Day 1

@tsuka11

Day 1

 読み切り漫画想定シナリオ


◇人物表

・小関 健斗(こぜき けんと)

 本作の主人公。男性。22歳。熊本県の工業高校卒。社会人5年目で、愛知県の〈日置製作所〉に勤務。製造業。会社の寮で生活している。親との関係は劣悪。愛知県にきて以来一度も帰省はしていない。身長170cmで標準の体重。力仕事が多く、身体はやや鍛えてある。


・飯塚 真衣(いいづか まい)

 本作のヒロイン。女性。26歳。愛知県の大学卒。主人公と同期で、配属先も同じだが、業務内容は異なる(プログラマー)。親子仲は普通だが、特別良いわけではない。親の支配的な愛から逃れたく、一人暮らしを望んでいる。身長は165cmぐらいで、やや肥満体型。


・猿川 博明(さるかわ ひろあき)

 主人公とヒロインの上司。男性。46歳。岐阜県の高専卒。約10年前に妻と離婚しており、子供も二人いるが、親権は無い。身長は主人公よりやや低い。酒に依存し、かなり太っている。



◇本文


○日置製作所〈千田事業所〉・全景


○同・正門

   正門の外の道路で、うめき声を上げながらうろつくゾンビが二体。門の右脇に

   は、〈日置製作所〉の看板がある。


○同・正門の守衛室

   守衛室内でしゃがみ、隠れている小関健斗(22)、飯塚真衣(26)の二人。

小関「くそ……」

   門の外に目を向け呟く作業着を纏った小関。その隣で、同じく作業着を着た真

   衣が怯えた顔で蹲っている。ボトムスはジーパン。

真衣「小関君 どう?」

小関「逃げられそうにないですね。二体しか見えませんけど、外にもっといると考え

 たら…」

   守衛室の扉がゆっくりと開き、猿川博明(46)が入ってくる。

猿川「ダメだ。裏門にもウヨウヨいた」

   緊迫した顔の猿川。

小関N「ここ〈日置製作所〉は、約三百人が働く板金メーカーだ」「しかし、いま会

 社にいるのは、この三人だけ」「今日は土曜日で、休日出勤をしていたのは俺と飯

 塚先輩、そして猿川さんだけなのだ」「この部屋には守衛がいたはずだが、こんな

 状況に陥るや否やとっくに逃げ出してしまったらしい」「それにしても…」

小関「ゾンビなんて、無茶苦茶すぎる」

   頭を抱える小関。

猿川「まったくだ」

猿川「しかし、お前たちどうする? 俺は逃げるのは現実的じゃないと思う」

真衣「どうしてですか?」

猿川「車に乗って逃げてもいいが、どこを目指す? 避難所の小学校か? 自衛隊の

 基地か?」

猿川「俺が思うに、どこも道は混雑してるだろうし、受け入れてくれるかも分からな

 い」

真衣「ならここに留まるんですか?」

猿川「その方がいい。食堂に行けば食料はあるし、来客用のホテルには日用品もたん

 まりだ。それに、門以外はコンクリート壁で覆われてるから安全性も高い」「もち

 ろん、逃げたいなら逃げても構わん」

   小関と真衣が守衛室のガラス越しに外を見て、お互いに目を合わせる。

小関「そもそも俺は寮なんで行くところもないですが、先輩は?」

   と尋ね、真衣はゆっくりと頷く。

猿川「ここじゃあ気が休まらん。一回ホテルに行かないか? 今後の方針を立てよ

 う」


○同・ホテル・外観


○同・ホテル・ロビー

   ロビーに置かれた丸椅子に腰掛ける猿川と真衣。一人立つ小関。受け付けの上

   にあるアナログ時計を見る小関。

小関「はぁ、気付くのが遅すぎた…」

真衣「工場内にこもりきりだったもんね」

猿川「いや、早く気付いていればとも限らんだろう」

猿川「むしろこの事業所が避難所として優れていることを幸運に思うべきだ」

真衣「中に人がいるってわからなければ、無理してゾンビも入って来ないでしょうし

 ね」

   それを聞いて頷く猿川。

猿川「とにかく、今はこの中で生き残ることを考えよう」

   フェードアウト。


○同・ホテル・地下室

   洗濯機や乾燥機が置かれ、剥き出しの配管がある打ちっぱなしの地下室。

