第27話 駅の下見、大胆に


「⋯そういうわけで、

緊急ですみれいさんに

ご依頼の相談をさせていただきました」

「なるほど、委細承知しました」


状況は思ったよりも切羽詰まっているみたいだ。

山中の表情も、

今みると気丈にしているように見える。


「場所はここのすぐ近くの駅な訳ですが⋯

いつ頃に取り組んでくれますか?」

「そうですね⋯霊の強さが未知数なので、

事前調査を重ねる必要があります。

その間に学校などお休みに

なられてはいかがでしょうか」

「いえその、

推薦のために内申点を損なう訳にはいかなくて」

「山中様の身の安全のためですが⋯できませんか?」

「はい、国公立を狙っているので」


話す度に、殊勝な人物に思えてくる。


「⋯分かりました、

まず成功報酬で二万円でどうでしょう」


思い切って切り詰めたね。


「え!?そんな、流石に悪いですよぉ⋯」


悪いと言いながら、

山中の顔からは笑みが零れている。


「公共の場所にいる幽霊に、

山中様がわざわざ対処しなければならない

理由はありませんし、場所も近いので」

「いやはやそんな⋯ええんですか?ホンマに⋯」

「失敗で一万円、同業の仲介料として貰います」

「えああ、はい、そうですか⋯」


露骨にテンションが下がる。

殊勝と言うよりは、たくましい性格のようだ。


「日時としましては、

緊急性があるので

今週の日曜日などいかがでしょうか」

「はい!早く済むのならそれで、お願いします」


今日が金曜だから、二日後か。


「分かりました⋯他になにか、

連絡事項やご質問などありますでしょうか」

「いえ、特には」

「了解しました、当日は万が一を考えて

山中様には自宅待機をお願いします」

「分かりました」


霊美ちゃんが立ち上がり、

それにつられて立ち上がる。


「では、本日はありがとうございました」

「ああいえ、こちらこそ」

「我々はこれで失礼いたします」

「失礼します」

「ええ、また」


喫茶店から立ち去る。


「霊美ちゃんってさ」

「何かしら」

「敬語上手だよね」

「まぁ⋯同じ年代の人よりは上手いと自負してるわ」

「ふふ、自信がある所は謙遜しないの、可愛いね」

「ッ⋯」


霊美ちゃんがそっぽを向いた。


「あ、ごめん、つい口から出ちゃった」

「い、いいのよ、不意打ちで少し驚いただけだから」

「⋯可愛いって言われるの嬉しい?」

「それは嬉しいけれど⋯私って可愛いかしら?」


はにかんで答える霊美ちゃん可愛い。


「んー?可愛いけど、なんで聞いたの?」

「えっと⋯私は美人ってよく言われるから、

可愛いって言われるの初めてだから、

すみれさんには何が見えているんだろうって」

「ふふ、私のはプリティよりも

ラブリーから可愛いって言葉が出てるかな」

「ラブリー⋯うふふ、

それをサラッと言えるすみれさんは、かっこいいわ」

「かっこいい⋯」


初めて言われて、あまりピンとこない。

でも嬉しさはある。


「ふふ、そういう感情よ」

「あーね」


すぐに切り返して同じ感情を味わせるとは、

なかなかやりおる。


「着いたわ」


件の駅。

事前情報ありきだと、

普通の駅が心なしがおどろおどろしく見える。


「今日は下見、キスできそうな場所を探しましょう」

「うん」


言葉だけ聞くと面白い。


「改札は通ってしまうから、

いつもより電車賃がかかるけどいいかしら」

「いいよー」


改札を通ってホームに向かう。


「この駅から学校に向かうホームは⋯こっちね」


階段を上ってホームに着く。

学生や主婦がちらほら、

普通の規模の駅の午後といった具合の人口密度。


「端に幽霊がいるらしいけれど、

見える?すみれさん」

「うーん」


駅全体にそれっぽいのが散りばめられているが、

大きいもやは見当たらない。


「見えないや」

「山中さんの証言の通り、

特急に引かれた時点で

消えてしまうのかもしれないわね」

「かもね、死んだ理由も何となくわかるし」

「聞かせてもらえるかしら」

「まあ単純に、

仕事が嫌で遅刻ギリギリまで駅にいて、

何かの拍子か自分の意思で

飛び降りたんじゃないかってね」


話を聞く限りで、私が想像したストーリーだ。


「私も、似たようなお話を考えていたわ」


端に歩いてたどり着く。


「見られずにキスできるかな」


死角になるような柱や時刻表はない。


「こことかどうかしら」


霊美ちゃんが自販機の横を指さした。

確かにここなら、

中央からは死角になっているかもしれない。


「こんな感じ?」


霊美ちゃんを軽く引っ張り壁に押し、顎クイする。


「ええ、正しく」

「んむ」


霊美ちゃんの腕によって腰が引き寄せられ、

そのままの勢いでキスした。


「⋯ぱ、大胆だね」

「ええ、あなたのおかげで」

「そりゃどうも」


体が離される。


「ふふ、あとはいつキスするかね」

「タイムリミットは朝の八時半くらいになるのかな」

「ええ、だから余裕を持って五時に集まりたいわね」


結構早いな。


「幽霊がいつ現れるか分からないのに?」

「いつ現れてもいいように、よ」

「なるほど」


それは確かにそうだ。


『ガタンゴトン、ガタンゴトン』


特急が通過した。


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イチャイチャ除霊 百合unlimited 甘頃 @amagoro

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