善光寺、ロボになる⑪
「熱を出したあんたを迎えに行くのは、保育園以来だね」
お母さんが運転しながら苦笑いする。私はそれを後部座席で毛布にくるまりながら聞き流す。
目を覚ますと私はナガランドにいた。毛布の中で40度近い熱を出していたそうだ。
体のふしぶしが痛い。のどもガサガサ。
「ねえ、おやき税って知ってる?」
「何それ?」
「善光寺が巨大ロボになったってニュースは?」
「……病院行こうか?」
どうやら、全部夢だったらしい。
せまい車の中にねそべってるので、頭がゴツゴツする。まくらにしようと、リュックサックを探す。
空っぽのはずのリュックの中が、やけにかさばってる。何だろう、チャックを開ける。
『おじぞうさんに おれいしろよ まいと』
『また あそぼうな しちみ』
笹の葉に、そう書いてあった。
「お地蔵さん」
私がそうつぶやいたのを、お母さんは聞き逃さなかった。
「そう言えば、あんたが生まれる前、善光寺のお地蔵さんによくお参りしたっけ」
「なんで?」
「お地蔵さんは子どもの守り神様なの。生まれてこれなかった子どもや大きくなれなかった子どもはみんなお地蔵さんになるんだって」
そうか。だから他のお寺や仏様がおそいかってきても、お地蔵さんだけは味方してくれたんだ。
「そのお地蔵さんは子どもが欲しい夫婦のところに生まれ変わるんだって、あんたのお父さんは言ってた」
お父さん、と聞いて言葉につまる。
私はお父さんに会ったことがない。
お戒壇めぐりの中でちょっとだけ思った、あの世に行ってみたい理由。
それは、お父さんに会いたかっまからだ。
でももしお父さんがお母さんの言う通りの人なら、きっと私を追い返すに違いない。
リュックの中に手をつっこみ、笹の葉を一枚ずつ数える。
もしあの時、リュックの中におやきが残ってなかったら、今ごろどうなってたか。
ありがとうどころか、ごちそうさますら言ってなかった自分に初めて気づいた。
「こんな明るい時間に帰ってこれるのも久しぶりね」
明治橋を渡る。七二会も近い。
そう思ったらまた眠くなった。
おやき食エスト みつたけたつみ @mj4126
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