春の電車。

崔 梨遙(再)

1話完結:1200字

 春、いつもの時間、いつもの車両、通学電車にも変化が現れる。他校の新入生がその時間、その車両に乗るようになるのだ。僕はこの季節が好きだ。車内まで春風が吹いているようで爽やか、新鮮な気分になれる。


 そして僕は、高校、大学の新入生をチェックする。毎年、かわいい娘(こ)が現れる。僕は朝だけではなく、帰りの電車もチェックする。帰りの電車も、意外に決まったメンバーがいることが多い。


 或る日、いつも見かけるかわいい娘が座っていた。僕はその娘の前に立っていた。すると、読書している彼女のブラウスの隙間からブラが、谷間が見えた。僕は彼女が“欲しい!”と思った。そして、彼女に告ることに決めた。


 彼女が下車した、僕は追いかける。


「ちょっとすみません」

「なんでしょうか?」

「僕、いつも同じ電車に乗っているんですけど、気付いていましたか?」

「いえ、気付きませんでした」

「ずっとあなたに憧れていました。僕はあなたに恋をしています。一度、デートをしてもらえませんか?」

「ごめんなさい」

「いえいえ、失礼しました」


 惨敗。まあ、そういうこともあるさ。最初から上手くいくわけがない。胸の谷間が見られただけでもラッキーだったのだ。



 その後も、春になる度に僕のチャレンジは続いた。


「ちょっとごめん」

「はい、なんですか?」

「いつも同じ電車に乗ってるんです。ずっとあなたを見ていました。今度、デートしてください」

「ごめんなさい」

「いえいえ、お気になさらずに」


 惨敗。まあ、そういうこともあるさ。



「ちょっと、お姉さん」

「え! 何?」

「お姉さん大学生ですか?」

「そうやけど」

「僕、高校生やけど、ずっとお姉さんを見ていました。同じ電車に乗っていたんです。僕を“弟みたいな彼氏”にしてください」

「ごめんね、私、彼氏いるから」

「ですよねー! これだけ美しければ彼氏くらいいますよね」

「ごめんねー!」

「いえいえ、お気になさらずに」


 惨敗。まあ、そういうこともあるさ。こういうものは、失敗が多いからドラマティックになるのだ。焦らない、焦らない。



 知り合いが増えることになった。僕をフッた女性達とは、電車の中で会うと笑いながら挨拶をするようになったのだ。なんとまあ、爽やかな朝の電車だろうか? ははははは……。



 皆様の予想通り、僕は高校を卒業するまで、この春の電車作戦で成功したことは無かった。アタックしたのは合計5人。高校生3人、大学生1人、社会人1人だ。そう、今まで暴露していた通り、僕の高校時代は暗黒時代だったのだ。



 全く、ドラマや漫画のようなことは実際には怒らないものだ。だが、電車に春風が舞い込む季節になると、僕がやっていた“春の電車でアタック大作戦”を思い出す。意外に、今では楽しい思い出になっている。いつも同じ電車だった女性達のことも思い出す。今思い出しても、魅力的な女性達だった。







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春の電車。 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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