第7話

「この時代に歌手はいない。歌は歌うものではない。生成するものであり、聞くものだ。『こんな曲が聞きたい』とコンピューターにリクエストすると、好みの曲を生成してくれる。どんな曲でもね」


「人が作曲するものじゃ……ないんですか?」


「歌だけじゃない。イラスト、絵画、映画やドラマに至るまで、コンピューターが全て好みに合わせて生成してくれる。それを、不思議だと思ったことがなかった。このDVDの中身を見るまではね」


 『烈火の翼』が活動休止をしてから1万年後、未来人がライブ映像を見ることとなった……。


「歌う彼の映像を見て、私たちは脳天を殴られたような衝撃を覚えた。そして、心の底から湧き上がる熱いものを感じた。その後、国家プロジェクトが発足したんだ。芸術を人に取り戻すプロジェクトだ。ここは、そのための実験都市だ」


 俺は、火野鷹也の生まれ変わり。人間が歌を歌うために蘇ったクローン。


「カラオケスタジオを作った理由は?」


「歌のトレーニングをしてもらうための場所。判定を機械に任せたのは、この時代の人間では指導することができないからだ」


 そのとき、受付側のドアが開いた。立っていたのは、美月だった。


「ねえ、陽介。お願いがあるんだけど」


「お願いなんて、気持ち悪いな」


 上目遣いの美月は……ちょっと、色っぽかった。


「生の歌、聞かせてもらえないかしら」


「彼女、いつもドアの外から盗み聞きしていたんだ。でも、君がクリアするまで、リアルに聞くのを我慢してもらっていた」


 ドアを開いたら美月がいた、という場面は何度もあった。どこかの部屋に飲み物を届けているだけだと思っていたが。


「カラオケボックスで客が歌っていた気がするんだけど」


「スピーカーから音楽を鳴らしてカムフラージュしてたの。ねえ、そんなこといいから、早く行きましょう」


 美月は、俺の腕を取って強く引いた。


「彼女も君と同じだよ」


「店長!」


 言わないでといいたげに、美月が頬を膨らませる。


「彼女は、大昔に亡くなった偉大な画家のクローン。この都市では、音楽だけでなく、あらゆる芸術の復活に取組んでいるんだ」


 なるほど。どうりで、イラストが上手いはずだ


 俺は腕を引かれるまま、特別ルームへと向かった。


「感動して泣くなよ」


「失神しちゃうかも。今まで、意地悪なこと言ってごめん」


 美月は照れながら、可愛らしい笑顔を浮かべた。


 そういえばここは、カラオケスタジオ『ノスタルジア』。


 意味は『郷愁』。


 過ぎ去った時代を懐かしむこと。洒落た名前をつけたものだ。


 俺はタブレットを手に取り、最も好きなあの曲を入力した。


(了)

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カラオケ・キング ~特別ルームの試練~ 松本タケル @matu3980454

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