最終回
マー君はなんのことだか分からず、上空を見渡すと、中心になんらかの金属物質でできた球がそしてその周りを円盤が回転しているような、謎の飛行物体がこっちの方へ、しかも学校の方向に向かってきているのが見えた。マー君はいつものように隕石かと思ったが、それにしては速度があまりにも遅かった。それは降ってきているというより、着陸しようとしているように思えた。マー君はどう対応すべきか分からず、まだ学校を出たばかりだったため、急いで戻って学校の屋上に向かい、そこから飛行物体を観察することにした。
みんな、学校から急いで出ていく中、マー君だけはその反対方向に向かって走り続けた。その間、誰にも声はかけて貰えなかった。
ようやく屋上について、謎の飛行物体の観察を始めると、球体の一部分に、青い円形の中に白色で記号のようなものがいくつか書かれたマークがデザインされていることに気づいた。『NASA』、このような形で描かれていた。しかも、驚いたことにそのマークは彼の持つペンダントにも描かれていたのだ。
すると今度は、マー君の後方から、今一番聞きたかった声が聞こえた。
「ふーん、ここに来るとは、成長したじゃない」
マー君は慌てて振り向いた。
「どうしてここに、君は……」
マー君は言葉に詰まった。監獄にいたはずのマリナちゃんがなぜか屋上にいたから言葉に詰まったのではない。見た目がおかしかったのだ。
「まぁ、いきなりこんな姿を見たらそりゃ驚くわよね。とりあえず一旦、落ち着いてください。」
途中から、マリナちゃんの声色が無機質な音声へと変わっていった。マリナちゃんの美しかった外見は跡形もなく、というより全く別種のものになっていた。マー君と同様、二足歩行ではあるものの、全体的にシャープな造形で、鋭利な歯を持ち、身体の周りに、あの飛行物体と同じように円盤を纏わせていた。また。最も異質なものとして、後頭部から体全体にかけて、幾つものホース状のものが連結されていた。
「実は私、こことは別の星から来たのです。あなたから見たら、所謂、宇宙人というものです。そして、あの飛行物体は我々の空中空母です。あそこには私の仲間が多数待機しています」
そう言って元マリナちゃんは、謎の飛行物体を指差した。
「い、一体何が目的なんだ」
マー君は気後れしないようにと思いながらも、恐怖のあまり声が震え上がってしまっていた。
「私たちの住んでいた星は、私たちを作り出した者たちにより完全に破壊し尽くされてしまいました。あなたたちもよくやる方法でね。そのため、私たちをこちらの星に移住させていただきたいのです」
宇宙人を名乗るものは、礼儀正しく頭を下げた。
「もし、ダメだといったら、一体どうするんだ」
マー君はどうしてもそれを確認しておきたかった。
金属でできた宇宙人は、
「その時は、残念ながらですが強行手段に出るしかありません。先に言っておきますが監獄に行った時、軍基地から世界各国の情報を入手することに成功しました。私の計算だと、世界各国が手を組んでも、私たちに勝てる可能性は一割にも満たないでしょう」
と言った。
空母母艦はついに我らの訓練場に着陸した。目の前にいる宇宙人と全く同じ見た目の奴らがそこから何人も降り立った。
「食料資源のことは気にしなくて構いません。あなたたちが必要とする食料と私たちが必要な食料は全く違うのです。幸い、この星には私たちの必要とする食料が十分にあることが分かりました。検証済みです。それに、私たちとの共生を選べば、私たちの持つ科学技術を存分に提供することができます。もしかすると、資源問題も解決するかもしれません」
この宇宙人が提案する内容はそれほど悪い内容ではないのかもしれない。むしろ、この星の持つ問題を解決する大きな糸口になる可能性すらあった。
「どうして、僕に聞いてくるの。例えば総統とか、そうじゃなければ先生の方が、もっと他に適任者がいるじゃないか」
それを、聞くと宇宙人は驚いたようにビクッと体を震わせた。
「え、ええ。もちろん後で各国の代表者にこれから提案させて頂きますよ。でも、私はなぜだか無性にあなたに聞いてみたくなったのです。ただの好奇心だと思います。」
宇宙人は動揺しているようだった。まるで自分の意図しない行動をとってしまったかのように。
そんな姿を見たマー君は逆に冷静になっていき、考え始めた。(本音を確実に押し通すために、敢えて本音を語らず相手を騙す)のを知的生命体の特徴なのだと言うのならば、逆に(相手の本音を見破ることができる)というところも、その特徴の一つなのかも知れない。
マー君は腰の辺りに手をまわした。やることはもう決まっていた。
『自分の本心に従っている時が、私にとって一番落ち着く時だから』
マー君の本心は一体何であろうか? それはもちろん消息不明の父との再会である。
「マリナちゃん、ずっと前から生き物っぽくないと思っていたけど、確かに君は立派な知的生命体になったみたいだね。だけども、僕たちには勝てない。この星史上始めて全員が手を取り合うことになるんだ。あまり、水星人を舐めるなよ」
そう言って、隠していたナイフを取り出し宇宙人に向かって切りつけた。宇宙人は慌てて避けようとしたが、ホースの一部分に傷が入ってしまった。いや、マー君は初めからホースを狙っていたのかもしれない。ポタポタと床に“緑色”の液体が垂れていった。その時、屋上のドアが勢いよく開かれる音がした。そこにいたのは先生だった。
「一体何しているんだ。せっかく逃がせてやれたと思ったのに」
「僕、やっと会うことができたんです。それに、みんなが一致団結できるようなことも見つけられましたよ。これで任務遂行ですね」
父との再会、そして任務の遂行を確信したマー君は、満足そうな表情を浮かべていた。
水の星 柊木 誠 @makoto0912
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