第3話 推しに魔法を教えてもらった!?



 ユーリはとある作品の登場キャラクターだ。

 とある作品と濁しているのは、タイトルを思い出せないから。

 何故かは分からないが、前世のことは忘れてしまっていることが多い……気がする。

 時間経過のせいか、転生の影響か、それすらも分かっていないので、だから気がするとしか言えない。


 ただ作品名は忘れてしまったが、物語の大筋は覚えている。

 作品の内容としては剣と魔法のファンタジー世界、そしてそんな世界で主人公を取り巻くパーティーが魔王を倒す、というこれまたよく見るヤツである。

 ユーリはその主人公パーティーの一人……ではなく、主人公パーティーの魔法使いのライバルとして登場する。

 エルフの中での最強の魔法使いはユーリで、人間の中での最強の魔法使いは主人公達の一人だ。

 最初はお互い対抗意識バチバチの仲であったが、何度か衝突を繰り返す内に認め合うようになり、競い高め合う二人になる。

 終盤近くは窮地に何度も助けに入ったり助けられたりする。

 お互い背中合わせになって、皮肉の応酬と煽り合いをしながら息ぴったりに敵をバッタバッタと倒していくシーンは最高オブ最高だ。


 話は少し逸れるが、こういう関係っていうのはよくカップリングにされたりする。

 夏とか冬にあるイベント等で、この二人の百合カップリング同人とか結構見かけた。

 いや、別に僕は……ね。

 個人的に百合とかそういうのはそんな気にしないっていうかあんまり興味ないっていうか。

 でもまあ、ユーリが幸せならOKです(購入)。


 話を戻そう。

 ユーリのこれまでを聞いて、何故主人公達の仲間にならなかったんだと思うかもしれない。

 これにはユーリのちょっとした欠点が関係していた。

 変な言い方をしてしまうが、ユーリには『ぼっち属性』があった。

 ユーリは魔法や戦闘の時は普通なのだが、それらが絡まなくなると一瞬でポンコツになる。

 正直そこが可愛いところの一つなのだが、そのポンコツ具合をネタにしていじられることも多かった。

 ぶっちゃけユーリは強すぎたのだ。

 無理矢理な欠点が無いと、完璧な最強キャラになってしまう。

 もしユーリが主人公パーティーの仲間入りをしていたら、多分物語はすぐ終わってた。

 それぐらいのスペックがあった。


 そんなユーリが何故僕相手には普通に接することができるのか。

 それは二つ理由が考えられる。

 一つは僕が子供だから。

 原作でもユーリは、子供相手にはしっかりと対応出来ていた。

 魔法や戦闘が絡んでいないのに、普通のユーリが見られる貴重なシーンだった。

 二つ目の理由は憶測になる。

 恐らくだが、僕が能力のせいで周りから浮いていることを知っていて、それを可哀想に感じたから。

 合っていなくても、近いとは思う。

 ユーリは優しいから。



 長々と語ったがまとめると、ユーリはとある作品の便利なお助けキャラだということ。

 ぼっち属性とかいう欠点なんて、まったく気にならないほどのスペックがある最強エルフ。

 そんなユーリに魔法を教わるというのは、我ながら良い考えだと思う。

 ユーリは好きな分野で話すことが出来るし、教えることで伸びることもあると思う。

 しばらくは僕も教わるばかりだが、ユーリの魔法の実験に付き合ったりとか他にも力になれることがあれば積極的にしていくつもりだ。


 とかいろいろ言ってきたけど、やっぱり僕も魔法ってやつを使ってみたい。

 ファンタジー世界に転生しておいて、魔法に触れないとかあり得ないでしょ。

 いや、今までは親も友達も頼れる人も誰一人いなかったから、どうしようもなかったけど、今は最後の希望のユーリさんがいるからね。

 『エルフぼっち生活“無限森遊び編”』はもう終了だ。

 とりあえず、生活に使えるような便利な魔法から教えてもらいたいな。

