第3話

 小さい頃に思っていた百貨店のイメージ。

 思い付くなら…

 気軽に行かない場所。

 強いて言うなら親と行く場所?

 しかも…その両親は忙しくて、中々、行けない場所だった。


 それに…だ。


 百貨店って言うよりも、デパートって言った方が、馴染みがあるこの駅前のデパートには、僕達が生まれる以前から変わらない歌とメロディーがあって…

その時代に合わせたアニメーションだったりドラマ風だったりとローカルのテレビCMとして有名だった。

 その中で強く印象に残っているのは、子供の頃に見たやつで上がり下りエスカレーターが交差していて、そこを色々な人達が乗っては、笑顔で下りてくる。

 そんな当たり障りもないCM。

 両親が、土日祝関係なく忙しい職種だったこともあり。

 CMに流れる家族連れの姿を、子供ながら羨ましいと思っていたんだろうな……

 5歳年下の弟は、僕と両親の遣り取りを見ていたせいか、物事を良く見ていて僕を制止してくれる時もあった。

 「兄貴って、なんか急激に怒りが、MAXになるくせに中々、冷静に戻んないのな…」

 「そうかなぁ…」

 「そうだって!」

 大学とバイト以外で、あまり出歩きたくない僕を、とある理由からここに連れてきてくれた。

 建物の10階展示場で、期間限定のワークショップをしていてると言う話は、CMにのお知らせとしても流れていた。

 弟は、手先が器用でクラフト系の職に着きたいとか……

 知り合いにパーツ屋をしている人が居るから。いつかは自分で買い付けとか? 仕入れてみたいとか? なんならパーツを商品として、作ってみたいとか…

 アイツと、別れたりしなかったら。

 人脈とか拡げるためにも会わせてあげたかったけど…

 そう言うのは、自分から拡げていくもかな?

 僕よりも、人に好かれやすいし。

 手を貸してくれる友人や知人が多い。

 今回は、その友人や知人の一人が、ここの会場に出店しているからと連れてきてくれた。

 僕が高校生の頃なんって、バイトばっかりしてて…

 その合間に受験勉強して、高校行っての毎日で、面白味もなかった。

 弟を見ていると、充実してるなぁ…って、羨ましく思う。

 僕のバイト先は、飲食店での裏方が多い。

 理由は、人見知りで、人とはあまり関わりをもちたくないから。

 それとは対照的に弟は、子供の頃から社交的で、どちらかと言うと僕は、そんな弟に振り回される感じ? しかも物怖じしなくて明るくて、弟ぐらい強かったらなぁ……

 って、思ってしまう。


 「兄貴、大丈夫?」

 「うん」

 と、まぁ…

 色々と、用事が重なり。

 久々に兄弟で、デパートに出掛ける事になったそれだけだった。


 色々は…僕にとっては考えたくないことが大半で。

 気を利かせてくれた弟が、手を尽くしてくれている事には、感謝している。

 その本人から、最近まで付き合っていたカレとは、早く別れるべきだと何度も言われていた。


 だから。紹介し損ねた感じだ。


 僕は、何って言うんだろ…

 一緒に居るとかそう言うのが、苦手で距離感が、保ててないと息苦しくなって…

 直ぐに友達同士でも、関係がダメになってしまい。面倒くさいかも知れない関係性しか築けない。

 そんな中でのも、カレとの距離感は、最初の内は良かった。

 浮気とか堂々とされたけど、僕に依存しない。

 あの感じが、良かったのに…

 段々と、その距離を縮められているようで嫌だった。

 アイツの事は、心底嫌いだった訳じゃない。

 エグい浮気のしか方するけど、それもありな関係なら、長くやっていけるかなぁ…

 なんって、思っていたのが間違いだった。

 僕が、知るか、知らないかぐらいの場所で、浮気してくれれば良かっただけ…

 絶対にこの人じゃなきゃとかとか、僕には最初から無かったし。

 僕の気持ちを、試したい目的で浮気を繰り返されているかもしれなくても、僕は、アイツをこれ以上慕うことはない。

 だから。その内、飽きられるはず。

 その日まで、ひたすら黙って怒らずに静かに静観して、待っていればいい。

 でも、中々そうならないって気が付いた。段々と試された恋愛とか、合わない恋愛観に駆け引きに疲弊して…

 12回目の浮気…が、とても堪えた。


 …もういいや…


 別れようって思って、動いていたら。


 アイツが、本気になりだして。


 一気に冷めた感じになった。

 あの日の昼前にもらったメッセージを見て、あぁ…もう終わらせようって気持ちに切り替わってしまった。

 別に今の関係が、そのままなら浮気されてても良かったんだ。

 いつもそこに居るみたいな関係。


 あの。ざまぁ…には、2つの意味がある。


 1つは、勿論、浮気され続けた事による。ざまぁ…と、

 もう1つは、自分に対してのざまぁ…で、こんなに想ってくれる人が居るのにへの。ざまぁ…って意味でもある。


 浮気して、気持ちを探るとかクズな発想だけど、アイツなりに考えての事だろうし。僕も、応えられないくせに人と付き合うとか、最低なクズだと思った通算12回目の浮気。

 自分だって悪いくせに酷い言い合いをした記憶は、まだ浅い。

 次の日は、お互い口も聞かず。メッセージも見ず。

 数日間冷戦みたいな不穏な空気が、重くのし掛かった。

 

