第2話
「嫌ですよぉ~先輩。こういうの私、嫌いじゃないですけど……それ玉が入ってますから、危ないですよ」
「だから?」
「縛って傍に置きたいほど私の事が好きなのは嬉しいですけど、どちらかと言うと私、S属の女王さまの方がやりがいがあります! 試して見ます?」
このような状態でも口の減らないさつきを、成宮は不敵な笑みを浮かべながら、どんどん後ろへ下がっていく。この距離から銃をぶっぱなすと、ターゲットの破損が激しくなる。距離、角度が大事だ。美しい死こそが成宮にとっての正であり愛なのだ。
「他に言い残すことはあるか?」
「キャーかっこいいですぅ。本当にそんなセリフを言うんですね。感動です! あ、先輩? 定時後の武器の使用は法的に処罰されますよ。ご存じだと思いますが……」
「知るか」
成宮は容赦なく引き金を引いた。
パーーーーンっ。
乾いた音が鳴り響き、目の前のさつきは玉の威力でまるで天を仰ぐように息絶えた。
おそらく、自分の身に何が起きたのかも分からなかっただろう。
全てが終わった。
そして火薬の香りの中、成宮は絶頂を迎えていた。
『終わったか?』
声の主は本部所属の同期、重田だった。
雑音と共にイヤホンから流れる声に、現実に引き釣り戻された成宮は、インカムのマイクに向かってつまらなさそうに呟いた。
「あぁ」
『今回もお見事だったな』
部屋の中はどこから沸いたのか、多くの隊員たちがいくつもの証拠を片っ端から片付け始めていた。
無言で対応する隊員たちの何人かは、死体となったさつきを見て「成宮さんってやっぱスゲーな」と称賛する声が聞こえる。それほど、美しいご遺体がここにあった。
「ターゲットAはどうした?」
『お前の指示通り、同時刻に任務完了だ。そこからもお掃除隊が見えるだろ?』
「そうか。ターゲットBは何をやらかしたんだ?」
成宮はもう話すこともできない、さつきを眺め通信先の相手に尋ねた。
『おおかた、上の秘密を握っちまったんだろ? 俺たちは知らない方がいい』
「そうだな……」
ゆっくりと立ち上がり、持ってきたものを片付け始める。
『特ボーは、振り込んだ』
「あぁ」
『確認しないのか?』
「信じてるさ」
ビルに入ってきた時とは違い、バックパッカーの格好をした成宮が、リュックを背負い作業中の面々に声をかける。今回のミッションも全てクリアだ。
『お前……やっぱり変わってるな。楽しんでんだろ』
「さぁな」
『もし、あいつが素直に帰っていたら、どうした?』
成宮はトントンと軽快に階段を下りながら考える。
「その時は別な方法で仕留めたさ」
『お前に狙われたら最期だな』
「切るぞ」
『あぁ、仲間を殺った事は気にするなよ。お疲れ!』
「あぁいう女は嫌いだ」
成宮は流行りの音楽に切り替え清々しい気持ちで歩く。この仕事は成宮にとって天職だった。
ピピっ。
スマホに暗号化されたメールが届く。
『次のターゲットは……』
成宮の顔に笑みがこぼれた。
END
変人を極めろ!成宮恭太郎の危険なお仕事 桔梗 浬 @hareruya0126
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