第7話
「ねえ聞いた? 一組の沢木学校戻ってきたらしいよ」
「よかったじゃん」
「『死ぬかと思った』ってヘラヘラしてたから元気そー」
「結局夢のやつ?どうなったの」
「なんか急に見なくなったらしいよ『頭が見つかりました』って言って消えたんだって」
「えーすご。誰か解決してんじゃん」
「ねー」
「はーい、ホームルーム始めるぞー」
僕が作った七不思議の六話目は一応の解決を見せたようだった。あれでよかったのだ。僕は早く神田先輩に会いたい。
放課後、旧校舎に向かう。神田先輩がいないのではないかと一抹の不安があった。それを振り払うように頭を振って歩を進める。空き教室の前に着く。ドアを開ける。
神田先輩は、いた。
空き教室のソファの上には僕が見つけた頭が乗っていて、転げて横を向いていた。神田先輩は窓の外を見ている。
「神田先輩」
「坂本くん、こんにちは」
いつもの神田先輩だ。だけどなにかが違う。なにが違うのかわからなかったけれど。しばらくの沈黙。
「坂本くんが見つけてくれたね」
「え」
「俺の頭」
神田先輩はこちらにきて頭を持ち上げる。質量はないのか軽々と持ち上げられたそれは僕の方を見ていた。
「夢の中のこと、知ってるんですか」
「なんとなくね。意識はあったよ。制御はできなかったけど」
「そうですか」
また沈黙。
「言いたいことがあるんだけどいいかな」
「言いたいことって?」
神田先輩は言いづらそうに頭をいじる。その動作になんとなく察しがついてしまう。神田先輩の過去の話。神田先輩の過去に存在した「誰か」の話。聞きたくない。
神田先輩が息を吐く音。
「好きって本当?」
「聞きたくないです」
「え?」
「え?」
とたんに神田先輩から悲しげなオーラが漂ってくる。
「違うんです!勘違いしてて!」
「勘違い?」
心なしか声にも元気がない。
「はい!神田先輩の過去の話をされるのかと思って聞きたくないって言ったんです!もう一度言ってください!」
「やだよ!」
「お願いします!」
お願いします、やだよの押し問答の末、やっと神田先輩は小さい声で言ってくれた。
「好きって本当かい?」
「本当です。好きです。付き合ってください」
「な、……幽霊だけどいいのかい?」
「神田先輩と付き合いたいんです」
「ふーん。ま、いいよ」
神田先輩の声音はなんだか嬉しそうだった。
旧校舎で誰かに挨拶をされたら必ず相手の顔を確認してから返事をしなければならない。
たまに頭のない幽霊が出るから。
もし相手に頭がなかった場合、好きな人を思い浮かべながら挨拶をすると成就する。
これは僕の高校の七不思議の六つ目の話だ。
旧校舎の神田先輩 おおつ @jurika_otsu
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