 そんな時、アイツからの着歴とメッセージの数が凄い事になって、思わず電話に出たら。

 これまた凄い勢いで謝ってきた。

 

 『…そんな大声で、言わないで…僕も、悪かったし』

 『出来れば、ちゃんと謝罪したいから。部屋…ってか…あっ。店に来てくんない?』

 『…分かった…』

 乗り気じゃなかった。

 電話を切って、しばらくボーッとしていた。

 ムカムカした焦りみたいな感情が、溢れてきて。

 別れ話を、自ら逃した感覚になった。

 

 『なぁ。 今度のプレゼント…何が良い?』

 『えっ…』

 『仲直りの!』

 今まで、仲直り。なっていつの間にかしてきたし。

 プレゼントなんって、何の前触れもなく持ってきたのに?

 唐突と言えば唐突に、そんな風に会話は、始まった。

 僕は、次に何を言われるのかが、不安で怖かった。

 でも、振り返るとアイツの目が本気で、不意に触れてきた僕の左手が、妙に不自然で…

 あぁ…これは、何か不味いことになったなぁって…

 気が付いた。

 次第に怖いとか、そんな感情じゃなくて、どうにかしなきゃ…

 気付かれないように逃げなきゃって…

 正気を取り戻した頭が、ハッキリしてきて…

 アイツの浮気は、本気もあったかも知れない。でも、大半は僕を試すためと自分自身に向けられた僕の本音を探りたいって、イベントみたいなものだ。

 僕は、二人の距離を保つために、その事には何も言わず。

 やり過ごしていた…


 もう。いい加減この関係を清算してしまう。


 ドロドロしたイビツな関係に決着を付けたくて、少しずつ動いていた。

 バレて疑われるなら…

 仕方がないとか、開き直ったりもした。

 当然、精神的にもあの数ヶ月間は、キツかった。

 元々浮気癖があることは、付き合う前から周りいた連中から知らされてた。

 それが、あったから。

 僕は、アイツからの付き合って欲しいって言葉に当然、頷かなかった。

 裏切られてボロボロになるのは、目に見えていたから。

 それで、ナゼ付き合うようになったのかは、正直覚えてない。

 出会ったのは、講義で隣同士になったからだっけ?

 切っ掛けは、もっと曖昧かも知れない。

 大学で、会ったり。

 擦れ違ったり。

 してたはず。

 その度に


 “ ご飯に行かない? ” とか、

 “ 遊びに行こう ”  とか…

 “ 暇なら付き合って欲しいところが、あるんだけど…いい? ” 


 立て続けに言われたっけ…



 兄貴は、会ったばっかりのあの男には、信用が置けないって…

 自分の中の疑り深い性格も含めてか、最初は無視を通していた。


 それでも、略毎日、言い寄ってきた。あの男に兄貴は、色々あって根負けして付き合う事になったんだと思う。

 マジで? 大丈夫かよ…

 それが、真っ先に感じた心境で、それなりに心配だった。

 オレなりに助言? みたいなもんもしたし。

 その都度、疲れた様に兄貴は、笑って大丈夫とか平気とか、そんな在り来たりな言葉を返してくれたけど。

 兄貴と元カレの付き合いは、浮気された事による冷却期間や一時的に距離を置くなんってのも、含めると約二年弱続いた。

 その間オレは、兄貴の元カレとは、会うことはなかった。

 兄貴を苦しめる酷いヤツとしての印象が強くて、会ったら負け。

 会ったら殴りかかる。

 みたいな気持ちが、大きくて。

 会わないまま兄貴は、そのカレシと別れを決めた。

 でも、実を言うと街で偶然。

 一度だけ兄貴と元カレってヤツの姿を、目撃した事はあたった。

 しかもこっちも、彼女とのデート中で、行き先も似た方向だから。マジに焦った。

 しかもオレの彼女は、兄貴の事も知って居るから。


 カレシの姿を見て…

 

