その公園には1つだけ「遊具」があった
醍醐兎乙
その公園には1つだけ「遊具」があった
男は仕事を終え、駅から自宅へ向かっていた。夕飯のメニューを考えながら歩いていると、見覚えのない小道が目に入る。
男は最近運動不足なことを思い出し、少し遠回りをして帰ることにした。
その小道は住宅地の隙間を縫うように作られていて、男はそんな小道を進んでいく。
男が小道を進んでいくと、住宅の隙間に無理やり造ったような、小さな公園があらわれた。
小さな公園の中央には白い卵型の遊具が1つだけ立っていて、男は今までそんな遊具を見たことがなかった。
男は周囲を見回すが、この小さな公園に他の遊具は見当たらない。
この小さな公園は、この遊具のためだけにあるようだ。
男はその遊具に近づき、これがどんな遊具か考えてみることにした。
大きさは大人が入れるほど。
表面は不自然なほど磨かれ、角や平面がまったくない。
触るとつるつると滑り、よく見ると卵型の上の部分が開いている。
反対側に周ると階段があり、遊具の中に入れるようになっていた。
男は「中に入って遊ぶ遊具」だと当たりをつけ、階段を登り遊具の中を覗き込む。
遊具の内面は表面と同じ卵型で、表面と同じく角や平面がまったく存在しない。
そして表面以上に磨かれていて、その鏡面は月明かりを怪しく反射させていた。
男はその光景に魅入られ、身を乗り出す。
つるり
男はすべる。
つるりつるり
男は月明かりが反射する、卵の中にすべり落ちる。
つるりつるりつるり
男は底についても鏡面の上をすべり続ける。
つるりつるりつるりつるり
足を滑らせ、手を滑らせ、暗闇の中、止まることもできない。
つるりつるりつるりつるりつるり
漆黒の中、男は止まらず、すべり続ける。
顔が映るほどの鏡面をすべり続ける。
そして男は気がつく、あれほど怪しく反射し、自分を誘惑した、月明かりが消えていると。
小さな公園の中心で、口を閉じた卵は、ゆらゆらと揺れ、少し大きくなる。
月明かりの下、卵は白く、怪しく、輝きを増した。
その公園には1つだけ「遊具」があった 醍醐兎乙 @daigo7682
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