第275話
俺はビールのシャワーを浴びせられた。
途中から俺の容姿を語る話し合いを聞いてしまった。
まあ、悪口とも言える。
でも別に怒りはない。小さな事でフラグが回収できて良かった。
「おー無事だったにゃー!」
彼女に悪気はないのはわかっている。なのでまるで悪びれない。
「トキオ殿…すみません。この者、酔っ払っておりまして…」
ウオルフが何かニャーを庇い、気まずそうに言っているが俺の耳には入っていなかった。
猫耳ワイルド戦士のニャーは、ぐらぐらと揺れている。目線が合ってない。その猫耳も、腹だしの服装も、後方でさまようように揺れる尻尾も百点満点で千点だった。
だって、にゃー言ってるんだ。何度か頂きました。
「すみませんでした。まあ、こちらにお掛けください」
うるさい。普通といわれて驚く俺じゃないから。前に入って来ないで!踊るワイルドレディが見えないだろ。どけ!
「ニャー。君は僕が、普通だというんだね」
「普通にゃ」
気絶するかも!
五秒ほどの動画にして辛い時に何度も再生したい。
『普通にゃ』『普通にゃ』『普通にゃ』『普通にゃ』
「ニャー、下がってろ。おまえ酔っぱらいすぎだぞ。お帰り、兄さん!」
ウーチャが、ふらふらしているニャーを後ろに送る。集まった女子たちがニャーを連れ去っていく。
待ってー!おまえが下がれ、ウサ耳親父。顎割れを見せるな。記憶が薄れる!
ウオルフが前に立つ。
「トキオさん、無事で何よりです。ガー、おまえには後で話がある」
「…すみませんでした」
ガーが深々と頭を下げる。
それで場面が、雰囲気が切り替わってしまった。
ウオルフは、ガーと俺にはっきり表情の違う顔を見せる。少しは庇ってやりたいが、どうせ、まあまあぐらいしか言えないし。そっちは任せる。
侍のように男らしい所のある彼なら、難なく乗り超えられるだろう。ガンバ。
そこでイラーザが口を開く。ニャーが居た席に座り、ふがふがじーさんに真っ直ぐ目を向けている。
「トキオ様は不細工だから、伝説の勇者ではないと?」
話を蒸し返すな。どうでもいいことなんだ。
大体、不細工とは言ってないだろ。あれ、なんかムカッとする。コイツ!後ろから両手で無い乳を揉んでやろうか。
「その者青き衣を…いや赤き…茶色の服を着た…嫌、服の色の事なんかなかったかの?」
おいおい大丈夫か、じーさん。
「いかな魔獣でもすれ違うだけで倒し。見目麗しく、その姿は光り輝き、神の化身かと思われるほど美しい…決して見間違いなどしない…容姿の…」
一同の息が止まる。
おいそこ!
そこで俺を見るんじゃない。俺が言ったか?俺は別に勇者だなんて一言も言ってないだろ。
その時、ふがふが村長の視線が、俺の後ろにいたアリアーデを捉える。
髪の覆いかぶさったその目に光が灯る。
「見目麗しく…神の化身かと思われるほど美しい………従者を連れて…現れる?」
「うおおおおお!」
「そうか!そう来るのか!」
「そーだ!さっきも、魔獣をすれ違うように倒したと!」
「ああ確かに女神かと!子供たちがそう呼んでいたぞ」
「なーる!」
「じゃあトキオ様は、勇者様?」
「伝説の勇者か!」
辺りに集まっていた奴らが歓喜の声を上げる。
待てーー!今のおかしいだろ。ボケてるからこのじーさん。青が茶色になって。関係ないか、みたいになってたでしょ。
ちゃんと語尾を見て。?だったよ。
大体、そう来るわけねーだろ!まるで繋がってなかったよ!老人の妄言だよ!
「勇者は、その証明のために…力を試される事になる」
じーさん…まだ続けるのか?
やらねーよ。
冗談じゃない。ガーが言わなきゃ二度とこの村には来ねえよ。なりたくねーから。
「困難に立ち向かい、言い伝えのダンジョンを見つけ出し、伝説の秘宝を手にれるのじゃ」
「じゃあ、おやすみなさい」
じゃあな、俺たち明日には去るからな。寝よう、寝よう。眠って嫌なことは何もかもリセットするんだ。人間寝ると嫌な記憶が薄れる便利機能がついてるらしい。
無謀な夢を見ちまう代わりに、オプションでつけられた神の良心だろう。
それを使う。
え、今なんて言った?
「秘宝って…本当にそんな伝説があるのですか?」
珍しくアリアーデが声をあげる。その声には感情が見えていた。
「この世の、全ての憎しみを打ち消すという伝説の宝具じゃ」
ライムとイラーザも、目をキラキラさせていた。
俺も、宝とはっきり言われて黙ってはいられない。
全ての憎しみを打ち消す……。すごそうだな。ウルトラレアの匂いがする。
俺は、美しい従者を連れた勇者かも知れない。
考えてみたら仲間は皆整っている。
美しい従者を連れたは、合っている。
肝が小さい俺は時を停められる事を秘密にしている @yuki-shimo
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