 『…チャラそう。しかも絶対に離してくれなさそうな感じする。 大丈夫なのお兄さん? あぁ~言うタイプ苦手じゃなかった?』

 『そのはずだけど…』

 『初カレだから。押し切られちゃった感じ?』

 と、? マークを語尾に何度も付けられ俺達兄弟は、彼女から心配された。

 『………』対象的にオレは、何も言い返せなかった。

 兄貴の元カレとオレが、一方的に出合ったのは、その一回限り。


 本当にそれだけだったけど、彼女の勘は当たっていて…

 たまに兄貴が、実家に遊びに来ている時にも…

 病的な回数の着信やメッセージを、告げる音が鳴り続いた。

 それも、付き合った当初から。

 たまたま一人暮らしをしてる部屋から実家に帰っていた兄貴が、部屋でカレシとのビデオ通話らしく…

 その会話が、少し開いていた部屋のドアから漏れ聞こえているとこに気が付いた。

 スマホから微かに聞こえた男の声は、妙に馴れ馴れしくて不快で、兄貴のリアルな困った表情を見たのも、あの頃が最初だ。

 男の兄貴を、下に見ているみたいな…

 見下しているみたいな口調から分かったのは、男の方が、相当兄貴を気に入っていると言う事。

 

 「……でね」

 兄貴の声で、我に返った。

 「うん」

 「まだ二歳ぐらいだったから覚えてないと思うけど…当時のCMでエスカレーターで、人が上がったり下がったりするのが、あって…お前、それが好きで流れる度にテレビに張り付いてて…」

 「へぇ…オレは、微妙に覚えてない…」

 そんな生まれたての頃の話しされても、分かるわけねぇーだろ?

 数年前に、建て替え工事が終わり。

 元の建物よりもキレイで明るくなった店内は、目移りしそうになるぐらいキラキラしている。

 「昔さぁ。兄貴ってよく迷子になってたよな?」

 「アレは、お前を追ってだよ」

 チョロ助。そんなアダ名が、両親や兄貴、親族達から命名されたっけ?

 「それよりも、コレ。本当に何とかなるかな…」

 兄貴の言ったコレとは、オレが本人から預かったシルバーアクセの類いだ。

 色々な理由をつけては、男から贈られたアクセサリーのは、10数個にものぼるらしい。

 別れた今となっては、扱いに困る代物で、燃えないゴミに捨てると言った兄貴を説得し止めて、知人が主催者側の1人と言う事もあって、このデパートの10階の展示場で、行われているワークショップに連れ出したところだった。


 「あの…兄貴。 無理そうなら。1階の噴水広場で休んでなよ。あそこは屋内だから。冷える事もないだろうし」

 「うん…そうする」

 本人は、元気そうに振る舞っているけど、痛々しいというか…

 本当はオレだけが、デパートに来るはずだったのに心配だからと、付いてきてくれた。

 なんか元気ないし。

 沈んでるし。

 アンニュイ? 的な…

 バイトも、休みがちだし。


 それこそ両親の時みたいに、病まなきゃいいけど。


 まだまだダメージが、大きそうだな…

 兄貴は、元々好んでアクセは着けない人だから。

 貰った当時は、扱いに困ってたと思う。


 出待ちされる度に…


 “ アレ? この間のは、気に入らなかった? ” とか、困った顔しては、少しの間を空けて別なモノを差し出してきたんだとか…


 それも、付き合う切っ掛けの一つ何だろうな。


 オレは、付き合い続けることを、ずっと止めたけど、急に付き合い出したと知らされてからは、別れろとさえ言った。

 

 『一回付き合って、どうしてもダメなら。直ぐ別れればいいし。悪い人ではないと思うんだけど…』


 なんって呑気に言っていたけど…

 ハッキリ言って、兄貴の恋愛観は消極的で、自分の恋愛観に否定的な所がある。

 代わって、元カレってヤツはそんな兄貴にしつこく言い寄って、( 兄貴本人は、どう思っているか微妙だけど ) 元カレから待ち伏せやら。構内で追い掛けられたみたいな節があるし。

 アレ下手したらストーカー案件じゃねぇ? ってぐらい兄貴は、困っていた……

 だって、独占的な感情丸出しで、兄貴に対して強い揺さぶりをした挙げ句に10回以上も浮気するか?

 本命いる時点で、遊びなのか本気な浮気なのかは、オレには分からないけど…

 10回以上は、おかしい…

 仮に、あんまりにも相手 ( 兄貴 ) の反応が薄すぎて、ヤキモチを妬かせたい。本心が知りたいとか、兄貴の想いを試してみたいって行動だったとか…

 親しい仲間とか、知り合いに頼んで、俗に言うヤラセで嫉妬させていただけとか、有り得る話しだし。あの元カレならやりかねない的な? それじゃなきゃ離れたり。寄りを戻したり。顔色でも伺うみたいな? 関係って続かないだろ?

 悪いと思っているから。

 自分が、製作したって言うアクセやらを持って、兄貴の前に現れたりしたんだよ。

 

 もしかして兄貴は、それに気付いてた?

 だから2人は、別れなかった?

 それが本当なら。

 兄貴の恋愛観…大丈夫か?

 じゃなんで今回は、自分から別れようってなった?

