44. 女三人(?)寄れば


 結衣里との練習デートの日からしばらくして。

 司は結衣里とともに、再び舞月神社を訪れていた。


 「本当にここで、邪気をはらったり災いを鎮めたりしてるんだなぁ……」

 「四乃葉よつのはさんも、厄除けにご利益があるって言ってたもんね。……もしかして、縁結びの方もホントに効果あるのかも?」

 「なら、試しにお参りしてみるか? お互い、恋人ができますように、って」

 「…………今は、いい。お参りはするけど。『もうちょっとだけ、お兄ちゃんにカノジョできませんように』ってお願いしとく」

 「おい」


 意地悪そうにはにかんで見せる結衣里を、軽く小突く。

 イタズラっぽい笑顔は今日も変わらず愛らしく、まさに小悪魔のような魅力をたたえていた。


 「相変わらず、今日も仲良しね。いらっしゃい、結衣里ちゃん、司くん」


 いつも通りのやり取りをする司たちに、呆れ半分な様子の羽畑さんが声を掛けてきた。

 場所が場所だけに、彼女の服装は見慣れた巫女装束である。


 「今日はデート?」

 「違います。改めて、結衣里のことについて調べようと思ってさ」

 「もう、四乃葉さんってば……今日はそういうのじゃないですっ。…………お兄ちゃん、今度ちゃんとデートしてくれるって言ってたし」


 恥ずかしそうにしながらも、結衣里はボソッと嬉しそうに呟いた。


 そんな結衣里の耳元で、羽畑さんが何事かを囁く。


 「(……よかったね?)」

 「(……はい)」


 真っ赤になって俯く結衣里。


 おそらく何かからかわれたのだろう。

 この二人もすっかり仲良くなった。

 兄としては、妹に仲の良い友達が増えたことに純粋な喜びを感じていた。


 「えーっと…………あっ、皆さん!」


 そこにもう一人、別の人物の声がした。


 「よ、瑞希。こっちこっち」

 「は、はいっ」

 「乾くん!?」


 現れたのは、先日知り合ったばかりで、邪気騒ぎの当事者でもある瑞希だった。


 「あんなことがあったのに、何も分からないままってのも酷だろうなって。RAINでなんか聞きたそうな雰囲気出してたから、改めて説明も兼ねて誘ったんだ」


 天候を操る邪気に、結衣里が見せた悪魔の姿。

 いずれもにわかには信じがたいものだろう。


 不安を払拭するためにも、また、単純に仲良くなりたいという意味でも、誘った方がいいと思ったのだ。


 「この神社自体には来たことある?」

 「あ、はい。初詣とかは別のところですけど、前に一度だけ来たような覚えが」

 「そんなものだよねえ、うちの神社……小さくはないけど、他の大きな所と比べると……」

 「まあまあ。なんだったら来年の初詣はみんなで来よう」

 「それいいね、お兄ちゃん。むしろ巫女さんのアルバイトとかしてみたいかも」


 いずれ神社を継ぐことになるからか、自然と営業的な視点になりため息をつく羽畑さん。

 だがそんな物憂げな巫女さんというのも絵になるもので、アルバイトをやってみたいという結衣里の言葉も本心からのものだろう。


 実際、結衣里の巫女装束姿というのは見てみたい。

 兄妹の贔屓目を抜きにしても、似合うことは間違いないと思う。


 「なんなら、瑞希もやるか? 似合いそう」

 「つ、司先輩っ!? だからボク、男の子だしっ!」

 「……う〜ん、案外女の子たちの中に混じってても気付かれなさそうだし、男の子だってバレてもそれはそれでかえって人気出るかも……」

 「羽畑先輩までっ!?」


 瑞希は男子として見れば背も低く、あどけない顔立ちをしている。

 中性的な見た目ゆえに、可愛い系の男の子にも、ボーイッシュな女の子にも見えてしまう。

 今日の服装も半袖のシャツにハーフパンツといういかにも少年らしい格好ではあるのだが、明るく可愛らしい羊色ベージュのハンチング帽なんて頭に乗せているせいで無事、性別が迷子になっていた。


 「俺がいなかったら、完全に美少女3人って感じの組み合わせだもんな……肩身の狭いこと狭いこと」

 「美少女って……ボク、そんなに女の子に見えます?」

 「見える。ぶっちゃけ、男の格好をしてる時の方が女の子に見えるまである」

 「なんで!?」


 さも心外だ、と言わんばかりの顔をする瑞希だが、結衣里と羽畑さんも同意見らしく、うんうんと頷いている。


 「お姉ちゃんがよく『弟じゃなくて妹みたい』って褒めてくれるのは、冗談じゃなかったんですね……」

 「ま、まあ、ちゃんとよく見たら男の子だから大丈夫だよ! ほら、こうやって司くんと並べば────」


 落胆する瑞希を気遣ってか、羽畑さんが彼を司と並ばせる。

 が……


 「…………ダメかも」

 「お兄ちゃんと並ぶと、余計に…………その、どこのカップルさん?」

 「あああ、大丈夫っ、大丈夫だから! 結衣里ちゃんとの方がカップルに見えるから!!」

 「おい」


 男の司と並ぶ方がより可憐さを強調されるらしく、何故かダメージを受けた様子の結衣里を羽畑さんが必死に慰めていた。


 「…………その、司先輩と結衣里ちゃんの関係って」

 「関係? まあ、普通よりは仲の良い兄妹だとは思うけど」

 「それは分かりますけど」

 「────乾くん、乾くん」


 いまいち質問の意図を汲み取れない司をよそに、羽畑さんがちょいちょいと瑞希を手招きして、何やら耳打ちする。


 「(……司くんてば、この手の話題になると異常に察しが悪くなるの。結衣里ちゃんに免じて、これ以上は聞かないであげて)」

 「(よ、四乃葉さんっ! わたしは別に、お兄ちゃんとはそういう関係まではっ)」

 「(んん〜? 関係って、どういう意味かなぁ〜?)」

 「(っ!? ううう〜……っ……!!)」

 「(…………とりあえず、司先輩が罪作りってことだけは分かりました)」


 何やら3人で、きゃいきゃいと内緒話にいそしんでいる。


 女三人寄ればかしましいとはよく言ったものだ。

 一人は男の子のはずなのだが。


 「まあとりあえず、先にお参りを済ませようか、御三方おさんかた

 「はーい」


 綺麗な和音を奏でる返事に苦笑しつつ、司は神社の境内を歩き出した。

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妹は天使かと思ったらむしろ悪魔だった(ホンモノの) 室太刀 @tambour

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