味変の天才悪役令嬢はただひたすらに味変を楽しむ

三角ケイ

第1話 味変の天才悪役令嬢はただひたすらに味変を楽しむ

 お城のパーティーで婚約者である公爵子息に男爵令嬢を虐めたと糾弾された伯爵令嬢は自分が乙女ゲームの世界に転生したことに気がついた。


「婚約破棄する。帰れ」

「婚約破棄は受け入れます。でも折角お城に来たのですから食事を楽しんでもいいですか?」

「パーティー料理なんてどこも同じだろうに。食べたら直ぐに帰れ」


 虐めなんてしていない。浮気した公爵子息が慰謝料を払いたくなくて捏造した嘘だ。


 無実の証拠はあるが、どうせ公爵家の権力で揉み消される。婚約破棄された娘に良縁は来ない。帰ったら隣国に渡るしかないだろう。


 それならこれは、この国での最後の食事になる。彼女は皆が見守る中、一人で食事が並ぶテーブルに向かった。


 確かに食事は食べ慣れたものばかりで新鮮味がない。でも前世で味変の天才と呼ばれていた彼女に楽しめない食事はない。


 幸い食事はビュッフェ形式。彼女は酒のツマミとして出された生ハムとデザートとして出されたマスクメロンを皿に盛り、両方一度に頬張った。


「最高!やっぱ生ハムにはメロンよ!」


 頬を緩めて絶賛する彼女に皆の喉がゴクンと鳴り、見知らぬ青年が声をかけた。


「そんなにも美味しい?」

「うん!幸せの味だよ!ほら、こうやって食べてみて」


 彼女は彼と一緒に食べ進める。スモークサーモンをレモン酢で味付けたライスサラダの上に乗せた洋風寿司。辛めのソースがかかったローストビーフと温泉卵で簡単ユッケ。


 チーズ有り無しのカレーで味比べをして、林檎ジュースとジンジャーエールを二対一で割った、なんちゃってシードルで乾杯。


 シメのデザートにはサラダ用のベーコンチップを振りかけた、甘じょっぱベーコンアップルパイを分けっこして楽しんだ。


 食後、青年は彼女に待つように告げてからどこかに行ったが、彼女は公爵子息によって青年が来る前に無理やり帰らされてしまった。


 一年後。彼女は王子の妃になっていた。青年は王子だったのだ。公爵子息は嘘がバレ私財を慰謝料として没収後、男爵令嬢と共に平民に下ることとなった。


「何故こんな重い罰を?」

「そりゃ、食い物の恨みは恐ろしいから」


 食べる楽しさを教えてくれた彼女に一目惚れし、花束を抱えて戻ってきたら彼女はおらず、実家に行ったら隣国に渡った後だったのだ。王子の恨みは相当根深い。


 嘆く公爵子息を下がらせて、王子は一年かけて捕まえた愛しい妻にキスをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

味変の天才悪役令嬢はただひたすらに味変を楽しむ 三角ケイ @sannkakukei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