 理由は、兄貴の中では元々… 

 付き合う気がなかった…

 いつ別れたっていい。

 でも、相手が本気になってきた…

 

 いや…

 もしかすると、別れを意識したって時点で、どっかで兄貴は本気になりかけてた…

 それだと、兄貴が振った日に自宅に戻ってきてオレが、その元カレに付いてどう思ってるかって、聞いたときに…


 『…ざまぁ…って思ってる…』


 あのセリフには、納得がいく。

 本気の想いに、自分を含めて、何やってんだか…のざまぁ…って訳か?…


 それとも兄貴は、まだ例アレを、引き摺っているのかもしれない。

 例のアレってのは、両親の事だ。

 今でこそラブラブ夫婦だけど…

 オレらが小学生の頃にオヤジが、浮気しやがって母親とかなり修羅場ってた。

 オレは、兄貴よりもガキで両親の喧嘩の内容はさっぱりだったけど、兄貴はあの当時高学年で、親が罵り合う言葉の意味とか、分かっていたんだと思う。

 オレは、ピンとこないし。

 付き合ってる彼女との仲も良い。

 もしかしたら。

 兄貴にとって、浮気って言葉も、意味も…追い詰めるものなのかも、知れない。

 兄貴って、パッと見は温厚そうで、物静で感情があんまり表に出ないって言うか…

 しかも、中性的な顔立ちだから人が寄ってきやすくて多くの人に好かれる。

 悪く言えば、顔が良すぎて変なのが寄ってくる。

 今回も、早目にオレが、動いて何とかすべきだった?

 変に兄貴も、その元カレも、泥沼に何度も足を突っ込ませる事もなかったんだ…

 反対していたけど、それでも兄貴さえ良ければ、人見知り傾向が強めの兄貴には、良いリハビリになるかなぁ…って、呑気に思ってたオレにも、今回の事に責任があるような気がする。

 今更だけど…

 どうしようもない。

 

 まぁ…今回の事で兄貴も、少しは学んだはずなんだから。これからは、変に突っ込んだ付き合いはしないだろうで…

 本当に大丈夫か?

 

 いや…でも、考えれば通算12回の浮気でまなべただろ?

 時系列で言えば…

 オレと彼女が、見掛けてから。その2ヶ月後。チャラそうな元カレの浮気。

 その1が、発覚。

 で、ナゼか、それを許した兄貴。

 普段からガツガツと行くタイプでもないから強くも言えず。

 一度目は、我慢したのかも知れない。

 そこに何かがあった訳でもなくて、それに対してオレは、単にオレも、兄貴をアホだと思っただけで終わった。

 おまけにオレは、一回浮気したヤツは、また浮気するぞ! また痛い目にあうぞ !!

 そう言って、兄貴に念押しして止めた。

 もしかして…

 兄貴は、両親の事が原因で人と深く付き合いたいとは、思ってないのかも知れない。

 人は、必ず裏切るとか…

 だから。普段でも付かず離れずな距離で友達やバイト仲間達と遣り取りしている。

 それが、あの微妙な元カレとの関係にも及んで…

 両親が、これ聞いたら。

 絶句するだろうな…

 まぁ…家族のためには、言わねぇーけど…

 兄貴って…本当不幸の塊だな。

 本気で好きになりかけて…

 相手の想いに怖くなって、別れた。

 元カレが、どう察してきても兄貴の心は変わんねぇーな…

 

 しかも、兄貴は相手を嫌いで別れたって訳じゃねぇーから。 

 どうしたもんか…

 傍から見たら浮気を繰り返された兄貴の方が、精神的に追い詰められて落ち込んでそうって見るけど…

 追い詰められていったのって、元カレの方なんじゃ…

 自分が、どれだけ好きだって伝えても微妙な反応しかされなくて…

 浮気とかバカな気の引き方したけど…

 

 兄貴の方は、どうしたら忘れられるかなぁ…って悩んでて…

 逆に兄貴の元カレの方が、立ち直れてないかもの方が、濃厚じゃねぇ?

 

 気持ちを試すぐらい本気で、別れる選択肢がないぐらいの相手だって想われていた兄貴は、そのまま幸せになれば、良かったんじゃねぇの?

 ガキだからオレは、単純にそう思う。

 何って言うか、元カレが気の毒過ぎる。

 自分の行動の全てが、裏目に出るとか…

 兄貴のことなんって、早く忘れて立ち直って欲しい。

 マジに、そう思う。

 そんな風にブツブツと考え込みながらオレは、10階の展示場のフロアーに足を踏み入れた。

 土曜日の昼近くと言う事もあってか、かなりの人でごった返していた。

 正直、兄貴を1階に置いてきて正解だと感じだ。

 1人で居れたから冷静に考えられたかも知れない。

 オレの尊敬する知り合いは、ハンドメイド作家さん達が使うパーツを仕入れたり。個人で製作したり。加工したりと何でもこなせる人で、商売上手で、歯に衣着せぬ言動もあるけど、そこが人を惹き付ける魅力なんだと思える人だ。