   壁にあるホテルの見取り図と事業所の地図を見る三人。

猿川「じゃあ、決まりだな」

猿川「小関と飯塚は食料の確認 俺は武器の調達と門の強化のためのトラックの確

 認」

   頷く小関と真衣。

   地上へ上がる階段を登る三人。

   ホテルの出入り口前で立ち止まる。

小関「行きましょう。安全第一で、とにかく慎重に」

真衣「ゼロ災で行こう」

   指差呼称をし、少し笑みを浮かべる真衣。その姿に少しだけ緊張を緩ませる小

   関と猿川。

猿川「あぁ」

小関・猿川「ゼロ災で行こう」

   小関と猿川も指差呼称を行う。


○同・食堂

   食料庫。大量に置かれた米や常温保管の食料。

   それらを前にして佇む二人。

小関「なんて量の米」

真衣「すごいね。300キロはありそう」

小関「当分困らなさそうですけど…」

   そういいながら、小関は調理器具を見る。その意図を察する真衣。

真衣「いつまでも電気があるわけじゃないよね。ガスコンロあるのかな」

小関「えぇ、でも三ヶ月は大丈夫でしょうね」

小関「冷蔵庫のものから先に処理していって、購買にある食料にも頼れば問題ないか

 と」

   山積みされた5リットルのペットボトルを見る小関。

小関「それよりも水ですよ」

真衣「そうだね。飲料は自販機や購買にたくさんあるけど、水が通ってるうちに生活

 用水確保したいよね」

小関「後で空きタンク探しますかね」

   再び食糧に目を向ける小関。真衣の方は見ずにいう。

小関「それにしても、先輩本当にいいんですか?」

真衣「何が?」

   小関の方を見る真衣。

小関「家族ですよ」

小関「僕は実家熊本ですし、親との仲最悪なんでどうでもいいですけど」

小関「猿川さんも離婚して独り身ですしね。だから…」

真衣「…うん。心配は心配だよ。さっきお母さんから連絡も来た」

真衣「でもなんか。ようやく逃れられるかもって思った」

   食糧を漁る手を止める小関。真衣の方を見る。

小関「……」

真衣「うちの親、結構支配的だし、私の将来のことなんかも細かく口出ししてくる

 の。就職先だって母さんが選んだ。だからね、なんか今ようやく自分で選択してる

 実感がある」

   神妙な面持ちの真衣。

真衣「まっ、状況的にそうせざるを得ないだけなんだけどね」

   表情を綻ばせ、小関を安心させるように微笑む真衣。


○同・工場内の道路

   トラックが数台停まっており、それを眺める猿川。トラック内を探るが、鍵は

   見つからない。ため息を吐く猿川。

猿川「ダメか」

   トラックの窓の外から、社用車が停まっている駐車場に目を向ける。


○同・ホテル

   今日分の食料を手にしてホテルに戻った小関と真衣。

真衣「侵入して来てないよね」

小関「人が見えなきゃ大丈夫でしょう」

   ロビーの扉が開き、猿川が戻る。手にはパイプレンチ、バール、スコップが握

   られている。

猿川「トラックはだめだった。鍵がないから動かせない」

猿川「それに、エンジン音も危うい」

   武器を置く猿川。

小関「じゃあ、正門の強化どうするんですか?」

猿川「社用車はあるから、手で押そう。三人もいれば動かせる」

真衣「今からやるんですか?」

猿川「あぁ、早い方がいい」


○同・正門

   正門に向けて社用車を押す三人。猿川がドアを開け、ハンドルを操作してい

   る。隙間だらけの防御柵としては弱すぎる門を強化するため、社用車を門に固

   める。3台目の移動を済ます。


○同・駐車場

   社用車のほか、自家用車も数台停まっている。

   正門から戻る三人。次に動かすサクシードを眺めながら、小関がいう。

小関「緊張しますね」

猿川「あぁ」

   と緊張した顔の猿川。

小関「こんな状況なんでぶっちゃけますけど、まさかこんなことをするとは思ってま

 せんでしたよ」

小関「自分の身を守るために会社にこもるなんて。会社なんて行きたくもなかったの 

 に」

   それを聞いて猿川が笑う。

