第2話 調味料
きのこの化け物。おそらく魔物だ。普通のきのこよりも何倍も大きいし、何故か二足歩行で立っている。
町の中なのに魔物が現れるのか。正直驚きだ。
…いや待て、俺は身一つだ。なんの武器も持っていない。それに空腹でもある。
俺よりもずっと小さいがこっちのほうが不利。相手は歴戦の猛者かもしれない。
…だが、俺はとんでもなくおなかがすいていた。そう、とんでもなく。
だから、目の前に現れたきのこはどう見ても、空腹を満たす食べ物にしか見えなかった。
きのこの魔物がとびかかってくる。俺は、それに乗じ大きく口を開け…
きのこに嚙みついた。
「きょえええええ」ときのこは咆哮するが俺は容赦はしない。噛みついたところを引きちぎり、そのままきのこが動かなくなるまで噛みついた。
…まあ、飛んだ変人である。はたから見たらただのやばいやつにしか見えないだろう。
さて、このきのこをどうするか。生は少し心もとない。焼くにしても火がない…。
ダメだ、やっぱ食中毒になるのを覚悟で生で食うか。
そうして、俺は意を決して生のキノコを口に…
「ちょっと!何やってるんですか!!」
いれるすんでのところで、後ろから声がかかった。
声の主は、俺の目線より低い位置にあった。
それは俺よりも低い男性であって、丸縁の眼鏡をかけていて、大きな荷物を背負っていた。
「だめですよ!」
もしかしたら、宗教とかの問題か?魔物を食べたらいけないとか…。
でも三日食べてないんだ、何を言われようと…
「きのこの魔物なら火であぶらないと!食中毒になります!!」
あ、そういうことね。
俺は全く料理のことを知らないのだが、話しながら彼が調理してくれた。
「きのこの魔物は、普通のきのことは違うんですよ、特に二足歩行ですし、核があります。まずはそれを取り除かないと。」
彼はきのこを真っ二つに切り裂き、足をもぎ、核と呼ばれる石を取り出した後周りの石で即席のかまどをつくり、その上に彼が持っていたであろう鍋を乗せ、油をひき、きのこを一口サイズずつに切って、きのこの魔物をいためた。途中で塩コショウなどをまぶしていた。
俺はその間、核と言われる石を見つめていた。
「核かあ…こんなのがあるんだなあ。」
「え、知らないんですか?」
調理をしている彼は目を丸くした。丸い眼鏡のおかげでさらにまん丸く見える。
…そうか、この世界じゃ当たり前なのか。それに俺は知らないことが多すぎる。このままだとまずい、なぜこんなに知識がないのかと疑われる。それに俺は何も持っていない。
かといって、「異世界から来たんだ!」といって、信じてくれるような人がいるだろうか。
適当に言い訳をしなければ。
「えっと…、俺の家族はかなり過保護でな、外は魔物が居て危険だからと中々出させてもらえなくて、それで部屋に引きこもって…、だからほとんど外のことは知らないんだ。…家族が嫌で家出したものの何も持ってなくてな。」
苦し紛れについた嘘だったが、彼は目をうるうるさせていた。
「それで何も知らないなんて…、なんと悲しいことです…。」
彼はそう言い、涙を額に落とした。
「え…泣くほど?」
ちゅうかマジで腹減った、食わせろ。
俺の腹から空腹の魔物がぎゅるぎゅるとうめいている。
「あ、焼けましたよ。」
「うおお!!!」
三日ぶりの、飯である。
彼が取り箸で取った一つのキノコを間髪入れずに口の中に入れた。
「あっつ!でも、うめぅえええええ!!!」
暑さと、きのこのうまみが口に広がる。塩コショウで味付けされたそれは空腹と相まって極上のうまさを醸し出していた。
何度も噛んで味わい、俺は滂沱の涙を流した。
「え、泣くほどですか…。」
彼は俺をみつつ少し引いていたが、俺はきのこのおいしさをかみしめていた。
昔の格言は、実に物事の本質を表していると言えよう。
空腹とは最高の調味料である。
異世界ゲテモノメシ pcラマ @pcrama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界ゲテモノメシの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます