見守るモノ達

社の当主は見通す (『眷属は人の皮を被る』においての夜が明けるまで)

 実子は再び目を瞑り再び寝たのを確認してからソロリソロリと部屋を抜け出し、紫里は当主がいる本殿まで音をころして小走りでやってきた。

 社の本殿にて当主の銀流は和鏡の前に座っていた。

 霊峰ヤマの領域の監視と山の怪異モノと対話をしていあのだろう。

 現当主はそういう事も出来るのを末娘は知っていた。


「お父さまー、お姉ちゃんが目を覚ましたよー」


 銀流は紫里の気配に気付いていたようで驚きもせず振り返り返事をする。


「そうか終わったか、わかった、紫里ももう寝て良いぞ」


 ご苦労と戻って寝るように銀流は促した。


「私はへいきー、陽の光でも浴びてるよー」


「……まだ夜が明けてすらないぞ、明日の学校は休むつもりなら別に良いが?」


今日は夜通し監視をさせたりしてたので銀流は紫里に中学の授業を休ませるつもりではあったが、本人は休むつもりはなさそうな素振りを続けていた。


「学校にはちゃんと行くから!!」


 紫里はそう言って本殿の東の廊下部分に座り込んだ。

 そこは夜が明けた時に日の光がよく入る場所である。


「……若葉に電話してくるか」


 紫里から実子が目を覚まし、捜索していた少女こと忍がを確認した銀流は電話がある社務所まで歩いて行った。








 社務所にたどり着くと銀流は電話帳を開いて眼の前まで持ってくる。そして電話機を取り若葉家の電話番号を入力する。


 プルルルル――


 着信音が鳴って思いの外すぐ相手は電話に出た。


『はあ゛い、こちら若葉です』


 しわがれた寝起きの声が聴こえてくる、嗄声しわがれごえの理由は寝起きだけではなく老齢の人間なのだろう、あの《若葉》家に該当する人間は一人しかいない。


「夜分遅く失礼、社の祝だ。 そっちはハル長老か」


『はい、当主様でしたか』


 若葉の長老は頭と目が覚めだしたようだ。

 若葉の若き当主が戻ってこない少女忍が帰ってくるのを待っていて、長老は助言をして事態が動き出すまで寝ていたのだろう。

 電話に出たのが寝ていた長老ということは、当主は今すぐには電話に出られない状態だとわかる、おそらく忍が帰ってきたのを察知して家の電話から離れた場所に居ると考えられる。


「こちらが捜索に遣っていた人間が戻ってきた、捜索対象の少女忍ももう帰ってきてるだろう」


『そ、そうですか、では産美に代わりますね』


「いや、少し待ってくれ、おそらくそちらの当主は忍と既に再会してるだろう、だから忍がいるのを長老自身が確認できたらまず、『常盤家』に連絡してやってくれ、そしてそれが終わったらまたこちらに掛けてくれ、今は社務所にしか電話は置いてないからここは他の家族が起きる心配もないしな」


『では、後ほどまた掛けさせて頂きます』


『では宜しく』


 銀流は電話を切った。

 外を見れば少しずつ白み出し夜明けが近づいていた。





 プルルルル――


 社の社務所に電話が掛かってくる、当主は直ぐ様応答した。


「もしもし、こちら社の祝だ」


『もしもし、常盤家の礼二です。夜分遅くに失礼します』


 低すぎず高すぎずどこか色気のある男性の声が電話から聞こえる。常盤礼二は『常盤家』の当主の名である。


「あぁ、常盤か。ということは若葉家で少女忍の帰宅確認が出来たようだな」


『はい、若葉の方から電話が来て安否確認が取れたと知らせが来ました。』


「それは良かった」


『若葉に関して今回は大変お世話になりました。明日の午後、そちらに伺わせて頂きます、ご都合は宜しいでしょうか?』


「午後からで大丈夫だ。来るときは道中気を付けてくれ、詳しい話もその時にしよう」


 そう言ってまた明日と電話は終了した。




 プルルルル――


『こちらは若葉です、お待たせしました。『常盤家』への連絡も終わらせ、そちらの神社に午後あたりに、顔を出させて頂く予定に、なりましたが、ご都合は宜しいでしょうか?』


 暫くして、若葉の長老からの連絡が来た。


「お気遣感謝する、午後なら対応可能だ。だが当主と少女だけで構わないぞ、長老は移動も負担だろう。常盤からも同様の連絡が来たから一緒に来るのだろう?」


『はい、『常盤家』の礼二様とこちらの産美と忍でお邪魔させて頂くかと思われます』

 

「そうか、ではそろそろ当主に代わってくれ。それと帰ってきた少女忍に話を聴いておいてくれ。来た時に詳しい事情を聞きたいと思っているが一度話したほうがわかりやすく話せると思うからな。」


『はい、わかりました、代わりますね』


「後、怪異絡みだと少女が嘘をついてないにしても現実味が無くて若き当主が信じられるかどうかはまた別というのもある」


 銀流は今回は怪異絡みだったからな、と言いそろそろ変わってくれ、と長老に伝えた。


『はい、少々お待ち下さい』


 長老が少し経った後少々騒がしいノイズがあり、女性の声がする。


『お電話代わりました、若葉産美です』


「社の祝だ、今回の件はご苦労だったな」


『いえ、もう、今回は誠にお世話になりました、明日御礼を申し上げにお社に参りますね』


「長老からその旨は承知した。もう夜が明ける、疲れているだろう。詳しい事は明日来られた時に話そう――」


 手短にしようと言い銀流は話を続ける。


「長老に少女忍に話を訊くように言っておいた、怪異に纏わることはこの世の道理が通らないことも多々あって若い当主の君には理解が追い付かなかったりするだろうから」


『左、左様で御座いますか……』


「君が真面目で優秀なのは知ってるんだが、それと同時に怪異や心霊絡みが苦手なのも知ってるからな」


『は、はい……』


「取り敢えず詳しい事は明日常盤も交えて話そう」

 

 その方が角も立たないだろう、と銀流は話す。


『はい、では今夜はお世話になりました、午後お伺いします――』


「では午後気長に待っているから、運転に気を付けて来てくれ――」


 電話は終了し銀流は社務所の椅子から立ち上がる。

 外から竹箒で掃く音が聞こえる。

 そのまま外に出てみると紫里が掃き掃除をしていた。


「今日も学校あるんだからせめて仮眠取っとけ、いや、今日は休むか?」


「行くからー、あとちょっとー」


 別に掃除を今やる必要はない、と銀流は辞めさせる。

 銀流が空を見上げるとだいぶ明るくなっていた。

 霊峰の神社は山深く最寄りの集落や村からはさらに登らないと辿り着くことが出来ないような場所である。

 村の外れのトンネルを抜けると村があり、さらに暫く走ったその道で通り抜ける田舎町にある鉄道駅が最寄りという状態である。

 因みに紫里の通う中学校はトンネルの向こうの村の学校である。

 

「俺も仮眠取るか」


 マイペースな末娘が箒などを片付けたのを確認してから銀流は住居スペースに戻った。


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