猿川「間違いないな」

   しかし、表情が暗い真衣。

小関「大丈夫ですか? 飯塚さん」

   それを見て、心配そうな顔で小関がいう。

小関「やっぱり家族が心配なんじゃないですか?」

真衣「うぅん、違うの」

   首を振る真衣。

真衣「さっきあんなこといったけど、ここで生き延びていく上で、私はあんまり役に

 立ちそうにないなって」

小関「どうしてですか?」

真衣「ほら、私太ってるし、機敏に動けないし、力もない」

   俯き、自分の体型を見つめる真衣。

猿川「なにいってるんだ飯塚は」

猿川「俺だってほれ、ビールでこんな立派な腹なんだぞ」

   自身の太鼓腹を叩く猿川。

真衣「でも、力はあるじゃないですか」

小関「そう自分を下げないでくださいよ」

小関「飯塚さんしか知らないこともありますよ。男二人だけの知恵じゃ限界が来ま

 す」

   少し照れる小関。

小関「それに、俺は飯塚さんの体型好きですよ」

小関「大きい女性 かわいいなって思います」

   少し照れる真衣。

真衣「…ありがとう」


○同・正門

   社用車を動かし、正門付近にまで寄せる。バリケードが強化されていく。

   運転席のドアをそっと閉めようとする猿川。閉めた途端、門越しにゾンビが現

   れる。

猿川「うわっ!」

   思わず叫ぶ猿川。

   小関と真衣は、何事かと驚く。

   その声に気づいたゾンビがさっと手を伸ばし猿川の腕を門越しに掴む。強い力

   で引っ張られ、腕を噛まれる。

猿川「あぁ!」

   悲痛な声と顔をする猿川。

   走って運転席側に向かう小関と真衣。猿川が噛まれている光景を見て、パイプ

   レンチを手にゾンビを殴る小関。猿川を引っ張る真衣。

   何とかゾンビの脅威から猿川を救う。噛まれた腕のクロースアップ。

   緊迫した顔の三人。

   ガシャンと音を立て、門を揺らすゾンビ。その音に気付き、もう一体のゾンビ 

   も門に来る。小関が猿川に肩を貸そうとするが、猿川は拒否する。

猿川「俺はもうダメだ」

   額に汗を浮かべる猿川。

   ウゥゥ、と唸り声を上げながら、門を越えるゾンビ。

猿川「早く逃げろ!」

   門を越えたゾンビを猿川が掴む。

   引き攣った顔の真衣と小関。小関が真衣を引っ張ってホテルにまで走る。

   こける真衣。

   もう一体のゾンビが門を越えてくる。その隣で猿川が捕食されている。

   真衣を起き上がらせる小関。

小関「先にホテルへ!」

真衣「でも」

小関「早く!」

   パイプレンチを手に、こちらへ迫ってくるゾンビに対して身構える小関。

小関「うぉぉ!」

   パイプレンチでゾンビの顔面を殴る。怪我を負うことなく、なんとか一体を倒

   す。

   しかし気づくと、猿川を捕食していたゾンビがもう目の前まで来ていた。

   絶望する小関の顔のクロースアップ。

   襲い掛かるゾンビ。肩を掴まれ、噛まれそうになる。

   その瞬間、武器を持って戻ってきた真衣が、バールをゾンビの顔面に突き刺

   す。生まれた隙を狙って、小関もパイプレンチで追い討ちを掛ける。

   ゾンビが死ぬのを確認する。

真衣「…終わった」

   安堵する真衣。

小関「いいや、まだです」

   と小関は呟き、倒れている猿川の元に行く。

   小関が猿川を覗き込む。ゾンビになりかけている猿川。

   神妙な面持ちの小関。覚悟を決め、締まった顔に変わる。パイプレンチを猿川

   の顔面に叩き込む。返り血を浴びる小関。

   目を点にして、それを見つめる真衣。殺人者のように映る小関の姿。

   猿川を殺し、真衣の方を、妙に冷めた目で見つめる小関のカウボーイショッ

   ト。

小関「終わりましたよ」

   タイトル『Day1』の書き文字。


                                 (了)

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