ミステリアスなあいつ

時計は12時10分を示す。カチカチという秒針の音は、心臓の音と共鳴し、緊張を高まらせていく。時計をじっと凝視する者は私だけではない。周りに居る人間もみな、顔をこわばらせている。

カチン、12時15分。部屋中にチャイムが鳴り響く。授業終了の合図とともに、みな椅子から立ち上がり教室前方の扉になだれ込む。鬼気迫るその表情に私は蹴落とされてしまった。しかし、私もおちおちしていられない。覚悟を決め扉に向かい、廊下に出る。

人の波をすり抜けながら早歩きで歩く。階段を2階分降り、立ち止まる。

ここだ。ここが私の戦場である。

ふぅと息を吐き、1歩1歩足を踏み出す。

中に入ると、人があふれそうな程ぎゅうぎゅうに詰まっていた。

パン、パスタ、カップラーメン。みなそれぞれの相棒を手にしていた。


 私は、戦場のスナイパーの如く商品棚をにらみつける。

妥協などできるはずがない。だって1日に食事は3回しかないのだ。その中でも昼食は一番重い役割を持つ。午前の疲れを癒やし、午後を頑張るための活力となるのだ。

ツナマヨにしようか、いやここは王道の昆布か。それとも今日はリッチにいくらか?

私は考えを巡らせる。眉間にしわを寄せながらうんうんと唸る。

ちなみに昨日は納豆巻きを食べた。

おいしかった、とてもおいしかったのだが、納豆ってなぜおいしいのだろう。

ネバネバしているし、足の裏のにおいがする。食を目当てに日本に来る外国人観光客だって、納豆を避ける人が多いという。

臭くて糸が引く豆を、好んで食べる民族はさぞかし気味が悪いだろう。

確かにそうだ。でもなぜなんだろう。なぜ納豆が好きなんだろう。

分からないから惹かれるのかもしれない。ミステリアスな魅力に、みな虜になっているのだろう。

 今日も納豆巻きにしよう。私は細長いパッケージを手に取り、レジへ向かった。


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エッセイシリーズ 大鷹流 @nagare_ootaka

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