雨上がりの空で

功琉偉 つばさ

雨上がりの空で

「ねえ。虹が見えるよ!」


「本当だ。 虹だ!」


「止まない雨はない。 ね。そういったでしょ。」


「そうだね。本当だ。」


俺と君は久しぶりに晴れた空の下で一緒に虹を眺めていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



俺は雨宮優あまみやすぐる


勉強が得意なわけでも、運動が得意なわけでもない普通の高校1年生だ。


だけど俺は天性の雨男だった。


俺が雨男だと気づいたのは小学校2年生のこと。


その時、2年3組だった俺は遠足で少し遠めの公園へ行く予定だったが、1組が出発して、2組が出発して、3組が出発するときに、見事に雨が降り出した。


小雨だったので合羽を被ってそのまま進んでいったが、その後もなぜか3組みがいるところだけ雨が降っていた。


目の前の空は晴れている。


でも自分たちの上の空は何故か曇っていて雨が降っていた。


そうして3組だけがビチョ濡れになって学校へとんぼ返りするしか他になかったのだ。


その後の町探検も、全て3組だけ雨にあった。


そこまではまだ俺だけのせいじゃないと思っていた。


でもひどくなってきたのは3年生になったときのことだ。


3年生になってクラス替えがあった俺はしっかりと前のクラスの人と離れた。


そうして迎えた初めての班行動。


見事に俺の班が行くところだけ雨が降った。


その時は地域の学習みたいなことで、校区内を班に分かれて自由に探検するものだったのだが、俺の班はこれもまたビチョ濡れになって学校へ戻った。


そうして、学校についたら雨がやんだ。


このときはまだ2年生の時同じクラスだった子が同じ班にいたからよかったが、その後の遠足の時、前の学年で同じクラスだった人がいない班のときに、これもまた雨が降った。


それからというもの、俺はしっかりと運動会の自分の出番のときだけに雨を降らし、また家族で海へ出かけたり、キャンプに行ったりするときもしっかりと雨を降らせた。


そうして俺のあだ名はもちろん『雨男』となっていた。


それからというもの、俺は友達との遊びに誘われなくなっていった。


まだ心優しい友達も何人かいて、


「うちに来て、家でゲームでもしようぜ!」


なんて誘ってくれることもあった。


しかし、中学校に進学すると、俺はそんな心優しい仲間とは校区が違ったので違う中学校になってしまい、そこでも雨を降らし続けた。


1年生の初めての陸上競技大会。


この日は降水確率0%だったのに雨が降った。


そのとき、クラスにいた小学校から同じだった俺を馬鹿にしてくる陽キャ男子が


「先生!優、あいつ小学校の時も『雨男』だったんですよ。


アイツのせいですよ、毎回あいつが雨を降らせるんだ。」


と、そんなことをみんなの前で大声でいった。


その時は先生は、


「降水確率0%だとしても、これは小数点以下を切り捨てしている数字だから、残りの0.なん%かは雨が降る確率があるんだよ。


だからそんな優のせいにしちゃだめだぞ。」


なんと言っていた。


しかし、校外学習の時、その時も見事に俺の班にだけ雨が降った。


同じ班だったその陽キャ男子は


