた。少女は激しい燃えるような辛気を纏い始め段々強くなっていく。坂川はそれを見て自分の発言が迂闊だったと反省した。坂川が緊張し始めたのと同じ頃、少女は坂川のことを注意深く観察するように観ていた。そして左手を振り上げて鞭を打ちつけるように腕を振った。すると青白い雷光が迸って地面を叩き、乾いた音が響く。坂川は右隣りで光った光の青白さにビビって目を閉じ光を遮断しようとした。だが光を遮断する事はできず瞼を越えて届いた光を感じると河原で命中させられたビーム光線を思い出して心臓の鼓動が煩く感じる程速くなる。
直後、地面から乾いた音が反響して振動が地面を媒介に坂川の体へ伝達する。坂川は状況の把握が遅れ、身体中に強い衝撃が襲ってきた。そして体中の骨が骨伝導を引き起こし筋肉が痺れて体がいうことをきかなくなる。坂川は心の中で呻き、喚き、嫌がった。満「嫌だぁー!」坂川は苦痛から逃れたいという思いから最大限の声音で叫んだ。
坂川の様子を一瞥した少女は「ふんっ、」と鼻息を鳴らして坂川に近寄ると左右に両手を広げ右足を前に突き出して地面を踏みしめた。少女「我は魔術の使徒なりて光の玉よ、我に纏い、我を照らしたまえ!」少女がそう唱えると光の玉が5個現れて強烈な光を放ち、暗闇に堕ちていた夜を掻き消して1メートルくらいしかなかった視界がかなりの範囲に拡張された。
坂川は体中を駆け巡る恐怖に身を任せ、ひたすらあてもなく走り続けた。一心不乱に走っていると「私は逃げるのを認めた覚えはないよ!」少女はそう言い、いつのまにか坂川の隣りに並んで坂川の脇腹あたりを蹴った。満「うぎゃぁっ、ぎゃあぁ〜!」坂川は呻き声を上げて地面にしゃがみ込み口から唾液を吐き出した。そこで坂川は思考をフル回転させて顔を上げると目に映ったのは青白い光を纏い、漆黒の魔手を巻き取りながら操作している少女の姿だった。容赦のない決意を宿した眼差しで冷酷に坂川を見つめる。そんな少女を見据えた坂川は体が一瞬で硬直した。顕現させた魔手のうち一本は坂川の右足を縛り付けており、もう一本は坂川の体のあちこちを攻撃していた。坂川は恐怖で体が硬直した状態のまま抵抗できず、少女は魔手を形成すると坂川に向かって漆黒の手が放たれた。満「う、うわぁぁぁぁぁ」
坂川は恐怖のあまり目を瞑り体を捻って魔手から避けようとした。しかし何故か体が思うように動かず、魔手が自分の体に巻き付くのを肌で感じながら地面に倒れ込んだ。
すると坂川は右足にまるで無防備な肌へ針をぶっ刺したかの様な強烈な違和感を感じ、脊髄反射で足元に目を向けた。右足はブラックホールを想起させる程に漆黒の魔手で鷲掴みにされていた。
満「うぎゃあぁ〜!なんだ、何が起こったんだぁ〜!」坂川は魔手を振り解こうと暴れたが魔手は霧の様にかすめるだけで触れることもできない、それでいて高校1年生が足をばたつかせてもびくともしない力で坂川の右足を鷲掴みし続けている。そして鷲掴み状態となった右足を魔手は一層力を込めて握り締めようと動き出す。幸いにも右足に込められた力は足を骨折させる程の力では無く右足の縛りを盤石にする程度だった。だが坂川は再びの異常事態に落ち着きつつあった感情が溢れ出した。満(何なんだよ、何なんだよ!次はもういい加減にしてよ!もう何なの、なんで人を助けたらこうなるの?どうして人がビーム光線みたいなのを撃てるの?どうして僕はこんなファンタジーみたいな事態に巻き込まれてるんだ!だって、だって… うわぁ〜ん、うわあぁ〜ん、今もどうして黒い手みたいなもんに足を掴まれてるんだよ!どうしたって言うんだ…何なの、本当になんなんだよ!)坂川は泣き喚き暫し、今現在居る場所で立ち往生した。
満「どうして…何なの、本当に何なんだよ!どうして僕がこんな目に遭わないといけないんだ、どうしたらいいんだ、どうしよう…」坂川はやり場の無い感情が渦巻く自分の精神をコントロール出来ずに感情が昂る一方だった。そしてそれは自暴自棄とも言え次第に自分の感情を喚き散らす事に対して虚しさと無力感を感じてマイナスな方向へと思考がシフトしてゆく。
そして坂川は(このままあの女の子に殺されるのか?嫌だ、嫌だよ、どうしたらいいんだ、どうしたら…) と思うようになり、少女の姿を捉え警戒心を高めようとした途端…
満「うぐっ、ゲホッゲホォ、おぇ〜っ、」魔手は坂川に近寄り坂川の背中へ強力な拳の一撃を加えた。そして坂川は唾液と胃液が混じった液を口から流しながら蹲るように顔面から倒れ込んだ。少女は坂川に対してこれがトドメだと言わんばかりに片方の魔手の掌を坂川の方へ翳して青白い光の玉を瞬時に形成した直後、青白い光の玉を発射した。坂川は青白い光の玉で視界が霞んだ瞬間、[命の危機]を感じ「うぎゃあぁ〜!い、嫌だぁ、やめてくれぇ〜!」と発狂したのも虚しく6cmくらいある青白い光の玉は坂川の腹部に命中した。すると坂川は絶命はしなかったものの精神的なダメージを受けた。自分の心臓の音が煩く感じ 白目を剥いている事にさえ意識が向かず息切れしていた。徐々に意識が遠ざかっていき漆黒の魔手の動向を観れていなかった。坂川の意識は大きな動揺により意識の奥底へと真っ逆さまに沈んでゆく。
