エピローグ
「はい、着きましたよ。おきたおきた」
「あ……んん゛ぁ、」
エンジンを切りながら、助手席の女性に軽口を叩く男性。女性──乙津はうめきながら車を降りて、ストレートの髪をぐしゃぐしゃとかきまぜた。コーヒーが飲みたくなるけれど、医者から『コーヒーは一日一杯まで』と止められているし、夜のほうがもっと飲みたくなるのはわかっていたので我慢する。
「昨日何時間寝たと思ってるんだ。……働き方改革が刑事に導入されるのはいつだ?」
乙津はそうぼやきながら現場用の手袋をはめた。交通事故から復帰した相棒が笑いながら「オレたちが退職するほうが先ですよ」と言う。あながち冗談でもないところがキツい。
立ち入り禁止の黄色のテープをくぐり、機捜のジャンパーを着ている背の高い男のほうに乙津は歩いていった。まだ詳しい状況はなにも聞いていない。
「すみません、現場の状況は──」
乙津は目を見開く。声をかけられた男は「ハイ!」と元気よく返事をして、まず被害者は──とべらべら喋り出した。乙津が止める暇もなく事件の詳細を喋り出したので、メモの準備ができていなかった相棒があわてて手帳を取り出す。
「──引継ぎは以上です。こっちは引き続き聞き込みとかやってるんで、なんかあったら訊いてください」
「了解です。あざす」
「……わかった。ありがとう」
相棒はぺこりと頭を下げたが、乙津は顎を引いて頷くにとどめた。相棒は一瞬怪訝な顔をしたけれど、男──三木は満面の笑みをうかべた。
「よろしくお願いします」
「──ああ。がんばろう」
乙津はわざわざついさっき装着したばかりの手袋を外して、右手を差し出す。これには三木も面食らった顔をしたけれど、すぐにまた太陽みたいに満面の笑みを浮かべた。
「──はい。がんばりましょう!」
ふたりは手を握った。
現代を生き抜く者たちの手だった。
RUN RUN RUN!! ミヅハノメ @miduhanome
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