小夜啼鳥

 聖なる雨が何も彼もを洗い流した。天使も悪魔も。熾火の蛇も。瓦礫の山も。


 最後まで雨の中に残っていたのは、ふたりの瞳の奥にあった黒曜石と水晶の欠片だった。

 それも雨に消えてしまう前に墓場鳥は拾い上げ、空っぽの眼窩にひとつづつ入れた。墓場鳥は、もう目無しではなくなった。

 天使は目になるかわりに、地獄にも天国にも行けないふたりの墓になってくれるよう、墓掘り人に頼んでいたのだ。


 しかし、墓掘り人は今まで通り褐色の布で目を覆い隠していた。真っ暗な墓穴の中では、目があってもなくても大した違いはなかったからだ。

 彼は相変わらず、目無しの墓場鳥と呼ばれていた。 


 時折、墓場鳥ナイチンゲールの弔いのうたに混じって、愛のうたが聞こえることがあった。

 以前は天使だった小夜啼鳥ナイチンゲールが愛しい悪魔に歌っているのだ。

 墓掘り人の機嫌が良ければ、目の覆いをとり、ふたつの墓場から黒曜石と水晶を取り出して、この小さな物語を語ってくれるだろう。



Requiem æternam dona eis.




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小夜啼鳥は歌う。 水玉猫 @mizutamaneko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