人のふりした眷属は見守りつつ勉学に悩む

 銀流が忍が倒れるのを引き止めた。慌てて礼二がで一度直ぐ側の廊下で横にして容態を診る。


「申し訳御座いません、忍を少し休ませる部屋を――」

「あー客間に布団ひくか?掃除してなかったから流石に直ぐには無理か」


 最近そういう事無かったからな、と銀流が頭を掻く。


「どこにしようかしら?子供達は居間でお茶させようと思ってたのですけど」


 居間だと卓袱台など色々退かさないと布団入らないのよね、と楓が頬に手を添える。


「じゃあ、トイレが近い私の部屋に布団持って行きましょうか?」


 今自分の布団を干しているから別の布団入れられると実子が挙手をした。


「良いのか?」


「はい」


 銀流が確認しそのまま忍は実子の部屋に運ばれることとなった。


 忍を礼二が、布団を産美が途中から持って実子の自室まで向かい忍を寝かせた。

 女性の自室なので気を遣って礼二は直ぐに退出した。


「やはり、ほぼ眠れてなかったようです」


 無理もないですが、と産美は言った。


「申し訳御座いません、忍をお願いいたします」


 産美はそう言って自分の顔の位置よりも身長が低い実子に頭を下げた。そして、礼二と共に銀流が先に向かったこの家の応接間に向かう。


「じゃあ実子、目が覚めるまでお願いね」


 大人達はお話してくるから宜しく、と楓は言った。


「目が覚めたら、お茶とお菓子を勧めればいい?」


「本人の食欲があれば食べさせてあげて頂戴」


 殆ど食べてなかったらしいから、逆に吐かなくて済んだようだけど、と言い杖を突きながら襖の方に移動する。


「とにかく宜しくお願いね」


 そう言って楓も実子の自室から去っていった。


 実子はお茶と二人分のお茶請けが載ったお盆を持って自室に戻り、忍の目覚めを待つ事となる。


「英語の勉強でもしておくか」


 からかい甲斐のある若い二十歳前半の美人教師花島を思い出しつつ、英語の慣用句イディオム問題集を鞄から取り出し目を通し始める。

 

「わからん」


 暗記なので最悪中身を理解できなくてもお座成りに覚えれば切り抜けられるのは幸いだが、次回抜き打ちで試されるとボロボロになってしまう。

 実子はすでにやらかしていて花島が頭を抱えていた場面を想起した。

 何なら怪異こんかいの件では関与していないが、彼女は常盤の部下の一人である。


「今度点数が酷いと何を言われるか」


 言われたところで正直何とも思わない実子だが、微妙な点数の時に酷い回答を出すとなんとも居た堪れなくなる顔をされるのだ。別に花島が嫌いなわけではなく、滅多にないような美人があんな顔しているというのに苦手意識を感じてしまうのだろうと実子は考えていた。


「どうもしようもないな」


 そして実子は考えるのをやめた。

 暫くして忍が悪夢に魘されるようになるまでちんぷんかんぷんな英語の暗記を続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

日の下に帰れども すいむ @springphantasm

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