ノアちゃんと僕。
kuzi-chan
ノアちゃんと僕。(完)
もうすぐ…ノアちゃんが来ます。
僕の住む大学の街に。
だんだん近づいて来る綺麗な特急車両。
ノアちゃん……。
車内のドアの前に立って。ホームで待ってる僕に…小さく右手をふっている。
僕と同い年。
でも。彼女のほうが大人に感じる。かわいい大人…ノアちゃん。
特急電車が。
ホームで立ってる僕の前に。スーーッと彼女を…ピタリと会わせてくれた。
顔と顔が…真正面で。映画のようで…照れくさい。
だから……。
ドアごしの彼女には聞こえないけど。
(やぁ……)なんてっ。ちっちゃく言ったりして。
と……あれっ?
聞こえた?
ノアちゃんもガラスごしに。
警察や自衛隊のような(敬礼)を。ちっちゃく…かわいくしてくれて。
そしたら。
敬礼が合図のように…自動ドアがあいて。彼女と再開した。
今日は。梅雨の前のいい天気で…かなり暑い。日射しも強くて夏みたいだ。
ノアちゃん……。
ピンクのリボンがついた麦わら帽子…かぶってた。
まだ夏じゃないのに。一人だけ…目立ってしまう。
でも。彼女には。とても…よく似合う。
これは。
僕とノアちゃんの。想い出の帽子…麦わら帽子。
去年の夏祭りの夜店で。二人で(射的)をやったら…意外と上手なノアちゃん。
小さなマトを当てて…その景品が(この)麦わら帽子でした。
梅雨前で。まだ(かぶる)には早いのに。
子供のように…楽しそうに。帽子のてっぺんを右手でポンポンしながら……。
ひらいたドアを…笑顔でおりてきたノアちゃん。
何度か入院してるし。それも…あるかもしれないけど。
彼女は色が白い。とっても白い。弱くて…白い……。
祝日でも。
午前の…この時間帯は。そんなに人も出ていなくて。
ホームを押されることもなく。ゆっくりゆっくり。僕とノアちゃんは再開できた。
斜めから入ってくる日射しが強かったので。二人で…奥のベンチにいって座った。
(ノアちゃん?どお?…ぐあい…)
「うん。今は…だいじょうぶ」
ノアちゃん……。
明日から。また…入院する。長くなりそうだって……。今回は。手術もあるし……。
長期入院だから…当面は会えない。
それは…理解してるけど。しょうがないけど。やっぱり。声も聞きたいし会いたいし。
今…目の前に。こうして頑張ってる…ふんばって元気にしている彼女を見てると。
かなわないし……つらい。
なにもしてやれない。たよりなさだけは一人前だ。僕は……。
麦わら帽子の…ノアちゃんの笑顔は。本当にかわいかった。
このまま。
彼女の笑顔が…つづきますように。おねがいします。
そう。強く思った僕は…大学1年。ひよっこ……。
ノアちゃん。
向かいのホームの。楽しそうな若い親子連れを見たあと…僕のほうを向き。
目を動かさずに…トロンとして。静かに…語るように僕に言った。
……最後になるかもしれない。
そう言って。笑って…小さく泣いた…ノアちゃん。
麦わら帽子によく似合う。
一番好きだと言っていた…淡い水色のワンピース。
本当は。強い日射しの中でこそ(はえる)色だけど。今のベンチ。日影だね?…ねっ。
(ノアちゃん。疲れない……?)
「うんん。へいき。……のど。かわいたなぁ……」
(ドトールっ…行こっか? 僕も。なにか飲みたい……)
改札を出ると。駅ビルの中には…たくさんのお店があるけど。
高校時代は…今もだけど。そんなにお金もなくて…よく二人……。
学校の帰り。通りにあったドトール行ってやすんでた。なんか飲みながら…何時間も。
勉強もしたけど……。
ただなんとなく。彼女と…ならんで座っているのが好きだった。
だから。
ドトールは。ノアちゃんと僕の…いつものお店なんです。
(ノアちゃん……?)
「なあに……?」
(次の特急で帰る?)
