第17話 矛盾

「あ……?」


 腹。貫かれた。誰に。何故。


「甘ったれだな、永夜の坊ちゃん。筋は悪くないんだが。」


「その、声…」


 雑に突き飛ばされて腹から刃は抜かれる。そのせいで血が止まらない。脈動と共に血は流れ、朦朧とするが痛みがそれを許さない。


「昼ぶりだな。」


 声の持ち主、つまり貫いた人物は星魔黎亜せいまれいあ。その手には弱い光を纏っている剣が握られていた。


「何故って……罪人だからだよ」


 罪人、何の…


「俺の始祖様はシャルルマーニュ。明星様の家族。ということは、だ」


 剣を振り上げ、追撃をされると思い反射的に刀を握り直し受け止める。


「永夜始祖様と親密な関係でもある。何せ、明星様が選んだ御相手だからな」


 キィンッと音を立てる。ギリギリと力が拮抗する音がするがじきに崩れる。

 受け止めて分かったが力も技量も桁違いだ。


「なら星魔は永夜の血縁者…身内か。そう言って相違ない。」


「ぐッ」


 このままでは頭と身体がさよならすると思い跳ね返し、体制を整える。

 痛みのせいでしっかり意識があるのが幸いだ。


「星魔始祖様…シャルルマーニュ様は少なくとも永夜始祖様と親密だったとされている」


 振り上げ、上だ。

 受け止めるのは得策じゃない、と避ける。行動をするとその分血が流れる。逃げるしかない。


「永夜始祖様はこの地に平和な統治を築いた。人を愛し、人外を愛し…差別なき無償の愛。けどその記録は遺らず、偉業だけが独り歩き。」


 振り上げからの叩きつけというやつか、その動きで地面が軽く割れた。

 逃げるしかない。視線は逸らさず。


「シャルルマーニュ様は恐怖政治を強いた。」


 ズザッときり払われ、砂塵が舞い散る。やばい、視線ッ!


んだよ分かるか」


 砂塵を切り裂くように手が伸び、首を掴まれる。


「ぐッ…あ」


 なんだこの馬鹿力ッ!息できないどころか骨折れるッ!


「親密な仲であるのに恐怖政治を強く、永夜始祖様の意志とは、方向とは逆。対立の火種になる。」


 逃れようとしても逃れられない。むしろ逃げようともがく程不利な状況に追い込まれる。どうにか逃れようとするがその言葉に耳を傾けてしまうのも事実。気が散る。


「なのに強いた。おかしいだろ。」


「はッ……ぐッ」


 おかしい。おかしいとも。でもそれ以上は分からない。考えれない。


「この矛盾が示すのはなんだろうな」


「はッ………ぁ」


 いきできない。だめだ。しぬ。むじゅん?わからない、わからないって。


「なあ、お前は何を知っている」


 最後に聞こえた声はそんな疑問だった。

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幽閉のアイソレート〜償いは新月の夜に〜 海原珊瑚 @october_unaharasango_rain

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