第2話

 そんなある日、担任の鈴木先生から衝撃の発表があった。今年の学園祭では、クラスごとに模擬店を出店し、売上を競うことになったのだ。教室には興奮と戸惑いが入り混じった空気が流れた。


「今年は特別に、buからお手伝いをいただいています。支払いはすべてキャッシュレスのbupayで行われます。売上額と売上数は15分ごとにリアルタイムでTVモニターに表示されます」と鈴木先生は説明した。


 生徒たちがざわめく中、教室のドアが開き、一人の男性が入ってきた。bu社の営業担当、田口さんだ。黒縁の眼鏡をかけ、スーツに身を包んだ田口さんは、にこやかな笑顔で生徒たちに語りかけた。

「みなさん、こんにちは。bu社の田口と申します。今回、私たちbu社は、この学園祭に特別サポートさせていただくことになりました。クラスごとの売上競争、楽しみですね!」


 田口さんはスクリーンを指し示しながら、競われる内容を詳しく説明してくれた。各クラスは自分たちで模擬店のコンセプトを決め、販売する商品やメニューを考案する。当日は来場者にbupayアプリをダウンロードしてもらい、QRコード決済で支払いを行ってもらう仕組みだ。

「売上額と売上数は、TVモニターでリアルタイムに確認できます。ライバルクラスの動向もわかるので、臨機応変に作戦を変えることも可能ですよ」と田口さんは言葉を続けた。


 さらに、田口さんはある特典について話し始めた。「今回、先生方と話し合い1位のクラスには特別なご褒美があります。それは、クラスの冷暖房の温度を自由に設定できる権利です!」


 その言葉に、生徒たちは色めき立った。今まで、冷暖房の温度は学校側が一律に設定しており、生徒たちはその設定に従うしかなかった。夏は暑すぎて汗だく、冬は寒すぎて手がかじかむ。そんな不満を抱えていた生徒たちにとって、この特典は魅力的に映ったのだ。


「1位のクラスは、冷暖房の温度ロックが外され、自由に設定できるようになります。快適な教室で授業を受けられるチャンスですよ!」と田口さんは笑顔で語った。

 田口さんの説明が終わると、教室は興奮に包まれた。生徒たちは口々に作戦を話し合い始めた。どんな模擬店にするか、どうやって売上を伸ばすか。アイデアが飛び交う。


 そんな中、僕は楓の姿を見つけた。楓もまた、目を輝かせて友達と話し合っている。こんなに生き生きとした楓を見るのは久しぶりだ。

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