第5話

 「頭を探してください」

 繰り返す神田先輩を置いて靴を履き、玄関を出る。神田先輩の思い出のある場所に頭があるかもしれないからだ。

 学校へ向かう道を歩いていると牛久先輩に出会った。

 「牛久先輩!」

 「おや坂本くんではないですか奇遇ですねえわたしも夢を見るようになってしまいましたこうなったら一緒に探しましょう!」

 「はい!」

 牛久先輩もいることで恐怖感が少しマシになる。早くこんな夢を終わらせないと。


 まずは学校前の五十嵐商店の周りを探す。夢の中ではしんと静まり返っていてあの暖かい雰囲気がなかった。アイス売り場の中を覗くとあずきバーがびっしりと並んでいた。

 「うわ」

 少し気味悪く思いながらも、神田先輩は喜ぶんだろうなあなんて考えた。

 「ここにはないようですね」

 牛久先輩を見て頷く。次は一条川だ。


 河川敷は暗いが川はかすかに光っていて、朝早くのような明るさだった。牛久先輩と手分けして辺りを検分する。草の中に空き缶やタバコの吸い殻や雑誌はあれども頭は一向に見つからなかった。

 「うーんないですねえ」

 「みたいですね……」

 いいところまで行ったと思ったばかりに落胆が大きい。また出発点に戻ってきてしまった。

 「まあなんとかなるでしょう!坂本くん明日もよろしくお願いしますね」

 そう言って牛久先輩は帰ってしまった。僕はと言うとあの部屋に戻りたくなくてなんとなく川を眺めていた。手持ち無沙汰で石を手に取る。投げる。とっとっとっぽちゃん。石は何度か跳ね返りながら水中に落ちていった。もう一度石を投げる。とっとっとっぽちゃん。神田先輩のことを考える。このもやもやした気持ちはなんだろう。僕はその場に座り込んだ。


 ジリリリリリ

 「っは」

 朝だ。また汗をびっしょりかいている。シャワーを浴びてから学校に行こう。


 「ありませんでしたねえ」

 「なかったかあ」

 僕たちは旧校舎の空き教室で頭を抱えていた。神田先輩もなんだか残念そうだ。

 「大量のあずきバーはありましたよ」

 「えっなにそれ。いいなあ」

 案の定な神田先輩の反応に少し気が抜ける。

 「ほかに心当たりはありませんか?」

 牛久先輩が問う。

 「うーん。他に覚えていることは特にないなあ」

 「そうですか……」

 教室は沈黙に包まれる。それはそうだ。夢の末路は死だ。僕がそう決めたんだ。改めてなんてことをしてしまったんだろうと思う。僕自身はこの際どうなってもいいが、牛久先輩や他の人たちが死んでしまうのは嫌だと思った。どうにかすることはできないものか。

 そのときあることに気づいた。

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