「うん。……ごめんね?」
(いーよ。あやまんなくて。…でも。ありがとう。来てくれて…)
「………会いたかった。お話ししたかった。…でも。あえないね?頑張ってね?」
(あえるよっ……)
…と。僕は…少し声が大きくなって。何人かいたお客さんの目が…話しの続きを切った。
少しおいてから。
ノアちゃんが気をきかせて…話しを返してくれた。
「大学。どうお?楽しい?…なれた?」
(うん。だいぶいーみたい。うまくやってるよっ」
「友達……できた?」
(うん。ひとりっ。バイトも一緒でさっ。関西人だから…しゃべりがうまいっ」
「そおぉ。よかったあぁ。楽しそうだね?
いいなあぁ。もうすぐ…夏だし……」
(大学…。長いんだ…夏休み。だから。会えるねっ…)
「うん。会いたいね…会おうねっ。……会えると…いいなあぁ………」
ノアちゃんと僕は。
そろそろ電車の時間で。
それからは…あまり会話もなく。ドトールを出て。はなやかなお店や人混みを感じつつ。
駅ビルの中を二人で並んで歩いていた。
すれちがう雑踏に。こわされないように。
僕は。ノアちゃんの手を…にぎっていた。
冷たい手を…熱い手で。にぎっていた。
改札…入ると。
今度は。反対のホームのエスカレーターに乗って…降りた。僕が先…後ろに彼女。
たおれたって…僕が守る。ぜったいに。
2時間前とは逆のホーム。
日も高くなり。もう……夏のような青空だった。
ノアちゃん。
はじめて来た街なのに…駅からは一歩も出ていない。
僕の大学入学よろこんでくれた…ノアちゃん。
自分も大学いきたかったのに。からだ壊した…ノアちゃん。
あしたから。長い入院生活が…はじまる。
なのに。
僕に会いに来てくれた…ノアちゃん。
お父さん…お母さん。ありがとうございます。
おさまってるとは言え。一人で遠出…許してくださって。ありがとうございます。
もうすぐ娘さんは…特急で帰ります。安心してください。
ノアちゃんの…淡い水色のワンピースが。やわらかく…ゆれた。
本当に。雨の梅雨が来るんだろうか?
ノアちゃんと僕を見守るような…気持ちのいい天気だった。
ああ。もうすぐ…お別れだ。
ノアちゃんは。まだ見えない線路のずっと先を…見ていた。
その麦わら帽子が。とってもかわいい……。
(ノアちゃん?……)
「なあに?……」
(いろいろ調べたんだ。医療のサイト。いい先生だって。有名な先生らしーよ?)
「ありがとう。うん…がんばる。負けない。だいじょうぶ…」
(でも。僕のほうからノアちゃんチに行くべきだった。ごめん……)
「うんん。いいのいーの。気にしない。それよりっ。大丈夫?…一人暮らしっ…」
(ま〜ま〜かなあ?夕方からバイトもあるしっ。帰ったらちょっと寝て。勉強かなっ…)
「たいへん。ごはん…食べてる?お洗濯は?掃除もしてるぅ?」
(うん。平気っ。掃除はパパッ。洗濯はポンだしっ。ご飯がなああ……)
「ちゃんと食べなきゃダメだよっ。野菜も食べなきゃ。……やせた?」
(ぅぅん?どうだろう。わかんない……)
ノアちゃん?
いいの。いいって。そんなこと……。
僕のことはいーの。
大事なのはノアちゃん。ノアちゃんなんだよっ?
ノアちゃん自身が…一番大事なのっ。
僕のことはいーのっ…ノアちゃん!
ホームに音が鳴り。お別れの綺麗な特急電車が入ってきた。
ピンクのリボンがついた麦わら帽子。
淡い水色のワンピース。
ノアちゃんが……。
あいたドアに静かに入ってゆくと。感情もない機械は…指示通りに閉めてしまう。
ドア一枚の…中と外。
ノアちゃんと…僕。
二人は。右手を…そっと合わせた…………。
スーーッと走りだした特急電車は。
ノアちゃんの小さな涙も乗せていった。
僕は…ひとりベンチにすわり。
ノアちゃんとさっき撮った。
彼女の左肩に手をかけ…少し引きよせた。一緒の写真を見ていた。
ノアちゃん……。
麦わら帽子にピッタリの。かわいい大人の顔をしていた。
<おわり>
ノアちゃんと僕。 kuzi-chan @kuzi-chan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます