第53話 再び、嵌められる 2 我妻 莉子 (あがつま りこ)

 駐車場に車を止め、降りると、莉子が、三下の前で軽く腕を広げて見せた。


「ねぇ。おかしいところない?」


 ちらりと眺める三下。


「いゃ。大丈夫だぞ。」


「そお。ならいいけど。」


 立ち止まり、確認する莉子の横を抜けて、三下は、店の入り口に向った。


「あっ。お疲れ様。調子はどう?」


 扉を開け、三下が店に入ると、綾夏の声が聞こえる。


「相変わらず。って、とこかな。」


 三下は、少し、肩を窄める。


「まぁ。怪我をしてなければ、いいんじゃない?」


「まぁね。」


「あのぅ。」


 莉子が、扉を開けて待っている三下の脇から、顔を出した。


「久しぶりじゃない。調子は?」


「はい。お陰様で。先日は、ありがとうございました。えっ。と、お借りしていた服を、、、。」


 はにかんだようにも見える笑顔で、持っている紙袋を渡そうと、レジへ向かう莉子。


「ありがと。なんだが、手間を増やしちゃって悪いわね。」


 綾夏は、レジから出ると、その紙袋を受け取った。


「いぇ。本当に、助かりました。それと、、、。」


「うん。どうしたの?」


 莉子が、言い難そうにしたのか、綾夏が、彼女に耳を寄せる。


「、、、。」


「、、、。」


 小声で話す莉子に、綾夏も小声で答え、二人は、暫く笑いを交えながら話を続けた。


「ちょっと待ってね。」


 突然、普通に綾夏が声を上げ、奥に向うと、小さい箱を持って戻り、レジのむこうに立った。

 莉子は、向かいに立つと、小声で話しながら、清算を済ませた。


「ありがとうございます。」


 ストン、と、莉子が頭を下げ、


「こっちこそ、ありがと。」


 笑顔になる綾夏。

 お互いに手を振りながら別れ、莉子は、三下の手前に来る。


「終わったか?」


「ん。また、お願いしますね。」


 三下に答えた莉子は、すぐに振り返り、綾夏にもう一度、手を振る。


「こっちこそ、またお願いね。」


 綾夏もまた手を振ると、三下が開けていた入り口の扉を抜けて、外に出だ莉子から、三下に目を向けた。


「また、よろしく。」


 手を上げる三下。


「ん。そっちも無理はしないでね。」


「あぁ。了解。」


 三下は、店を出ると、扉を閉める。


 と。


 莉子が、立ち止まって三下を待っていた。


「どうした?」


 すぐには答えず、三下を見上げる莉子。


「?」


 疑問符を浮かべながら、莉子を眺める三下。


「あのさぁ。」


 少しして、莉子は、ゆっくりと、口を開いた。


「三下さんが、綾夏さんと付き合っていない、って言う話だけど。」


「だから、それはだな、、、。」


「信じてあげる。」


 慌てて捲し立てようとした三下を止め、莉子が、断言した。


「そっ、そうか、、、。なっ、何で急にそんなこと、、、。」


 多少、落ち込みながらも、三下が、切り返す。


 が。


「、、、。」


 莉子は、小声で何かを言うと、サッと、踵を返して、車に向って行ってしまう。

 三下は、それを眺めると、肩を窄めてから歩き出した。

 


 三下が、運転席に座って扉を閉めると、莉子が、スマートフォンを突き出してくる。


「聞きたいんだけど。この場所わかる?」


 スマートフォンを覗き込む三下。

 画面には、どこかのレストランの紹介が表示されていた。


「いゃ。知らないな。」


「行き方、わかる?」


「調べればいいだろ。」


 怪訝な目線で、三下を見る莉子。


「私、車の運転してないのよ。わかるわけないでしょ。調べて。」


「はいはい。」


 三下は、莉子からスマートフォンを受け取ると、画面を数回タップした。

 表示が、レストランの紹介から地図に切り替わり、そこまでのルートが表示される。


「行けそう?」


 莉子が、心配そうな視線を、三下に向けている。

 三下は、それを気にする様子もなく、適当に答えた。


「いや、まぁ、行けるんじゃない。」


 莉子の目から、一気に輝きが放たれる。


「そこ。」


「は?」


 意味がわからず、聞き返す三下。


「そこね。今、かなりの人気レストランなの。平日のランチの予約でも、簡単に取れないんだよ。私さ、四回も電話してさぁ。昨日も電話したら、キャンセルで、今日、ランチが予約できる、って、言うじゃない。だから、予約したの。」


 生唾を飲み込む三下。


「そっ、それで、、、。」


「今から、そこに行くの。いいでしょ?」


 当然のこと、と、楽しそうにしている莉子。


「どっ、どうして、、、?」


「どうしても何も、私、頑張って予約したんだよ。しかも、今からキャンセルしたら、キャンセル料がかかるんだよ。頑張って予約した私に、キャンセル料まで払わせるつもり?」


「、、、。」


 三下は、黙って、真っ白になって、シートに沈み込んだ。


 また嵌められた、、、。


「ねぇ。聞いてるの?とにかく、次はそこだから、ね。いいでしょ。」


 白くなっている三下に、容赦なく、莉子が、言葉を突き立てる。


「ねぇ。早くしないと、ランチに遅れるよ。それでもキャンセルだからね。」


 三下は、仕方なく再起動すると、エンジンをかけ、ギアを、バックに入れた。


「あれ。車のナビに登録しないの?」


 いきなり走り出したのに驚き、莉子が、声を上げる。


「そんなもの、この車にはないの。」


「え?ちょっと、この車、大丈夫?何にもないんじゃない。」


「別に、走るのには困らん。」


 更に騒ぎ立てる莉子に、三下は、区切るように素っ気なく答える。


「でも、ナビがないと、行けないでしょ。どうするの?」


「これがあれば行けるから、画面をかえないでくれ。」


 三下は、まだ持っていたスマートフォンを、莉子に渡す。


「とっ。そう言えば、そうね。全く使わないから忘れてた。じゃあ。大丈夫なのね。」


「あぁ。」


「じゃあ。お願い。」


 はしゃぐ莉子の横で、三下は、思いっ切り、ため息をついた。

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神が与えし試練を越えて、覇王へ       おっさん、、、、、、、、、無双 @tkyk792

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