エピローグ:ダブルデート

 週末。ムネちゃんの希望で、ムネちゃん・早坂・キュン子・日向の四人で映画を観に行くことになった。


「キュン子、ダブルデートだよ! ダブルデート! いつかキュン子に彼氏ができたら行きたいって、ずっと夢見てたのー!」


「大げさねぇ。四人で遊びに行くだけなのに」


「そんなことないよ。ね、日向くん!」


「ハキソォ」


「ほら、すっごく嬉しそう!」


「緊張しすぎて、顔真緑になってるけど?」


「楽しみだね、彼方くん!」


「そうだな」


(お、さすがは早坂。デート慣れしてる)


 感心したのもつかの間、キュン子は見てしまった。早坂がズボンのポケットの中で、高速フリック入力しているのを。


 こっそり覗き見ると、「ダブルデート オススメスポット」「ダブルデート 服装」「ダブルデート 注意事項」など、後で検索するつもりのワードをメモしまくっていた。


(こっちも緊張してるのね……)



  ◯



 迎えた当日。四人は駅前で待ち合わせをした。


 ムネちゃんが到着したときには、すでに早坂とキュン子が待っていた。


「ごめーん、遅くなっちゃった! 行きつけの土器楽器屋さん見てたら、集中しちゃって!」


「へーきへーき。日向くんもまだだから」


「日向なら、とっくにいるぞ」


「嘘?! どこどこ?」


 早坂が柱の裏を指差す。日向はバツが悪そうに、姿を現した。


「お、お待たせ」


「もー! 先に来てるなら、さっさと出てきなさいよ!」


「ごめん。緊張が和らいだら、出て行こうと思っていたんだけど……」


「ちなみに、いつから待っていたんだ?」


「昨日の夜から」


「徹夜?!」


 冗談ではなく、日向の目の下には濃いクマができていた。


「じゃ、さっそく映画行こ!」


「夢音、その前に……」


「?」


 何か言いたげな早坂。小首を傾げるムネちゃん。


 早坂はスマホで文字を打とうと、手をポケットへ入れる。しかし思い直し、直接ムネちゃんに伝えた。


「今日の服……似合ってる」


「ホント?!」


 ムネちゃんはふわっと笑顔になった。


「実は、今日のために選んだの! 褒めてもらえて嬉しいなぁ」


 幸せそうなムネちゃんの笑顔に、早坂も嬉しそうに微笑んだ。


「ラブいねぇ」


「あままかかかすすす(訳:天月さんも今日の格好、素敵だよ)」


「そう? ありがと」



  ◯



 観るのは、ムネちゃんオススメの短編映画二作。


 一作目は、流行りの恋愛映画。周りの客はカップルばかりで、ムネちゃんは座るだけでドキドキした。


『俺も、お前のことが……』


『弥生くん……!』


(きゃー!)


 興奮しっぱなしで、喉が渇く。飲み物に手を伸ばすと、早坂と手が触れた。


(あ……)


 薄闇の中、視線が交わる。となりからグガゴゴと寝息が聞こえた。


「え」


 見ると、となりに座っていたキュン子と日向が爆睡していた。早坂も二人を見て、「マジか」ドン引きした。


 上映が終わると、キュン子と日向は目を覚ました。


「ちょっと、キュン子! あんなラブい映画で寝るとかありえないんですけどー?!」


「あー……なんか共感できなかったんだよね。フツーに恋愛して、フツーに上手くいってさ」


「そのベタさがいいのにー!」


「僕は寝不足で、つい……ごめんね?」


「あー、うん。日向くんは寝てていいよ」


「けど、すっごいよく寝れたわ。人生史上、一番の快眠! 妙に安心感あったっていうか」


「そういえば、僕も。他人の目があるところでは寝られない方なんだけど」


 ムネちゃんと早坂は顔を見合わせ、うふふと笑った。


「何よ、その反応は?」


「だってキュン子と日向くん、寄りかかりあって寝てたんだもん。こう、頭と肩をごっつんこ……みたいな?」


「そうか、そうか。あの姿勢が安心するか」


 想像したキュン子の顔がたちまち真っ赤になり、日向は「ヒュッ」と一瞬呼吸が止まった。


「な、な、なにそれー?! 見てないで起こしてよ!」


「ニヤニヤ」


「ニヤニヤ」


「ニヤニヤすんな!」



  ◯



 キュン子と早坂は、次の映画では寝なかった。


 二作目はホラー映画「恐怖! 土器星人」。土器が出てくるからとムネちゃんが選んだが、予想以上の怖さに悲鳴をあげっぱなしだった。


『オマエも土器になるドキ〜』


「キャーッ!」


「ギャーッ?!」


 ムネちゃんと早坂は手を握り合い、絶叫する。心臓が「ドッ」と早鐘を打った。


 一方、キュン子と日向は


「あははっ! 土器がドキ〜だってウケる」


「面白いね、このコメディ映画」


 「ドッ(笑)」と爆笑し、こちらはこちらで仲が深まった。



  ◯



 四人は映画を見終わると、駅中のファーストフード店で昼食を取った。


「いやー、さっきの映画笑ったねー」


「どこがよ! 超怖かったじゃん!」


「僕、土器星人のストラップ買っちゃった」


「それ、劇中に出てくる呪いのアイテムじゃないか!」


「で、この後どうする? 私、見たいお店があるんだけど」


「じゃあ、私達もついて行こうか。最後にカラオケね!」


 おのおの見たい店を回り、日が落ちるまでカラオケで歌った。店を出ると、駅前がライトアップされていた。


「うわぁ、きれい」


「そういや、もうすぐクリスマスだね」


「今度はクリスマスダブルデートとか、どうだ?」


「いいね、決まり!」


「あはは、勘弁して」


「何言ってんのよ。日向くんこそ、けっこう楽しそうだったじゃない?」


 次の約束をして、解散した。ムネちゃんと早坂、キュン子と日向で、別れる。


 キュン子と日向が真っ直ぐ駅を目指すのに対し、ムネちゃんと早坂は駅とは反対方向に歩いていく。その先には夜間でも営業している水族館があった。


「あれ? あの二人、まだ帰らないのかな?」


「これから二人でデートするんでしょ。あのラブい空気が分からないの?」


「……確かに、手をつないで歩いているね」


 キュン子は少し不満げに、日向の手を見た。


「私達だって一応付き合っているんだから、手くらい握りましょうよ」


「そんな、恐れ多い……」


「じゃあ、そのへんで飲んだくれてるおっさんと手つないじゃおっかな?」


「それは嫌だ」


 日向は自分から、キュン子の手を握る。キュン子はむふーっと満足そうに手を握り返した。



  ◯



おまけ:その後の四人


ムネちゃんと彼氏

→結婚。子供は三人。


キュン子と日向

→事実婚。毎年、日向が撮ったキュン子の写真を年賀状にして送っている(日向は映ってない)。


〈終わり〉

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仲直りに言葉はいらない 緋色 刹那 @kodiacbear

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