 年齢を女性に聞くのは、失礼だから憶測だけど、20代半ばか後半くらいだと思う。

 ブースの方を覗くとその女性が、商品を列べていた。

 この展示場は、ワークショップ兼ハンドメイドをしている人達の交流の場もなっているようで、一般人の目線と言うよりも、職人目線に近い人の姿も、チラホラと見掛ける。

 「おはようございます。この間は…突然、電話して…スミマセンでした」

 「おはよう。あっ~。私の方こそ。先日は、ゴメンね。出先と、これの準備で…ここに来てとか言って!」

 振り返った彼女からは、いつものようにチョコレートのような甘い香りに似た煙草の匂いが、微かにした。

 パーツの展示販売を別の店員に任せオレは、いわゆるバックヤードと呼ばれる一般人が、入ってこれない言わば、店の裏に人目を避けた階段の踊場に連れてこられた。

 「で…聞きたい事って?」

 「あのコレ何ですけど…」

 オレは、バックにしまった小箱を差し出した。

 彼女は、商売柄表情を強張らせる事はないはずなのに、オレから受け取った小箱の蓋を開け一通り眺めると、一つ小袋を手に取り。

 封を開けると、中身を取り出した。

 中に入っていたのは、青い石がはめ込まれたピアスが片方。

 「あの…これのもう片方は?」

 「オレは、預かっただけで、全部のはずです。知人がオレに渡してきたから。知人も処分に困って……どうかしました?」

 

 「そうなの…」


 まぁ…私の本心で言えば、自分の仕入れたモノを、見間違うはずがない。

 「いや…オレも、こう言う仕事好きだし。なんか、どうしたら良いのか分からなくて…どれだけ時間かけて作っているかとか、想像しちゃって…ほら。梱包とか凄く丁寧だし…」

 長いとこと接客業に携わってきて、色々な顔を見てきたけど…


 ナゼ。


 この二人の顔立ちが、よく似て居ることに気が付かなかったのかしら。

 小箱の中の小袋を見るまで、どうして気付けなかったのか。

 世間の狭さって、そんなものなのかとさえ思ってしまう

 「…取り敢えず。私が引き取ってみてもいいかしら?」

 変に動揺して目が泳いで、おかしな息遣いで…

 まるで挙動不審。

 「あの…大丈夫ですか?」

 「…うん。えっと、今日、全部、持ってきてくれたのね?」

 ヤバい。私まで、調子が狂うわ…

 「ハイ。知人は、アクセ系とか着けないし。着けてる所も見たことないから…」

 正確に言えば、兄貴にアクセサリーを付ける興味がない。

 「そ…そうなのね…」

 確かに私も何度も、本人にも会ったことはあるけど…

 不思議と飾りっ気の無い子だったと思う。


 小箱の中身を、もう一度確認するが、どれも丁寧に小袋に入れられたままだった。

 

 「シルバーアクセって、少しキズが付いたぐらいが、丁度良いのよ。くすんだ感じになってね。私はそれが好きなんだけど…常に磨いているって子も居るし人それぞれね」


 …私も、何を言っているかしら…

 

 私は、小袋から出したまま手の平に乗せたていた。その青い石をはめ込んだピアスを眺めた。

 「その…こう言うのって、人気あるんですか?」


 オレ…なに聞いてんだ?

 

 「えっ…そうね。興味無い子には、そんな…反応なのかもね。いくら貰って欲しくて丁寧に作って心込めようが…届かないと意味がないわね……ねぇ…で、これの片方は……」

 彼女が、珍しく焦っている。

 もしかして…

 何か、知ってるとか?

 「あの…」

 「…知り合いの元恋人さんも、飾りっ気なくて…付けてるの見たことなくて…」


 

 …って、何が、知り合いの元恋人さんも…だよ。

 ヘラヘラって笑いやがって…

 しかも、誰だか知らねぇけど、着けてる姿見たことねぇとか、揃いも揃って傷付くように人の傷跡エグるな…


 確かに、アイツが着けてるの見たことねぇーけど…


 ったく、あの嫌み女。

 休みで、暇ならデパートの展示場を手伝えとか言いやがって、今のうちにデパ地下で弁当買ってこいだとか、ついでにデザートもとか…

 

 後、自分のためのレモン水…

 あの味が、どうしても諦められなくて似た感じのを探して飲むも、味が全然違って吐き出してしまいそうになる。

 それだけ飢えきっている。

 あの味が、忘れられない。

 飲み物売場から探して、また似たようなやつを見付けて飲んでみたけど、飲めたモノじゃなくて…

 自分の席に置いてきた。


 ってか、人使い荒いくないか?

