第4話 バクダン江、血に染めて~第三次モンゴル軍侵攻~
第二次
もっとも、フビライはむしろ日本侵攻を優先するつもりだったが、イスラム商人と結び付き「海のシルクロード」の権益に
元軍の総大将は、前回に引き続きフビライの十一男である
一方の大越も、前回に引き続き
1287年末、元は総大将トガンの
陳興道は要衝である
元軍はそれ以外の拠点も次々に
かくして、陳朝大越は元に三回攻め込まれて三回とも首都を奪われます。
まあ一つには、当時の
そしてちょうどその頃、
元将ウマルは、第二次侵攻時に陳朝軍の追撃から命からがら逃れた恨みを忘れておらず、陳興道に対しても、どこに隠れようと草の根分けても探し出してやる、などと豪語していたのですが、彼の本来の任務は、張文虎将軍率いる輸送船団の護衛。にもかかわらず、彼は血気にはやって先行しすぎ、輸送船団を置き去りにして
そこを、先代皇帝・
前回の教訓から対策を講じてきたにもかかわらず、結局兵糧不足にあえぐ羽目に
が、結局、戦況不利と見て、トガンは
これに対し、陳興道は、配下の
そして陳興道自身は、自ら船団を率い、海路撤退しようとする元軍に対し決戦を挑みます。
決戦の舞台となったのは、
ハノイ周辺に直結する水路としての役割を持っていたため、過去にも幾度となく、特に
第一話でちらりと触れましたが、
今回陳興道が採用した作戦は、
ただし、呉権が相対した南漢軍は約一万程度でしたが、今回の元軍は九万以上。はたして上手くいくかどうか、陳興道さんの手腕が試されるところです。
1288年4月初め。ウマル率いる元の船団が
そこへ陳朝軍の小舟部隊が総攻撃を仕掛け、さらには火を付けた
一方、総大将トガンは、陸路で撤退しようとしますが、
かくして、
その一方で、陳朝は元に対し、すぐさま朝貢を再開、外交面でも巧みに立ち回ります。
そして元軍の捕虜も丁重に送り返すのですが……。多くの大越の民を殺し、太宗の陵墓を暴いたウマル将軍に対してだけは、相当に恨みが深かったのか、船底に穴を開けて海に沈めてしまいます。
まあ、このやり口に対しては後世の歴史家から批判の声も上がっているようですし、実際ちょっといかがなものかとは思うのですが。ただ、ウマルがそれだけの恨みを買っていたのもまた事実。それに、彼は今回の敗戦の最大の戦犯ですからね。生きてフビライの
そして、二度にわたり父フビライの期待に応えることができなかったトガン。彼の未来も明るいものではありませんでした。
元々、トガンはフビライの
そのため、トガンの失敗に対する失望も大きく、フビライはその後死ぬまで彼の謁見を許さなかったと言います。
フビライは四度目の大越侵攻を目論んでいたとも言われていますが、結局1294年に没し、その計画が実行に移されることはありませんでした。
陳朝第三代・仁宗は、その前年1293年に息子の
こうして見ると、陳興道さん、ガッチガチの
これが中国王朝だったら、たちまち、皇帝を
そんな立場にありながら、生涯にわたって歴代皇帝の信頼を
愛妻の
彼の死の直前、見舞いに訪れた
それに対する、陳興道の答えは――数を
さて、四話に渡ってお送りしてまいりました越南元寇録。改めて思うのは、モンゴルの侵攻を
もちろん、陳興道の軍事的手腕や、苦境にあっても将兵の心を繋ぎとめることが出来たカリスマ性、そして何より彼自身の不屈の精神は、いくら称賛しても足りないくらいではあるのですが。
この後も、中国歴代王朝の干渉と戦い続け、近代に入ってはフランスに植民地にされるも、激しい抵抗の末に独立を勝ち取り、そしてアメリカさえもついには退ける――。
まさしく不死鳥民族ですね。
主要参考文献(敬称略)
小倉貞男「物語 ヴェトナムの歴史」
ファン・ゴク・リエン監修 今井昭夫監訳「世界の教科書シリーズ21 ベトナムの歴史」
Wikipedia各項目
Webサイト 鉄勒京二「カルフ地区の書籍商 陳興道とモンゴル侵攻まとめ」のページ
Webサイト Ci-en ナントカ堂「李昭皇」のページ
他
以上をもちまして、モンゴル・元のベトナム侵攻と、これに敢然と立ち向かった陳興道およびベトナムの人々の物語は完結です。
本文でも触れましたが、彼らの不屈の闘志には本当に頭が下がります。
何か皆様の心に響くものがあれば幸いです。
越南元寇録~モンゴル軍を打ち負かした英雄は、バイバルスだけじゃない。陳興道(チャン・フン・ダオ)さんもお忘れなく~ 平井敦史 @Hirai_Atsushi
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