「ほら言った。だから俺は優と同じ班だけにはなりたくなかったんだ。


俺頑張って準備してきたのに… 雨を降らせやがって…」


なんてことを言ってきた。


それには俺は悲しくなって次の日、学校を休んだ。


ちなみに後で聞いた話だが、その校外学習の翌日、俺の班員全員が風邪を引いて休んだらしい。


あの陽キャはともかく、他の人も巻き込んでしまってこれはこれで申し訳ない気持ちになってしまっていた。


それからというもの、俺のあだ名は『雨男』に戻ってしまい、まわりから避けられるようになった。


体育のときも、俺がグラウンドに出るだけで雨が降るものだから、俺は自分から外で体育がある日は


「体調が悪い。」


などと仮病を使って休んだ。


体育館での体育には出ていたから、先生は薄々気づいていたのだろう。


でも、あまり雨をふらされるのも困るのか、


「大丈夫か? 体育には行かないといけないぞ!」


なんてゆうことは言わずに、そのまま外での体育のときは保健室にいても許されていた。


そんな感じで俺は中学校の3年間をなるべく外に出ないようにして、根っからの陰キャとなって過ごしていた。


俺は常に降水確率が0%だろうがなんだろうか傘とタオル持ち歩き、自分のこの特性に対応できるように工夫しながら過ごしていた。


しかし、どうしても避けられないものがあった。


それは修学旅行での自主研修だった。


俺は班決めのときに徹底的にみんなから避けられ、最終的に先生がお願いするという形で、なるべくおとなしい子たちが集まった班に入れてもらった。


そうして自主研修の計画をするときもなるべく屋内のものが選ばれた。


そのときは京都、大阪、奈良での自主研修だったため、外を歩くコースが多かったが、博物館とかそういうものをなるべく選んでくれた。


選んでくれた、というよりはみんな雨に降られて風を引きたくなかったからだろう。


そんな感じで迎えた修学旅行は、予定より悲惨なものとなった。


その日の降水確率はもちろんバリバリ0%だったのだが、俺が新幹線から降りてホテルへ向かい、さあ自主研修だ! となったところでしっかりと雨が降った。


しかし、以前よりも俺の雨を降らせる力は強くなっており、その日ホテルに戻って調べてみると、ちょうど俺の半径1km上空に黒い雨雲が発生していた。


そのせいで、外で自主研修をしていたグループはしっかりとビチョ濡れになり、みんな早めに切り上げてホテルへと戻っていっていた。


それから俺は学校へ行く回数が減ってきてしまい、降水確率が70%以上の日にしか登校できなくなっていた。


そうして孤独なまま受験を終え、卒業式、これもまたしっかりと雨が降った。


体育館で行われた卒業式はしっかりとしたものだったが、卒業式が終わり、みんな外で写真を取っているところに入ろうと校舎から出た瞬間、空が曇りだして雨が降った。


もうこれは絶対神様が楽しんでいるとしか思えない。


笑い話にできないくらいの悲惨なものとなった。


みんなの晴れ着はそれはもうビチョ濡れになり、楽しかった卒業式で風を引いてしまった子もいたそうだ。


俺は母に連れられて、特に写真を取るような人もいなかったので、すぐに帰った。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