 店の子達に聞いたら知人が来て、バックヤードの方に行ったって言うから来てみたけど…

 嫌み女と話す男の声が、アイツにどことなく似てて…

 無性に腹が立った。

 似ているだけで、全然違う声の主の顔でも見てやろうと踊場を見上げて、愕然とした。


 ドクンッと、頭から何かが、突き抜けていくような鼓動だった。

 本人じゃないけど、明らかにアイツの面影があって…

 目の合った嫌み女は、珍しく…しおらしい? って感じにアワアワしていて手に持っていた何かを、階段下に落とし。

 それは、弾く様にキラッと光りながら俺の足元に転がり落ちてきた。

 無意識にそれを拾い上げる俺は、その青い石がはめ込まれたピアスを見て、驚く声すら失う。

 「あの…」

 よく似た声の主は、アイツと目元が似ていて複雑な心境を覚えた。


 オレは、オレでその見上げてくるヤツの顔を見て誰? ってなって…

 

 俺は、俺でアイツに似た男の隣に立つ業者の女や上から見下ろされたその男の表情で、アイツに関係あるかも知れないヤツなんだと、何となく悟った。


 オレ自身この不意に現れた男が、オレと似たような考えを持っていると、分かった気がした。

 俺だってバカじゃない。

 どことなく街で、見掛けた兄貴とあの男の雰囲気に似ていたし。

 シルバーアクセを見てから彼女の態度が、おかしくなったのは兄貴の元カレが、作ったモノのでもしかしたら。

 彼女からパーツや石なんかを、仕入れたりしてのかも知れない。

 と言う答えに辿り着いた。

 だからこれを見せてから彼女の様子が、おかしかったんだ。

 「えっ…と、その…あのね…」 どちらに対してのあのね…なのか…

 しゃーない。

 もう。誰が、どう考えているとか分かねぇーし。できるなら元カレをこれ以上、兄貴の事に巻き込めないだろ?

 

 オレは、彼女の手から小箱を取り戻すと階段下で、呆然と立っている兄貴の元カレの前に差し出した。

 「これ。返しに来ました」

 最初は、ためらいながら拒もうとしたけれど、オレは元カレの胸元に押し付けた。

 「あの…えっと」

 顔上げてもいいけど、オレと兄貴は顔立ちが似ているから。

 おそらく気付かれてるかもだけど、今、この2人は絶対に会わせられないから…

 「…本当にスミマセン !! あの…オレは…」

 なんって言っていいのか、言葉が続かない。

 言えたどころで、誰も傷付かない方法なんってない。

 

 「…わざわざ、ありがとう」


 この人は、オレに気付いてる。

 ヤバい。

 早く立ち去らないと。


 「あの…その。本当にスミマセンでした !!」

 

 なんで、この子が謝る?

 さっきも、スミマセンでしたって言った。

 シルバーアクセの事じゃないのか?

 アイツの事か?

 おずおずと、わずかに上げられた顔から見えた目元は、見慣れた面影があって、戸惑った時の顔にそっくりだった。

 「…アイツは、元気にしてる?」

 小箱を受け取ってもらえた事を確認してからオレは、その人と数十センチぐらいの距離を取った。

 「えっと、元気です…」

 嘘ではない。

 かと言って、曖昧な事を言えばこの人は、兄貴を諦めないだろう。

 今、二人を会わせたら。

 また。

 この人の方が、傷付く…


 二度と会わせちゃダメだ。

 

 何って言って、立ち去る?

 近付くな?

 ストレート過ぎるだろ?

 知り合いでもない相手に…


 マイワールドの中で、悩みまくっているオレの耳に、その人の声が響いた。

 「あのさぁ…レモングラスとミントの水の作り方って知ってる?」

 やっと声に出した言葉が、それって…

 ただあの日から。

 一滴も飲めない苛立ちは、消えていない。

 

 実際、振りが本気で浮気をした事もあったし。

 罰が悪すぎて、別れ話されると思い込んでいたときに、フラっと戻ってきたアイツの表情が、普通過ぎて逆に不安で引いてしまった。

 俺って、アイツにとっては、そんな程度?

 戻ってきたら殴られんじゃないかとか、暴言を吐かれるんじゃないかって思っていたから。

 腑に落ちなかった。

 …で、バカな嘘も、バカな本気も繰り返した。

 卑怯な事だった。

 でも直接、確かめる何ってことも出来なくて…

 今ならちゃんと謝れる気がするけど…

 多分。アイツによく似た顔の子を見るてると、そうはいきそうになくてアイツを試した事に改めて後悔した。


 「あの…母親から教わった通りのレシピなら教えられますけど…書くもの有りますか?」

 オレ、ペラペラと何言ってんだ? って感じなんだけど、勝手に口から言葉が出てペンと紙を要求して、レモングラスやミントの量とか色々と材料を書きなぐった。

 「これ…どうぞ…」

 「ありがとう…」そう言って元カレは、少し和らいだ笑みを浮かべた。

 メモを受け取った事を確認してオレは、階段の踊場から展示場に戻り足早に走り去った。


 反動でエレベーターやエスカレーターじゃなくて階段を、一気に駆け下りる衝動にかられたのを、オレは失敗したと思いつつ部活の朝練の延長と、割り切りながら一階に辿り着き噴水の辺りを見渡した。

