第6話
* * *
店長が拍手をして迎えてくれた。
「君なら絶対にやってくれると思っていたよ」
目を細め、愛らしい笑顔をつくる。
「事務所の方へどうぞ」
店長は受付カウンターの奧にある控室へ、俺を誘導した。事務机が一つだけの狭い部屋だ。
「景品を持ってくるよ」
店長は壁際に置かれた大きな金庫に、鍵を差し込んで開いた。貴重なDVDだが、保管が厳重すぎやしないか?
「どうぞ」
それは丁寧に袋詰めされていた。俺は封を切って中の物を取り出した。
「これは!?」
プラスチックケースには確かに『烈火の翼』のジャケットが入っている。しかし、半端じゃないほど色があせている。ケースを開けて中身を確認した。
「これでは、再生できません」
DVDは激しく損傷していた。平坦であるべき表面が湾曲して、波打っていた。
「これから話すことを、落ち着いて聞いてほしい」
店長の顔に笑みはなかった。こんな真剣な表情は初めて見る。
「これが発掘されるまで、私たちは人が歌う場面を見たことがなかった」
見たことがない? 何を言っているのだ。俺は店長の目を見据えた。
「発掘……ですか。解散したのは35年前。時間は経ってますが……お宝発掘みたいなことを言われているんですかね?」
店長はゆっくり首を横に振った。
「35年……偶然だけれど、確かにそうだ。でも、プラス1万年しなければならない」
喉がゴクリと鳴った。1万と35年、そう言いたいのか?
「ボーカルの火野について語らなければならないな。彼は重い病気を患っていた。喉のガンだ。それを秘密にしていた。しばらく活動を休止して、復活するつもりだったからだ。しかし……叶わなかった。闘病虚しく、彼は2年後、帰らぬ人となった」
「そ、そんな情報、知りません」
「非公開情報だからね。このDVDが入っていたのはタイムカプセル。彼が自分の生きた証を残すために、長期保存できる箱に様々な物を詰め込んだ。彼の死後、遺言通りに地下深くに埋められたようだ。その中に経歴が記録されたメモリも入っていた。あと、これを見てくれ」
店長がテーブルの上に置いたのは古い写真だった。
「こ、これは!!」
「本物の火野鷹也だ」
俺がライブ映像で見た彼とは異なっていた。映像が改変されていたのだ。驚いたのはそれだけではなかった。
「俺に、そっくりなんですけど」
「タイムカプセルには、火野の毛髪が保存されていた。我々はそこから遺伝子を取り出した。そして……」
「まさか、クローン……」
店長は、視線を逸らすことなくうなづいた。
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