第21話 旅の始まり

 わたしは森番小屋で、ノアールの姿を探した。ここで、ノアールを緑のドレスに着替えさせてから御屋敷に向かったのが、その時にお嬢様に託された紅玉ルビーの首飾りを渡しそびれてしまったのだ。

 森番小屋にノアールの姿はなかった。そして、毛布が1枚なくなっていた。ここに来た最初の日、ノアールが包まっていたボロボロの毛布の方だ。


「新品の毛布を持って行けばいいのに・・・」


 そう言えば、地下牢にいた臨月の女が包まっていた毛布に似ていたかも知れない。

『懐かしい気持ちになったので』

 そう言っていたっけ・・・いや、あれはただの夢だ。



 街から街道に繋がる宿場町で、旅人の一人に声をかけた。


「黒い美人を見なかったかい?」


「黒い美人?なんだ、そりゃあ?」


「知らないならいいよ。呼び止めて悪かったね」


 次に行商人の一団がいたので、そのリーダー格の男に声をかけた。


「黒い美人を見なかったかい?」


「ああ、ノワールって女だろう?この先で、森の入口にいたよ」


「ノアールって名乗ったの?」


「スゴい美人だったからな。うちの男衆が名前をたずねて誘ったんだよ。あっさりフラてたけどな」


「ありがとう」



 お嬢様に託された紅玉ルビーの首飾りを、ノワールに渡さないといけない。それは、お嬢様から授かったお役目だ。


「ラゲルナ様は、お休みなしで勤めを果たしてきたんです。今回のお役目のついでにお休みを取って旅を楽しんで来て下さいませ」


 そう言って、お嬢様はわたしを送り出してくれた。あれから直ぐにシャーロットは回復してお嬢様の身の回りを世話してくれている。御屋敷の使用人の雰囲気も、朗らかになった。

 お嬢様のことは、心配しなくて良さそうだ。


「早く、この首飾りをノアールに渡さないとね。わたしが持ち主ってことで呪われちゃったらたまらないわ」


 胸元にこの紅玉ルビーが付けたノアールは、射干玉色の眸を引き立たせて、美しく魅力的だろう。惜しむらくは、あれがではないことだ。

 しかし、ふと思う。

(ノアールは、この紅玉ルビーをどうするんだろう?)

 人であれば身に付けて、我が身を美しく飾るだろう。けれど、ではないモノは宝石をどう扱うんだ?

 まさか、耳元まで裂けた口で喰らうのか?

 それなら、ノワールのディナーの時間にも間に合わせないといけない。




 -終わり-

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盾の乙女、異形に魅入られる ~射干玉綺譚~ 星羽昴 @subaru_binarystar

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