第18話

「それより石上、そこの場所から移動しろ」


立ち上がらせようとする輝夜に、話の腰を折られたと感じたのか石上は不服そうだ。

帰れと言われ、追い出されると思ったのかもしれない。


「なんでだ?」


「床がこんもりと膨らんでいるだろう。そこは危険だ」


ん?石上が自分の座っていた場所の床を見る。確かに足で押すとふわふわとしている。水分を含んで膨張でしているのだろうか。


「なんだこの床板、盛り上がっている」


「竹の子だ」


「竹の子?」


「春になってから、床を突き破って生えてくる」


「……は?」


「これで三本目だ」


輝夜はそう言うと床板を金属製のバールで『バンッ』と叩いて、おもいっきり破壊しだした。


「いや、待て。今は竹の子はどうでもいい。そんな話をしているわけではない」


石上は焦って様子で輝夜の動きを止めようとする。


「しかし、このまま放置していると翌日には大変なことになる。ぐんぐん成長してそのうち、立派な竹になってしまう」


「それは大変だろう。しかし……」




朝、目が覚めた時に自分の家の畳から竹の子が突き出ていた時には驚いた。確かに季節は三月、竹林の中には立派なタケノコが沢山頭を出していた。


「いや、ちょっと待って、俺がやるから、バール貸して」


なんやかんや言っても、石上は根が優しい人間なのだろう。輝夜の代わりにバールをもって丁寧に床板をはがしてくれた。


「輝夜姫、いや……いくらなんでも、家の中にまで竹の子が生えてくるなんて異常じゃないか」


石上は仕方がないと、自ら床下の竹の子採取に取り掛かった。


「このままでは確かに穴ぼこがたくさんできてしまう。だけど、竹林に住んでいる以上は宿命だと思って受け入れるしかない」


「とりあえず、この竹の子を掘ったら話の続きを聞いてくれ」


石上の必死の訴えに輝夜は分かったと頷いた。


「こんなに生えてくるなんて思っていなかった。今まではそんな形跡はなかった。軒下は日陰だし問題ないと思っていたのだが、こいつらの生命力は目を見張るものがあるぞ。次から次へと凄まじい」


最初のころは嬉しくて、たけのこを掘っては土佐煮に吸い物、竹の子ご飯とあらゆる竹の子料理を作っていた。竹の子の漬物や炒め物、筑前煮。

だがさすがに飽きてしまった。そして胃腸の調子も悪くなる。食べすぎ注意だ。

縁側に山積みになった竹の子を観ながら輝夜は考えていた。


玄関からガタガタと大きな音がする。

誰か客が来たようだった。



「かぁぁぁぁぐぅううう……やぁぁぁああ!!!!!」


「ひぃえ!」


「誰だ!」


玄関の引き戸が勢いよく開いて、鬼の形相をした中年女が輝夜に突進してきた。

誰だ、この女?輝夜は危険を察知して石上の後ろに隠れた。


「あんた!こんな所にいたのね!どれだけ心配したと思ってるの。人に迷惑かけるのもいい加減にしなさい!」


女が叫んでいる。

かくれんぼのごとく、輝夜を捕まえようと腕を振り回す。

輝夜は避ける。

輝夜の反射親権は優れている。


輝夜は石上を盾にしてひょいひょいと女の腕をよけている。


「ちょっと、待って、落ち着いて」


輝夜を追いかけ、女が石上の後ろに回り込んだ瞬間。

石上が女の腕を掴んで、暴れる彼女を抑え込んだ。


女は必死に逃れようと暴れている。


石上は逃げられないようしっかりと腕に力を入れた。


「あなたは……大友美幸さんですね」



『大友 美幸』


それは海で行方不明になった輝夜の母親だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

かぐや姫と五人のフォロワー おてんば松尾 @otenba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