第8話 ??????????????????????????????
7月27日。午後20時55分。
ひとつの部屋にインターホンが鳴り響いた。
ドタドタと足音を立てて玄関へと向かう少女は、ピンク色の服を身に纏い、リボンが多く付いているスカートを靡かせながら扉を開いた。
「夜分にすみません。警察のものですけど」
「警察ですか?」
手袋をつけた女性警官は警察手帳を掲げ、辺りを見渡し、押し入るように室内へと入る。
「この近くで事件がありまして。少し、お話を聞かせてくれますか?」
「い、いいですけど……」
動揺を見せながらも、少女は女性警官を連れてリビングへと連れて行く。
「お茶入れますね」
「お気遣いありがとうございます。ですが大丈夫です」
「そうですか?」
ポットに少量の水を入れ、茶袋を取り出した少女だったが、女性警察官の言われるがままにソファーへと向かった。
「それで……近くでなにがあったんですか?私、これから急ぎの用事があるんですけど」
「すぐ終わりますから」
そう呟いた警察官は立ち上がり、先程まで少女がいたキッチンへと向かう。
「そういえばですけど、ソファーの下にボールペンがありますね」
「え……?」
戸惑いを見せる少女は、ソファーの下ろした腰を持ち上げ、地面すれすれに顔を持っていく。
「あ、ほんとですね」
ソファーの下に手を伸ばす少女は人差し指を何度か当ててボールペンをこちらに寄せてくる。
そして女性警察官は、棚から一本の包丁を取り出し、音を立てずにソファーへと戻った。
気づかれないように背中の後ろに隠して。
「とれ……ました!」
少し荒れる息とともに、少女はソファーに座る。
「それ、盗聴器かもしれませんよ」
「え!?盗聴器――」
バッと勢いよく女性警官の方へと身体を向けたときだった。
笑顔を浮かべる女性警官は、隠していた包丁を、少女の胸部へと差し込んだのだ。
「……え?」
戸惑いの声が少女の口から漏れる。
瞬間、傷口から血が溢れ出す。
なにが起こったのか理解できていない少女はとにかく抜かないと、と思ったのだろうか。
つかを握った少女は――
「死んだね」
パタッとソファーに倒れ込んでしまった。
あっという間の出来事に、部屋の中はただ静寂に包まれた。
そんな中、女性警官は寝室へと向かった。
『沙苗』と書かれたタンスを開き、水色のギャザースカートを取り出す。
「これからメイクするってときだったのかな」
まだ温もりが残る肌を触る女性警官は、ゆっくりとリボンが目立つスカートを脱がす。
そしてギャザースカートを履かせ、元々履いていたスカートは洗面所にある『せな』と書かれた洗濯かごの奥底へと沈める。
そしてもう一度寝室へと戻る女性警官は、ファイルに挟んである資料を手に持ってリビングへと姿を表す。
「やっぱり多重人格者だったんだ」
カラコンもなにもしていないすっぴんの顔を見下ろし、クルクルとファイルを丸める女性警官は茶色の髪を靡かせて玄関へと向かう。
電気を消し、扉に釣ってある玄関の鍵を手に取って部屋を後にする。
幸か不幸か、辺りには誰もいない。
そんな中、女性警官は3部屋離れた部屋の扉を開く。
「私はまだやってないのに月イチで喘ぎやがって」
ソファーがあるリビングへと向かいながら、ポケットに忍ばせていたイヤホンを耳に取り付ける。
『結局坂本のことどう思ってるんだ?田辺』
『別にどうとも思ってませんけど』
『実は好印象を抱いてるんじゃないのか?』
『別に』
そんな会話が耳に届くや否や、女性警官は歪に笑う。
「今度、私の料理を食べさせてあげますからね?田辺さん」
愛が篭もる言葉は、静かな空間に馴染んでいく。
誰の耳に届くこともなく、誰からも気がつかれることもなく。
舟中も敵国 せにな @senina
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