僕と幼馴染とキャッシュレス学園祭

Nano

第1話

 高校2年生の新学期が始まった。桜の花びらが舞う中、僕、田中大輝は教室に足を踏み入れた。相変わらず目立たない存在だ。クラスメイトたちは笑顔で談笑しているが、僕はただ静かに自分の席に着く。窓際の席から外を眺めると、隣のクラスの佐藤楓が友達と楽しそうに話している姿が目に入った。


 楓は僕の幼馴染だ。小学生の頃は「やーい。夫婦だー」とからかわれるほど仲が良く、いつも一緒に遊んでいた。公園で鬼ごっこをしたり、秘密基地を作ったりと、かけがえのない思い出がたくさんある。楓の笑顔は僕の心を温かくしてくれた。


 しかし、中学生になってから、僕たちはクラスはずっと一緒だったものの疎遠になってしまった。彼女がどんどん綺麗になっていき、自分が見劣りしていて不釣り合いに感じるようになっていったことがきっかけだった。会話する機会が徐々に減っていき、気づけばほとんど話さなくなっていた。それでも、楓が隣の家に住んでいるので、たまに顔を合わせることはあった。


 高校に入学してからは、楓との距離がさらに広がってしまった。楓はますます美しくなり、学校中の注目を集めている。運動神経が良く、勉強もできる美咲は、まさに「学校のマドンナ」といった存在だ。


 一方、僕は相変わらず目立たない、平凡な高校生。楓との差を感じ、僕は気後れしてしまい、全く話しかけることができなくなった。


 教室で楓の姿を見た僕は、昔の思い出がよみがえってきた。一緒に遊んだ日々、無邪気に笑った彼女の顔。今でも楓のことは大切に思っているが、勇気が出ない。話しかけたい、昔のように仲良くなりたい。でも、僕には自信がない。楓を見つめる僕の目には、切なさと憧れが混ざり合っていた。


「田中君、佐藤さんのことをじっと見ていたよね?」

 突然、隣の席の宮坂京介が話しかけてきた。僕は慌てて目をそらし、「な、なんでもないよ」と答える。しかし、心の中では楓との思い出が渦巻いている。

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