 常に混んでいる一階と地下の食料品売場を繋ぐエスカレーターは、多くの人で溢れている。

 エレベーターにしても、地下に行く客と上がってくる客が大半だ。

 その中で兄は、噴水の側のベンチに座りボーッと手元を見ていた。

 ゆっくりと兄に近付いて行く。

 その手にあったのは、あの青い石のピアスの片方。

 兄はナゼが、それだけは、ずっと持ち歩いているらしい。

 ピアスホール開けてるのに着けずに持ち歩いている。

 意味あんのか? ってなりながらオレは、呆れている。

 好きな相手が、自分のためって作ってくれたモノだ。

 愛着のもで、持っているのかと思えば、なんか違って…

 本人にアクセは、興味がない。

 たまにあぁ~して、眺めてる。

 付き合っている時も、浮気されてる時も無表情で…

 でも、その割には機嫌悪そうに腹を立てて実家に戻ってきては、デカイ独り言みたいに悪態を吐く。

 隣の部屋のオレには、いい迷惑だ。

 そして…落ち着いたらまた戻っていく。

 で、別れるまでには至らない。

 兄貴は、ガキの頃から本当に感情が顔に出にくくて、誤解されがちで…

 よく。しょんぼりしていたのを覚えている。

 だからあの男が、やらかしたことに怒りMAXで実家に帰って来たあの日は、よっぽどのことが起こったんだ。

 今まで許せた12回が、吹っ飛ぶようなそんな出来事。

 やっぱり兄貴も、本気になったってやつだよな。

 ってか、普通に大人の恋愛って本気なんじゃ…ねぇの?

 そんなふうに考えなしに思えるオレは、やっぱまだガキか…

  

 まぁ…誰を好きになるとか、そう言うのって多分。

 簡単なようで簡単じない。

 ガキだって、簡単に惚れる時もあるし。

 長く付き合いたいって、想える相手に出会うことだってある。

 それと同じだろ?

 兄貴とあの男は、どんな関係になりたかったんだろう。

 オレ自身まだ10代のガキだしさぁ…

 ガキなりに本気とか愛情とか、考えることはあるけど、もっと別な深い意味とか思いとかあるのかも知れない。

 その人のなりが、どんなふうに見えても、どんなに仲良さげに他人に映っても…

 見えただけじゃダメなんだろうな… 

 あの男は、兄貴からの愛情を確かめたかった。

 兄貴は、本気になりたくなくて、あの男から何も得ようとしなかった。

 

 オレの目に…


 そんな風に見えてるよとも、言えないオレは、兄貴の手の平に転がる片方だけの青い石のピアスを、兄越しに見詰めていた。

 


 その一方で


 「…ねぇ。アンタ…大丈夫?」

 階段に女の声が、静かに響き…

 「うん?…」

 俺の声は、響かない。

 「そんなレシピ何って聞き出して、諦められるの?」

 「…知るかよ」

 投げやり。そんな言葉が思い浮かんだけれど、咄嗟にその言葉と、あの水の味が懐かしく思えた。

 「随分とアホ男な発言ね」

 「そりゃどうも…」

 そんなの…

 分かってる。

 どんだけ自分が、バカなことし続けたのか…


 それでもいい。

 おこがましくても、構わない。

 偶然でも、擦れ違いでもいい。


 会いたいんだよ…


 「…なっ、顔しても…実際にアンタは、あの子の居場所や今の連絡先を知らないんでしょ? それともまた大学で擦れ違うの?」

 オレは、思わず睨んだ。

 「あっ…! 私は、教えないわよ。でもまぁ…住所は、知らないけど実家だって、この街にあるんだし。大学同じなんだし。もしかしてって偶然が、あるかもよ」

 「慰めになってねぇーっ」

 けど、その声が優しく聞こえた。

 アイツが、居なくなってから。

 立ち寄りそうな場所や行きそう所とか、行ってみたけど、どこ探しても見当たらなかったのに…

 

 また会えそうな気がしたのは、初めてだった。

 

 それよりも、さっきのヤツ…

 似てたし年下っぽいから弟かな?

 弟だろうな。

 アイツから弟が、居るってことは、聞いたことなかったけど…


 「何でオレの方が、スミマセンでしたって、言われたんだろうな? お前も、聞いてたろ。俺が、謝罪する側なのに俺の顔見てスミマセンって…」


 まるでアイツが、全部悪いみたいに

 「…二回も、そう言った」

 「そうね。悪い子には、見えなかったけど…何かが、悪かったって事かしらね」

 「…分かんねぇよ…」

 彼は、そう呟いた。 

 こんな風に納得させながら。

 日々のどこかで、その人の面影を残した誰か、それが他人でも見れれば嬉しい。

 見掛けただけでも、安心したとさえ思える彼は、どうしようもないぐらいに打ちのめされ続けている。

 彼は、押し付けられたように返された小箱の蓋を開ける。

 

