最終話  聖女と神剣(レプリカ)

「おらおら~~ どけどけ~~ 聖女様がお通りだ~~」


 光の神殿の中に、銀色に光ったままの姿で、マークエロイーズは入っていった。胸に光の精霊グレシャスが光って見えていた。

 彼女が、聖女だと言うのはもう間違えようの無い事実だ。


 本人も認めてるしね……


「何処に行く気だい? マーク」


「神剣の間だぁ!! まだあるんだろ?」


「あるけど、もうそこにあるのはさっきも言ったけど複製品レプリカだよ。二百五十年くらい前の魔法鍛冶士の作った模造品」


「そんなもの拝んでるから、劣化するんだぜ。神殿は!!」


 自称闇堕ち聖女の言葉とは思えないな。

 神殿を心配してるように聞こえる。気の所為かな?


「神殿の一番奥が、神剣の間だ。大将、そこまで風のマントで姿を隠してくれ」


 <了解>


 風のマントなんて、古風な魔法を使いこなすんだな。


「でも、神剣の間には、鍵と結界が……」


 僕たちは、風の大将の絨毯に乗って低空飛行で神殿に乗り込んでいたんだけど……


 見れば、もうすでにマーク・エロイーズは、神剣の間に入り中央に置いてあった神剣(レプリカ)を抜いていた。


「さすがに、レプリカだから抜けるな。おーい!! 聞こえるか もともとはお前の名前の一つなんだって? 俺はいらねぇから、お前に返してやるよ」


 な、なんだって!?

 何を言ってるんだ……? マークは !?


 すると、レプリカの神剣が鈍く銀色に光り出した。

 そして、人の形を取りだしたのだ。


{『グレシャス』ノ名ヲワレにカエストイウカ……ソシテ、ソナタハドウスルツモリダ……?}


 鈍く銀色に光る人型は、マーク・エロイーズに問いかけた。マークは、しばらく考えて、


「魔族も魔物もいないなんて、勇者にもなれないじゃないか! でもまぁ、神が平和な時代に転生させてくれたんだ。田舎で、スローライフでも良いな!!」


 ちっとも闇落ちしてないじゃないか!! 僕の心配をよそにマークは僕の顔を見てニコニコと笑っている。

 前世で闇落ちして魔王になって、神剣で討たれて塵になって再生して魂が修復して生まれ変わるのに千年もかかってるんだ。そう簡単には、再び闇堕ちはしないんだろうな……というのが僕の見解。


 僕は、マークと神剣グレシャスの会話している間に、コッソリ神剣の間を抜け出し て、三賢人様の部屋まで行って事情を説明した。


「何!? 予知夢が見れなくなっただと?」


「ここにいる価値がなくなりましたのでオアシスに帰ります」


「待ちなさい! アルゴッド」


 いいえ、待ちません。僕は、五歳の時から十分に神殿に尽くしてきたんだ。

 僕は、ぺこりと頭を下げて部屋を出てきた。


「アルゴット、オアシスに帰るのか?」


 マークだ。『グレシャス』と話が付いたらしい。


「オレは、もう聖女じゃないけど、いっしょに行くぜ。お前のことを愛してるからな」


「そうですね、いっしょに行きましょう」


 僕は優しく微笑んだ。


 そして、僕らは空の上で繋がっている。もう三ラウンド目だ。

 彼女の上気した顔が愛らしい。


 僕が入ろうとした瞬間、彼女は表情を変えて僕の顔を見て悲鳴を上げた。


 ???? どうなってるんだ?


「酷いですわ。アルゴットさん、わたくしの意識の無い時にこんなことをなさってたなんて……」


「え? ええ?? 君、エロイーズぅ?」


 エロイーズは、泣きながら僕に抗議してきた。おいおい、お嬢のエロイーズは出てこないって言ってなかったか……?



(完)

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聖女エロイーズと予知夢を見る僕 ~聖女様の前世は、魔王になった勇者らしいです~ 月杜円香 @erisax

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