二十首連作「きっと冷たい夜たち」

ササキアンヨ

きっと冷たい夜たち

戦後から戦前になるときがあり キスの意図すら移ろってゆく


戦への無知むち無垢むく無辜むこで薄れゆく無限軌道むげんきどうで均したキーウ


暴力の化身 数多にいる神のひとつを貸せど悪因悪果


黒焦げの娘を抱いて白塗りの息子を殺せと響く冬風


見上ぐ空 一線に飛び彼方まで希望の穂先 

キーウの幽霊


救いとは先に何かがあることで その後に待つ終わりも見えず


遠くにはあなたがいると知っていて 僕は煙草に火を付けて春


数百のニュースが流れる掲示板 過去の埋もれ木 詠み人知らず


ワイシャツが肌に張り付く暑さすら平和だなんて信じたくない


不揃いなナスビに乗った先祖には理解出来ない 新たな時代


蹴飛ばした路傍の石の行方など大人は忘れ 家路には着く


網の中這いつくばって勝ちにいく 子の楽しみに余計なノイズ


唐突に響くサイレン 僕たちはただただ死を待つ群衆なのか


人間は犬にとっての上位者で、その上を見て狂えぬ盲人


冬という名の殺戮は朽ちることなき華であり生まれ出る泥


悼みこそ我らの距離を遠くする 祈り願って届く折り鶴


聞きました 訃報と政府の見解を ひとり死せども自由は死せず


なわけがねーよ 血が滲む拳で揺らす真っ白な戦果を示す古いテーブル


春が来て僕は上から蟻を見る 恒河沙ごうがしゃの砂運ぶ蟻たち


戦中の空にも浮かぶ月を見て きっとどこかでまた死ぬ明日

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二十首連作「きっと冷たい夜たち」 ササキアンヨ @cut_river_k

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