 まあ、僕が教えてもらうのは、あの最強の魔法使いの一人であるユーリだから、最終的には知りたい魔法は全部教えてくれるでしょう。

 いやあ、楽しみだなぁ。










 ────と、思っていた時期が僕にもありました。


「…………」


「…………」


 うーん、これは……。


「ユーリ」


「な、なに……?」


「言葉にするのが難しいからって、僕の目をじっと見てくるのはどうかと思うよ」


「だ、だって、これから確実に伝わると思って」


 僕の能力を便利扱いしてきたのはユーリが初めてだよ。

 これは、困ったな。

 ユーリはどうやら教える才能は無いらしい。

 いや、偉そうに言える立場ではない。

 今まで他人に魔法を教えたことなんて無いだろうし、当然と言えば当然か。


 でも、なんとなく分かったかもしれない。

 言語化してほしかったけど、僕の能力でユーリの考えをギリギリ読み取れた、はず。


 まずは魔力だ。

 これが無いと始まらない。

 でも、僕は魔力というやつを感じ取れたことがない。

 それをユーリに正直に伝え、どうすればいいかを尋ねる。


 ユーリはきょとんとした顔で僕を見てくる。

 ユーリのそんな反応が少し怖い。

 もしかして僕には魔力が無くて、魔法が使えないんじゃないかと少しずつ思い始めていたからだ。

 だけど、ユーリは納得した表情を浮かべて、僕に近付いてしゃがみ込む。


「今からヒカリ君に魔力を送るから、魔力を感じ取ることに集中して」


 そう言って僕の胸に手を当ててくる。

 僕は思わず距離を取りそうになるけど、ユーリの真剣な表情を見て思い止まる。

 推しに触られると、なんだかいけないことをしている気分になる。


「送るね」


「う、うん」


 目を閉じて、集中する。

 邪念を捨てろ。

 ユーリが一人、ユーリが二人……。

 いや、これはダメだ。

 落ち着こう、落ち着こう僕。


「あたたかい」


 ユーリの手からじんわりと広がっていくのを感じ取れた。


「そう、それが魔力。次に魔力を全身に行き渡るようにしてみて」


 深呼吸して、集中する。

 全身に、少しずつ。

 胸から肩へ、そして腕から手に。

 今度は下へと巡らせる。

 大腿から下腿に、足底まで。


「うん、出来てる。ヒカリ君は魔力の扱いが上手だから、すぐ出来ると思ってたわ」


「え?」


 どういうこと?


「森で遊んでる時に魔力で身体を強化してたのを見たことがあるから。無意識でも出来てるし、それに強化するべき時としなくていい時を切り替えてるから魔力が尽きることもなかった。だから魔力の扱いがすごい上手だなって思ってた」


 そうだったんだ。

 あと、ユーリさん。

 自然と頭を撫でるのやめてほしい。

 僕が子供で、教わる側だからしょうがないのかもしれないけど、推しに触られるのは結構困る。

 自然な感じを装って半歩後ろに下がって、ユーリの手を避けてから、次を促す。


「次は魔法だね」


 僕がそう言うと、ユーリは嬉しそうに頷いた。

 やっぱりユーリは魔法の話をしてる時が一番明るい表情をする。

 先程ユーリの考えを見た時に、魔法で大事なのは『名前』と『意味』と『イメージ』だった。

 まだ大事な要素はありそうだし、他にも知るべきことはたくさんありそうだけど、まずは試してみてからでも遅くはないだろう。


「ヒカリ君、私ね……」


「うん?」


「今すっごく良い方法を思い付いたわ!」


 ユーリのキラキラした表情に反して、僕はなんとなく嫌な予感を感じていた。

 だってそのセリフ、完全に良くないフラグだもん……。



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推しの人生に介入してしまった!? ひなたさん @hinatasan

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