 「俺らってさぁ…」

 「ん?」

 「自分の手で梱包したのか、他人が、梱包したのか見りゃ分かるよな?」

 「まぁ…癖みたいな感じが、残るからね…それが?」

 「箱の中の小袋…俺が、梱包したままになってる…」

 「…やっぱりね…」

 「気付いてた…」

 アイツは、どれも開けてはくれなかった…

 少しでも、気持ちを知って欲しくて…

 身に付けてくれそうなシルバーのアクセを作って贈ったけど…

 着けてくれこともなかった。

 唯一アイツの耳にピアスホールを開けてあるって気付いて、青い石のピアスを贈ったけど…

 一度も、着けている所なんって見たことがない。

 分かりきったことなのに、一方的に贈って。

 それでも、こっちとしては、好みが知りたくて…

 こう言うデパートや複合施設に連れ出しては、アイツが手に取って見入っていたモノを、参考にして作ったはずなのに、手にすら取ってもらえなかった…


 それは、それで…

 悔しい。


 「それは…どうだろう…」

 響く業者の女の声。

 「アンタが、手に握っているピアスの石は二つ。アンタに納品した記憶があるけど?」

 私は、落ち込みまくりの彼の顔すれすれに小袋をつまんで差し出す。

 勿論。小袋の中は空だ。

 「…取り出された形跡無しの新品同様の一つしか、入ってなかったけど?」

 「はぁ?」

 数ある小袋のそれだけが、何度か開けられ使い古された感じになってあった。

 「…それに、仕事に几帳面なアンタが封を閉じにしては、全然違い過ぎだし。不自然なぐらいに目に付いたのよ…」

 「…これの片方って…どうなったとか聞いてるか?」

 「聞こうと思ったら。話はずれるし。アンタが、来たんでしょうがぁ…」

 「俺かよ!」

 背中をピシャッと叩かれた。

 

 言い訳になるかもだが、アイツは中々、気持ちや想いを見せてくれなかった。

 もしかすると、最後まで見せてくれなかったのかも知れない。

 俺は、沢山の小袋が入れられた小箱を膝に乗せた状態で、その場に座り込んだ。


 「何…その片想い的な怖い顔は?」

 「それ…言うな…」

 従業員専用のバックヤードの階段だからか、この静けさに救われるような気がした。 

 「なぁ…仮に……いや。逆に俺の試すみないな行動が、全部バレてたら。何で言ってこなかったと思う?」

 このアホにしては、中々鋭い突っ込みな気がして私は、笑ってしまった。

 「なんで、そこで笑う?」

 「珍しくマトモな事を言ってるから」

 「まと…も?」

 確信した訳じゃないわ。

 

 何となく。

 

 「…人との付き合いに対して、苦しんでいたのかなぁ…って、何に対して苦しんでいたかは、分からないわよ。でも、アンタと付き合っていた頃のあの子は、嬉しそうに見えていたし。苦しんでる子には見えなかった」

 色々、あったけど俺は、間近でそれを見てきた。

 「でも、そこにアンタの病的な独占欲とか、気持ちを確かめたいとか…そんな行動が、変に合わさって、こんなふうになったんじゃないかって…」


 慰めている訳じゃない。

 傷付けるために言っている訳でもない。

 「アンタが、今抱えた気持ちは、さっきまで、ここに居た弟くんも同じなんじゃって思えてならないのよ」

 私は、コイツから。

 惚気に似た話は、聞かされていたし。

 二人が街を歩いている姿を、何度も見た。

 確かに昔から付き合ってきた人に対する彼の独占欲は、凄かったけれど、二人共にどちらも依存するタイプって訳でもなくて、程よく距離を保てたと思うけど…


 「苦しい系に独占欲系の強いの当てたらダメね。良い勉強になったわ」

 「はぁ? なんじゃそら?」

 「取り敢えず。どうすんの?」

 「どうすんのって?」

 「それ…」

 と、小箱を指を差す。

 「これのこと?」

 俺は、溜め息を吐く。

 「返品されたもんは、仕方がないだろ?」

 「諦めるの?」

 

 視線を下にやると、程よくいい加減な顔した彼が、本の少し寂しげに笑った。

 

 「……そう言えば、さっき帰り際に聞いたレモングラスも、どうすんの?」

 「作るに、決まってる。でも、ハーブとかどこに売ってんだ?」

 まぁ…彼は、相変わらずと言うか、何と言うか…

 仕方がない。

 「このデパートの裏の通りにハーブティーとか、ハーブを売ってる。お店が、あるから仕事終わりにでも、行ってみたら? 地図書くわよ? 私に聞いたって言えば、相談にものってくれるはずよ」

 彼は、しばらくボンヤリと押し黙り。

 フーッと息を吐き出した立ち上がった。

 「うん。後で行ってみるよ」

 一瞬だけど、憑き物が落ちたように見えたのは、気のせいか…

 それとも、そう装おっているのか…

 まだ、定かじゃないと…

 

 私は1人考える。

 


 

 



 






 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕という花は 塚野真百合 @315m

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