善光寺、ロボになる⑩

 背中から落ちた。顔に風が当たる。目の前に巨人の足がある。外だ。

「逃げろ!」

「逃げるって、どこに?」

 まわりにかくれられるような背の高い建物は一つもない。合体して目の前にいて、私たちをおそっているんだから。

「お地蔵さんとこだ!」

 シチミが南のほうを指さした。三人で逃げるから当然巨人も追いかけてくる。

「ベト!」

 振り向いたマイトの指先から水がほとばしり、巨人の足もとの土が泥になった。動きのにぶい巨人はそのまましずんでいく。

 巨人の両足がドアのように左右に開いた。筋肉ムキムキの金剛力士が二体飛び出した。目の前の泥沼を大またぎで飛びこえて、こちらにせまる。

 マイトが口を開いた力士につかまった。

「くらえっ」

 シチミが力士の顔にとうがらしをぶつけた。さっきのおぼうさんみたく目をやられた力士の動きが止まる。

 が、すぐに元にもどり、口の閉じたほうの力士にシチミまでつかまった。

「希生、逃げえっ」

 二人を置いて逃げられない、けど魔法も武器も持ってない私が二人を助け出すことなんてできない。

 助けを呼ぼう。そう思って踏み出した右足が左足をけってしまい、その場にしゃがみこんでしまう。

 立ち上がろうとするけど、足に力が入らない。毎日ねてばかりいたのに、いきなりいろんなところを歩いたり走ったりしたから、体力がゼロになっていたのに初めて気づいた。

 ヤバい。生まれて初めて、死ぬかもと思った。お母さん、ばやん、色んな人の顔が頭の中をめぐる。

「希生!」

 力士の手の中でもがくマイトの声。

「おやき食え!」 

 転んだ勢いでリュックの中から、最後の一個が飛び出していた。笹の葉を外してかみつく。野沢菜だった。の野沢菜は砂糖が入ってる。空っぽだった頭に、体に、最後の力がわき上がるような気がした。

「とべー!」

 その声に押され、めちゃくちゃに足を動かした。何も考えず、少しでも遠くまで。鼻水やよだれをたれ流しながら。

 山門があったあたりで転んだ。ひざをすりむいたけど、すぐに立ち上がった。

 目の前に、大勢の人影が。

 それはお地蔵さんの石像だった。

 大きなお地蔵さんが一体、中くらいのお地蔵さんが六体、小さなお地蔵さんが数え切れないほど。

 小さなお地蔵さんが力士の足もとに群がり、動きを止める。

 中くらいのお地蔵さんが力士の両腕をからめ取り、マイトとシチミを救い出す。

 大きなお地蔵さんは力士の間を抜け、巨人の前でつえをふるう。巨人は力を失い、大人しくなった。

 助かったんだ。

 そう思ったら、急に眠くなった。私の名前を呼ぶ声が聞こえたような気がしたけど、答えることはできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る