ここまでが悲惨だった俺の話。


でも高校では奇跡がおきた。


俺はなるべくみんなが行かないような少し偏差値が高い高校へと入学した。


俺はこの時期には根っからの陰キャと化し、放課後は一人で図書室で黙々と勉強をするなどとして、学年ではぶっちぎりの1位となるまでに努力をしていた。


そして入学式、もちろん雨が降った。


しかし、この日の降水確率は0%。


うん。しっかり俺のせいだね。


でもこの高校には俺のことを知る生徒は一人もいない。


だからとても気楽だった。


そうして普通の高校生として日常を過ごし始めた俺はまた壁に直面してしまう。


もちろんそれは外での体育だ。


そして、俺は5回位連続で雨が降り、体育が中止になった時、みんなに俺が『雨男』だってことを告白した。始めはみんな疑っていて、


「そんな漫画みたいなことないだろ。」


「天気の子の逆バージョン?あり得ないあり得ない。」


なんて言っていたが、体育が中止になること連続10回目、不審がっていたみんなが俺に存在に気づいた。


そして、陸上競技大会があるときに、俺の競技のときだけ雨が降ったことに気づき、どんどん俺を避けていくようになった。


遠足のときは特に、俺だけみんなからしっかりと避けられた。


そして、学校祭の時、俺が通った学校では行灯行列をするのが伝統となっていたので、みんなは俺に


「あんたは来なくていいから。」


「その日休んでいいよ。」


などとひどい言葉をかけた。


そうして、学校祭当日。


そんなふうにみんながいう中、君が俺の手を取ってくれた。


「ねえ、行灯行列の時、私と一緒に来ない?」


「えっ、どこに?」


「ちょっとそこの公園に。」


「でも…濡れちゃうよ。」


「大丈夫。おいでよ。」


そうやって太陽のように笑いかけてくれる君を、陰キャの俺が断れるわけもなくそのまま連れて行かれた。


もちろん、雨が降っていた。


「優くん。 この世にはね、やまない雨なんてないんだよ。」


「何を言うのさ。俺の周りは常に雨が降っているんだ。」


「そんなことないよ。だから今、そのことを証明したいから、私といっしょにここで待っていてくれる?」


「行灯行列に行けないけど、君は大丈夫なの?」


「うん。大丈夫。私ああいう感じのワイワイしたところそんな得意じゃないんだ。」


「そうなんだ。 じゃあいいっか。」


そうして2人で公園の屋根があるところのベンチで静かに座って雨を見ていた。


「私の名前知ってる? というか覚えてる?」


「えっと、確か、光野日和ひかりのひよりだよね。」


「良かった〜名前は覚えてくれていて、で、私と前にあったことがあるんだけど覚えねいない?雨宮優くん。」


「えっ?なんかあったことあったけ?」


「だいたい10年くらい前かな。」


「10年?俺達が小1のときか?… あっもしかして1年のときに同じクラスだった日和!?」


「やった!覚えてくれていた! そうだよ。 私が日和だよ。」


「そうか…でなんで俺を公園に誘ったの?」


「好き。」


「えっ?なんて? 雨で聞こえない。」


「だ〜か〜ら。 私は優が好きなの。」


「えっっ!?」


「私ね。実は小1のときに、優に助けてもらったことがあるんだ。 


優はもう覚えていないだろうけど。


小学校で台風が来た時があって、集団下校だった時があったでしょ。


その時私が転んじゃって、びしょ濡れになっちゃって泣いていたの。


その時に『大丈夫? はい。傘どうぞ。』 って助けてくれたんだよ。」


「そんな事あったっけ?」


「まあ覚えていないよね。 でもそのときのことを今でもしっかりと覚えているんだ。


それで小3のときくらいに告白しようと思ってたんだけど、急に引っ越すことになっちゃって。


そのまま、何も言えないでいたんだ。


で、ここに入学したときに、同じクラスに優の名前があって、それではじめの方は全然気づかなかったけど、最近になってあの時助けてくれた、私の初恋の人だって気付いたの。


で、やっと二人きりになれそうだったから、こうして誘ったんだ。」


「えっと〜話が唐突すぎてまだ整理できていない。」


「まあ細かいことはいいの。 だから。小学校の時から好きでした。付き合ってください。」


「こんな『雨男』の俺でいいの?」


「うん。それにね、それを見てごらん。」


「えっ?」


空を見上げると、俺にはほぼ10年ぶりにしっかりと見る青空が広がっていた。


雨はいつの間にか小ぶりになり、厚い雲はどんどん捌けていっていた。


「ねえ。虹が見えるよ!」


「本当だ。 虹だ!」


「止まない雨はない。 ね。そういったでしょ。」


「そうだね。本当だ。」


僕と君はすごく久しぶりに晴れた空の下で一緒に虹を眺めていた。


「本当に俺でいいのか? 陰キャだし…」


「何を言っているのよ。 私の初恋の人。 いままで苦しかったんでしょ。


優と同じ中学校に行った友達から話を聞いたけどね。


止まない雨はない。 どんなに辛いことだっていつかは晴れるんだよ。


私があなたの太陽になりたい。」


「ありがとう。」


そうして暫くの間。俺と君は雨上がりの空を眺めていた。


その日、初めて虹を見た俺は自然と涙が出てきた。


「あれ?晴れているはずなのに雨が降ってきた。」


「もう。何言っているのよ。 泣かないで。」


止まない雨はない。


どんなに辛いことでもいつかは晴れる。 


初めて見た虹は空の青にしっかりと映えていて、とてもとてもきれいだった。


君の横顔を覗いてみると、それは太陽のように輝いていた。

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雨上がりの空で 功琉偉 つばさ @Wing961

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