第3話

「大輝、一緒に頑張ろう!うちのクラス、絶対に1位を取ろうね!」

 隣の席の男子生徒が僕に話しかけてきた。僕は「うん、頑張ろう」ととりあえず返事をした。

 僕はあまりやる気がなかった。

 クラスのみんなと力を合わせて、1位を目指すため、みんなは頑張るようだ。

 クラスではさっそく作戦会議が始まった。みんなが次々とアイデアを出し合う中、教室は活気に満ちていた。「焼きそばはどうだろう?」「いや、タピオカミルクティーが今流行ってるよ!」「クレープなんてどうかな?」意見が飛び交う。


 しかし、僕はどこか浮かない気分だった。人前で意見を言うのが苦手な僕は、自然と議論の輪から外れてしまっていた。


 放課後、唐突に楓から話しかけられる

「大輝君、何か良いアイデアある?」

 僕は驚きつつも、嬉しさでいっぱいになった。楓が話しかけてくれたのだ。久しぶりの楓の声に、胸が高鳴る。

「うーん、そうだな。オペレーションのしやすさと、販売する料理の選択が重要だと思う。在庫数や販売価格も戦略的に決めないといけないね。」

 最近読んだビジネス書を思い出しながら、僕はアドバイスした。確か、『ザ・ゴール』という本に書いてあったのは…

「僕たちの模擬店は、まるで一つの工場みたいなものだよね。工場には『ボトルネック』というものがあって、生産性を上げるには、そのボトルネックに着目することが大切なんだ。」

 楓は興味深そうに頷いた。「ボトルネックって何?」

「ボトルネックっていうのは、生産工程の中で一番時間がかかる場所のこと。そこが詰まってしまうと、全体の生産量が制限されちゃうんだ。だから、僕たちの模擬店でも、料理を作る速度や会計の速度など、どこがボトルネックになりそうか考えないといけない。」


 僕の説明に、楓は感心した様子だった。「なるほど!それを見つけて改善すれば、もっとたくさんのお客さんに料理を提供できるってことだね。」

「そうそう。あとは販売価格も重要だよ。価格を上げればたくさん利益が出るけど、お客さんが減っちゃうかもしれない。逆に価格を下げれば、お客さんは増えるけど利益は減る。需要と供給のバランスを考えて、ベストな価格を設定しないとね。」

 楓は真剣にメモを取りながら、僕の話に耳を傾けてくれた。こんなに真剣に僕の話を聞いてくれるのは、久しぶりだ。


「大輝君、すごいね!よくそんなに知ってるなぁ。私、経営とかあまり詳しくないから、大輝君に教えてもらいながら頑張りたいな。」楓の言葉に、僕の心は躍った。

「い、いいよ!何でも聞いてよ。一緒に1位目指そう!」

 楓と二人で作戦を練っていると、自然と会話が弾むようになっていた。久しぶりのこの感覚。昔に戻ったみたいだ。


 僕は持てる知識を総動員して、楓にアドバイスをした。在庫管理の重要性、販促の方法、原価率の計算方法…。お父さんのパン屋を助けようと思ってビジネス書で得た知識が、今、役に立とうとしている。



 もちろん、僕たちはあくまで高校生だ。専門的な内容は脇に置いて、もっとシンプルに考えることも必要だろう。みんなで楽しむことを忘れちゃいけない。

 時間が経つのも忘れて、僕と楓は話し込んだ。気がつけば、教室はもう空っぽ。二人きりの教室に、夕日が差し込んでいる。

「ねえ、大輝君。久しぶりにこうしてゆっくり話せて、楽しかった。これからも、たくさん話そうね。」

 楓のその言葉に、僕は大きく頷いた。「うん、もちろん。」

 楓は頬を赤らめながら微笑んだ。その笑顔に、僕の心はすっかり溶かされてしまった。

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僕と幼馴染とキャッシュレス学園祭 Nano @nano95

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