第6話

 神田先輩は学校に出る幽霊なのだから学校にヒントがあるのではないか。思い出の場所は商店と河川敷。そこには神田先輩以外にも誰かが居たのではないか。それが神田先輩の頭の行方に関わっているのではないか。

 そんなことが一挙に去来した。もやもやの正体はこれだったのだ。神田先輩といっしょにいたはずの「誰か」の存在。それがこんなにも複雑な気分にさせる。僕は神田先輩にも牛久先輩にもなにも言わないままその日は帰った。


 「頭を探してください」

 またこの夢を見る。この神田先輩は神田先輩であって神田先輩ではない。

 「頭を探してください」

 壊れたラジオのように繰り返す神田先輩をベッドから見上げる。探してきますよ、神田先輩。

その前に。

 「好きです。神田先輩」

 これだけは伝えたかった。

 「頭を探してください」

 決して伝わらないだろうけれど。


 僕は靴を履いて玄関を出た。懐中電灯を忘れずに持つ。今日は牛久先輩には出会わなかった。僕としては都合がいい。今日行くところは決まっている。学校だ。


 学校はどこも暗く、静まり返っていた。自分の足音ばかりが響き渡る。

 カツン。コツン。

 恐怖というより諦観が強かった。これでこの夢は終わる。その末に神田先輩はどうなってしまうだろう。今と変わらなければいい。なにも覚えていない神田先輩のままがいい。しかしそうはいかないだろうと思った。


 教室を一つ一つ確認していく。まずは三階の一年生の教室から。六つある教室を全て見渡す。なにもない。一階降りて二階の二年生の教室。全て見渡すがなにもない。最後に一階の三年生の教室へ。僕は重い足を引き摺るようにして一つ一つ確認した。そして三年四組の教室にそれはあった。窓際の真ん中の席の机の上に、花瓶のように静かに置いてあった。不思議と恐怖や不気味さはなく、ただ静かだと思った。近づいてみるとその頭は彫刻のように沈黙している。高く通った鼻梁。整った眉。目は切れ長で長いまつ毛が伏せられていた。唇は薄く、肌は抜けるように白い。手を伸ばす。長めの黒髪に手があたる。その髪はまだ生きているかのように瑞々しかった。

 「頭が見つかりました」

 「わっ」

 自宅で棒立ちしていたはずの神田先輩が出現してそう言った。それ以外のことはなにも起こらず、僕は机の上の頭を眺めながら過ごした。

 そのうち朝が来るだろう。


 ジリリリリリ

 パチン

 目覚まし時計を止めて目覚める。眠気は全くなかったがシャワーを浴びたい気分だった。それでなにか自分のドロドロした感情を洗い流したいと思った。

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