意識が微睡の中へ沈んでいくにつれてだんだん脳内で過去の記憶が回想し始めた。その回想してゆく記憶の中の一つが恐怖で凍りついている坂川の心の興味を掻き立て脳内で蘇った。 まるで走馬灯のように幼い頃に見ていた夢の光景が脳へ流れ込んできた。
満「うん?何だこれは一体何なのだろうか?」坂川は困惑していると目の前にその光景が一瞬だけ残像になって見えた。
子供「お父さん、お母さん!うわああ〜ん怖かったよ、寂しかったやっと帰ってこれたよ!」お母さん「満ちゃん!良かった、本当に良かった…。」お父さん「まったくお前は手のかかる子供だな、」そう言ってお父さんとお母さんに子供が抱きつくと2秒後に突然子供は真っ暗な空間に放り出された。満「うん、怖かったよ…あれっ、どこに行ったの?お父さん、お母さん!」子供は叫ぶが返答が無い状況でお父さんとお母さんがいない事を理解した。その結果、真っ黒な空間の中で子供の泣き声が響き渡った。
1秒後、坂川は夢の残像が消えると現実へと引き戻された。凍りついていた思考を無理矢理活性化させ今しがた坂川の興味を掻き立てた記憶を必死で引き留めようと踠く。そして自分の今の現状と引き留めた記憶の中の出来事を頭の中で照らし合わせながら目を閉じた。
満(小さい頃、僕は夢の中で暗い空間に1人ぼっちになって、不安や怖さのせいで泣き声を上げて思わず目を覚ましてしまった事があった。でも今は高校生にもなってさすがに昔の様にどうしたらいいのかすら分からずに泣く事はないと思っていた。だけど昔の夢の中の出来事が現実になって起こるとやっと分かった気がした。結局、自分は昔の自分と比べても成長しておらずただ自分勝手に思い込んでいただけなんじゃないのか…と、いゃだとしても僕は今までの十六年間の毎日を積み重ねて生きてきた事は確かなんだ。そして、これからも僕は… )
満「生きてくんだあぁ〜!」坂川は目を見開きたった今定めた揺るがない信念と共に遠くまで響く大声で叫んだ。
坂川は叫んだ直後、見開いた目で少女を睨みつけ近距離まで奴との距離が狭まっている事を自覚すると身体中に稲妻が走って、体中の血液が沸騰し、体温が上がり、心臓の鼓動が速まった様な感覚に堕ちいる。坂川は睨み続けている間、少女のみに視線を集中させ「生き残ってみせる。」という思いに全身全霊を賭けてそれ以外の感情や意識は一切眼中から排除した。坂川の脳は一気呵成し、感情論で埋め尽くされていた思考を落ち着かせ、急速に頭が冴えていく。この時、坂川は此処がもう坂川の知っている世界ではないと確信した。そんな事があるわけがないと思っていた。だが否応なく現実を突きつけられる度にこれぐらいしか辻褄の合う答えが見当たらなかった。そして目が覚めるようなハッキリとした一撃を受けてようやく此処が現実世界の理から外れた境地なのだと受け入れる覚悟ができた。坂川は目を瞑ると冷静になるべく一度息を吸ってゆっくり吐いた。そして目を開けると落ち着いた声音でこう話す。満「君の攻撃、物凄く痛いんだけど?まるで人を虐めるのを楽しんでいるかのようだねぇ」坂川は挑発するようにそう吐き捨てた。少女「何を言っているのよ、私ははやく君にどこかへ行ってほしいだけなの!」坂川の言葉に少女は物凄い剣幕で叱責し、グイッと顔を近づける。坂川は少女に感情を吐き出すように昂った声音で叫ぶ。満「あのさぁ、君の事情なんて僕には分かんないけれどこのまま何もしないで死んでいいの!?これだけの力が有れば大勢の人を助けられるだろうに…それなのに君は助けられるかもしれない人を見過ごして死ぬつもりなのか!君はこのままじゃただ責任から逃げただけの卑怯者だよ、死ぬのは全てが終わってからでもできるんじゃないの!」坂川の叫びを聞いた少女は一瞬だけ坂川の表情を推し量るように見据えた。そして静かに目を閉じると何かを考え込みはじめた。突如訪れた居心地の悪い静寂に坂川は思わず少女に声をかけた。満「あっ、あのぅ……何か僕は気に障る発言をしましたかねぇ?」だが少女は坂川の存在を意に介さずにただ深い思考に浸っていた。無言の時は少女の深い吐息によって破られた。少女は深い吐息を吐くと何かを堪えるように目を開いた。少女「そうね…確かにあなたの言葉にも一理あるかもしれないわね。」満「なら…」少女「だったら貴方も私が体験したことを経験してみたらいいでしょ……そうすれば私がどんな目に遭ったのか分かるはずだから」少女は哀愁の込もった表情で俯きながらそう言った。満「えっと…どういうこと?」直後、青白い光を放って少女は一瞬で坂川の右隣り2メートルくらいの所へ現れた。そして周りの景色が一瞬で真っ白に輝き、強烈な光の強さで視界が霞み目を閉じた。だが光を遮断する事は出来ず瞼を越えて届いた光を感じた坂川は痛みに呻いた。満「うわっ!?」坂川は思わず声を上げてしまう。時間が過ぎていくと次第に光の強さが増していき目を閉じても防ぎ切れないほどになった。光が収まった時、坂川は気絶した。
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