23年後の名探偵~短いマフラーの謎

三角ケイ

第1話 23年後の名探偵~短いマフラーの謎

 私は結婚歴23年の専業主婦だ。夫とは恋愛結婚で結ばれた。


 不器用で要領が悪い私には勿体ない位に良い旦那だと学生時代の友人達は口並み揃えて言い、私もそう思っている。


 最近寒くなってきたので朝、家を出ようとする夫の首にマフラーを巻こうとして、ふと気付いた。


「あれ?マフラーが短い。縮んじゃったのかな?」


 マフラーは二人がまだ恋人だった頃に私が手編みしたものだった。


 不器用な私は唯一出来たガーター編みをひたすら繰り返しただけの飾り気のないマフラーを渡し、夫はそれを喜んで結婚後も毎年の冬に使ってくれていた。


 気をつけて手洗いしたつもりだったのにと気落ちする私に夫は苦笑し、私が巻いたマフラーを一旦外した。


「マフラーは初めから短かったよ。だからこれを巻くときにはコツがいるんだ」


「え?初めから?」


 驚く私の前で夫が器用にマフラーを巻いていく。


 結ぶように巻けば確かに短くても解けることはないだろうけど、私は衝撃の事実を知ったショックで呆然となってしまい、夫が行ってくるよと言った言葉に、気をつけて行ってらっしゃいと返事をしたかも記憶になかった。


 どうしてマフラーは短かったのだろう?ちゃんと首に巻けるように確認しながら編んでいたはずなのに?


 と、その日の日中は名探偵になったつもりで短いマフラーの謎について悩んだけれど答えが出ず、マフラーの謎が解けたのは、その日の夜寝る前に夫の足をマッサージしているときだった。


「こうして比べてみると私の足と全然違うね。すね毛が生えていてガッシリしていて何だか面白い」


「男と女なんだから体つきが違うのは当たり前だよ」


 男と女は体つきが違う。それが短いマフラーの答えだった。


 母子家庭で育った私は同性の通う学校に何年も通っていたので、周囲に男性がいなかった。だから私は男と女では首の太さが違うということを知らずに育ってしまった。


 彼に内緒で編んでいたマフラーの長さを調節するのに、私は自分の首の太さを参考にしたからマフラーは短くなってしまった。犯人は私だったのだ。


「マフラーを渡したときに短いって教えてくれたら良かったのに」


「生まれて初めてマフラーをもらったから嬉しくて言いそびれちゃったんだ」


「23年も?」


「23年も。そして、これからも」


 これからも夫は私の不器用な恋心を巻いていく。多分、死が二人を分かつ日まで……。

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